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貴女にサイありて  作者: 花月アイコ
落とすはひと粒の雫

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18/22

第一八投

 店員さんに「ごちそうさまでした」と伝え、カフェを出る。

 

 コーヒーと本の匂いが名残惜(なごりお)しい。今度は、店内に置いてある本をゆっくり読んでみたい。

 

 高清水さんやバッケちゃんと一緒に出かけるのは楽しいが、一人でいるのも好きだ。だからといって、デート中なのに、つい自分の内にこもってしまうのは悪い癖。改善できるように努力したい。


「次はどこに行く?」


 お腹も満たして、これで、どこまでも高清水さんに付いていける。

 

 ……でも、先ほどのシフォンケーキ。二人でシェアのはずが、八割方はわたしが食べてしまった。

 あーんも高清水さんが一方的にやってくれて、わたしは高清水さんにあーんできなくて悲しい。考えられる原因は、わたしのスプーンを持つ手が震えていたからだと明らかなので、帰ったら腕の筋トレをしてみよう。


「今やっているイベントは……桜祭りが公園でやっているのよね」

「うん」


 桜祭りの会場となっている公園は、お城の跡地にあるため、坂や階段を登らないといけない。駅から徒歩十五分で着きはするが、桜を見るのに、人混みをかき分けてまで行きたくない。

 高清水さんが行きたいと言うのなら、別に付き合うけど。なんなら、高清水さんをおんぶして坂や階段を登っても大丈夫。


「……じゃあ、一つ提案をいい?」

「わたしにできることなら」

「映画を観にいかない?」

「ほぉ」


 確かに、映画はデートの定番。桜祭りよりは断然いい。


「高清水さんは観たい映画があるの?」

「気になっていた作品がちょうど上映されていてね。恋愛物だけど大丈夫?」

「見ないけど、高清水さんが見たいのをわたしも見てみたいかな」


 映画の出演者情報を見ると、最近バッケちゃんがカッコよさの参考にしている女優さんも出演しているらしく、楽しみ具合も上がってくる。

 

 どうしても、わたし一人では見るものも偏ってしまう。旅番組やネイチャー系も見てて楽しいが、視野を広げてみるのも悪くはない。

 そういう意味では、カフェのテーブルに置いてあった、落語の本も巡り合わせを感じてしまう。落語の人情噺(にんじょうばなし)を手に取る機会なんてそうそうない。


「よかった〜えっと、上映時間は……」


 久しく映画館へ行っていない気がする。映画館の勝手もわたしには分からないので、高清水さんに一任させてしまう。


「ツイているね! 一時間もしないうちに上映するみたい」

「それなら映画館には早く着いちゃうけど、移動諸々も含めたらバッチリだね」


 穏やかなイメージのある春風とは違う、唸りあげる強い風に背中を押されて歩きだす。エスコートとまではいかないが、土地勘のおかげで案内ぐらいはできる。風よけにもなればいいなと思い、高清水さんの前を歩く。

 

 この近くに桜の木はないが、桜吹雪の残り痕が足元に広がっている。おそらく、桜祭りの会場となっている公園で咲いた桜が強風に乗ったせいだろうか。これだけ桜の花びらが散った痕を見ると、桜の見頃も終わっていそうだ。

 あぁ……理由もなく、右手で左手首を強く握ってしまう。桜が散ったように見える痣を握りつぶしてもいいぐらいに――


「デート中なので、日運さんの手をお借りします」

「はへっ?」


 間抜けな返事となってしまったが、これはしょうがない。後ろを歩いていた高清水さんがいつの間にか左隣りに居て、わたしの左肩をつーっとなぞる。

 驚いたことで右手も左手首から離してしまい、宙ぶらりんの左手を高清水さんがかっさらっていく。


「手……冷たいけど、温かいね」

「なにそれ」


 手が冷たい人は心があたたかい、とかなら聞いたことはあるが、冷たさと温かさは両立するのだろうか。

 いずれにしても、高清水さんの手は()()()()()()()温かい。




「日運さんお待たせ。チケットはこれね」

「ありがとう」


 チケットの購入も高清水さんに任せてしまった。

 自動券売機ではなく、スタッフが手作業でチケットを販売しているのは、()()びに当てはまるのだろう。GW期間なのに館内はすいていて、いい席も取れたのに寂しさを感じる。


