第十一投
保健室から準備室を経由して体育館へ辿り着く。
全校集会に遅れてもいるのにも関わらず、洗面所にも寄ったが、ホコリウーマンとして体育館に入場するよりギリ大事な気がする。
体育館後ろ出入り口に繋がる廊下、五メートルぐらい手前から忍び足になってしまう。こういった行事の途中で体育館に入るのは、圧や視線を全身で浴びるように感じられキツい。
全校集会自体は予想通り始まっていて、教頭先生がありがたいお話を述べていた。
GW前だから気を引き締めるのは大事だとは思うが、校長先生は風邪を引いたせいで本日休んでいると聞いた。風邪予防的には、体育館に集まるのはマズイではないだろうか?
そろり、そろりとクラスメイトが並んでいる列の最後尾につく。出入り口の扉は先生が約束していた通りに開いていたし、クラスメイトの皆んなも特に気にする様子がない。
それでも、列に並ぶとクラスメイトと目が合い、理由もそこまでないのに会釈すると会釈で返してくれた。ついでに、背が高いのですぐに気付いたが、バッケちゃんは立ったまま船を漕いでいる。あれこそ、豪華客船みたいな豪快さだ。
教頭先生の話が終わり、次に保健室の先生が教壇へ立つ。案外、教頭先生の話は早く終わったので、配慮が合ったのかもしれない。出入り口の扉や窓も開いているから……換気も整っていたし…………
頑張って前向きに捉えようとしたが、流石に限度もある。
内心で勝手に思ってしまう。保健室の先生が、現状を密です、と言い切って学校側に釘を刺してほしいと。
そんなことを考えていると、話をはじめた保健室の先生を遮るように、一人の生徒が叫びあげる。
「学校内で煙が見える! 火事だ!!」
わたしも釣られて見てしまう。煙は勢いよく立ちのぼり、色は黄色に近く、炎が燃え盛る姿もかすかに見える。煙の位置は現在地から距離が少し遠く、体育館で避難する分には、落ち着いて適切な行動を取れたら、ほぼ全員大丈夫だろう。
――でも、大事なのはそこでない。だけど、こんな碌でもない考えは当たってほしくない……
キ――――ン、キ――――ン。
『火事です、火事です、火災が発生しました』
間髪入れずに防災ベルがけたたましく鳴り響き、続けて自動音声アナウンスが流れる。
先生方も最初は、急な火災に戸惑っていたが、今はもう、安全確認と体育館に集まっていた生徒の安否確認をしている。
体育館にこれ以上取り乱す人はいないが、ザワザワと動揺を隠しきれない。
『ただいま一階で火災感知器が作動しました』
自動音声アナウンスの続報を聞き、最悪の予感が当たってしまったと決めつける。左手首の痣には違和感がないものの、たぶん、わたしが経験した今までの不幸とは比にならない。
「日運さん待って!? どこに行くの!?」
「えっ、さーさん!?」
――駆ける。体育館に集まっていた他の生徒や先生方を掻い潜り、体育館後方の出入り口を走り抜けた。
呼び止めようと、たくさんの声がわたしに降り注ぐ。それらを全て跳ね除けて、とにかく走る。
だって、だって……火元には高清水さんがいる。
実際に高清水さんのいる保健室が火元なのかは分からないし、例え、保健室が火元だとしても既に高清水さん逃げたのかもしれない。
「……はぁ」
ただ、煙の出処が保健室付近だっていうこと、高清水さんが体調不良、それなのに先生方も人手不足で高清水さん以外無人の保健室。災害時に個人で独断行動したらダメなのは分かっていたが、気が付いたら、わたしは保健室まで走るしかなかった。
「……はぁ…………はぁ」
そんなに走っていないけど息が苦しい。苦しいのに足は動いてくれる。中学時代はこの時のためだけに陸上をしてきたかもしれない。
わたしの不幸が起因でないのにこんな事態ははじめてだ。にもかかわらず、段々精神が落ち着いてきた。
自分の意思で高清水さんを助けたいと思ったからだろう。このことで、周囲に叱られたとしても納得しかない。
前にわたしが体育のバレーボールでボールを踏み、足を挫いて、高清水さんと一緒に保健室へ向かった時とは違い、体感ではすぐに保健室へ着いた。
火災時で扉を開ける時は慎重に安全を確認し、安全を確保できたら扉を開けた方がいいような記憶はある。
知っていたのにわたしは、一秒でも時間が惜しいあまり、高清水さんの無事を願いながら保健室の扉を開ける――
次回更新は2026/1/2 の予定です。
【2026/1/2 追記】
更新予定日を1/2から"1/3の18時"
に変更させていただきます。