「ドリンクはどうする?」

「お茶は……一応欲しいかな。今はお腹いっぱいだけど、上映中にのどは渇くかもしれないし」

「了解。私も同じものを注文してくるね」


 もう一度、高清水さんを受付カウンターへ向かわせてしまう。チケット代料金は当然として、ドリンク代と、手数料も上乗せして払いたい。

 そもそも、ドリンクの料金が分かっていなかった。わたしも高清水さんの後をついていき、真後ろから受付カウンターに置いてあるメニューを見る。


「えーぇぇ」


 ドリンクの料金だけを見ればよいものを、ポップコーンのフレーバーに()()()()()()の味があり、凝視してしまう。

 いぶりがっこは嫌いじゃないし、むしろ、漬物の中ではダントツ好きなぐらいだ。それでも、ポップコーンのフレーバーとなると抵抗感が強い。


「もしかして、いぶりがっこのポップコーンも食べたいの?」

「いや、がっコーンは丁重にお断りさせていただきます」


 お辞儀の角度は九十度。謝罪時の姿勢とツイていなさには、腕に覚えがあります。


「私もお腹がいっぱいだからね。次、日運さんと一緒に来たとき、頼んでみようかな」

「……そうだね」


 まだ、今日どころか、映画すら観終わっていない。それでも、次もそれとなく映画を観に行きたいと言ってくれて光栄だ。だったら、いぶりがっこのポップコーンも食べてみたら、案外美味しいのかもしれない。



 ほの暗い通路を進み、中央やや後方の指定した席に座る。二人きりだけの劇場とはならなかったが、人はまばらで、そんなに気にはならなさそうだ。


「まもなく始まりそうだね」

「ええ、とっても楽しみだよ」


 左隣りに座っている高清水さんから、弾んだ声が返ってくる。

 劇場内がさらに暗くなり、いよいよ幕が上がりそうだ。



 序盤のストーリーは、高清水さんの言っていたとおり、恋愛ドラマだった。

 主人公の女の子は、自分の意思とは関係なく人を惹き寄せてしまう能力が備わっていて、登場するキャラクターをことごとく魅了していく。困惑しつつも、充実した日々を送っていたが、突如(とつじょ)として、宇宙から隕石をも引き寄せていたことが発覚する。


『幼いころからずっと憧れていたお姉ちゃんと、こうして一緒に宇宙へ行けるなんて夢のようだよ』

『何があっても護ってやるからね、絶対に地球へ帰るわよ!』


 なんと、クライマックスは宇宙飛行士で血の繋がっていない姉と、主人公の二人だけで、引き寄せてしまった隕石を破壊するために政府から奪ったスペースシップで宇宙へ飛び立つ。

 そして、隕石を破壊する間際、スクリーンは暗転し、そのままエンディングが流れたのであった。


「…………」

怒涛(どとう)の連続だったね」

「………………え?」


 劇場内が明るくなり、放心状態の高清水さんに声をかけるも、ワンテンポ遅れての反応だ。恋愛物のつもりで、この隕石ENDを見せられたら無理もない。

 

 わたし個人としては、B級映画感が満載で面白かった。特にエンディング後のポストクレジットシーンで、スペースシップに乗っている主人公の安否じゃなくて、主人公姉妹と全く関係のない、バッケちゃん推しの女優さんがそれっぽいことを語って終わり。

 他にもツッコミどころはあるが、家でまったりした気分だと面白いタイプに思える。


 デートで観るタイプの映画かと問われたら……バッケちゃんなら楽しんでくれるよ……たぶん…………


「……胸がときめくシーンはあった?」

「出演する演者さん方は美男美女が揃っていたね」

「…………エモーショナルなシーンはあった?」

「序盤で主人公が告白されまくるシーン。終盤のスペースシップを奪う場面で、告白した千人もの人達がオールスターで主人公を助けてくれたのは痺れたね」

「観てよかった?」

「高清水さんとなら」


 どれも正直な感想のため、(よど)みなく答えることができた。 

 それを受けた、アルマジロみたいに高清水さんが頭を抱える。この仕草が、映画に出演していたどの俳優さんよりもカワイイ。


「……ンジ」

「ん?」

「日運さん、必ずリベンジするよ!」


 真面目に話している、高清水さんに対して失礼なのは分かっているが、どうしても笑いを抑えきれない。

 わたしも「リベンジしようね」と言いつつ、目の前にいる高清水さんのことしか考えられなかった。

次回の更新は、1/20(火) 21時ごろを予定しております。

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