02. 孵化
「転生…者??」
転生というと、あれだろう。
死んで他界した魂がこの世に繰り返し生まれ変わって現れることを指す輪廻転生のことを指す宗教というか、おとぎ話レベルの話だ。
しかも魔王が人間? 何を言っているんだ。
「なにを馬鹿なとことを……と言いたげな顔だね。そうなる気持ちも理解できる。あのだねロアくん。ひとつ君にいいことを教えてあげよう。魔王なんて、そもそも存在しないんだよ」
「は?……じゃあ、お前はなんなんだ。僕と戦った時も魔物を使役し、不可解な魔法で僕たちを攻撃してきたじゃないか。これを魔王といわずなんというんだ!」
「ふぅむ、これを見てもらった方が早いね。ほら"ステータス"」
「わわッ…! これ…は…」
氏名: 綴 真央 (ツヅリ マオ)
種族: 人間
役職: 魔物使い
スキル: 魔物召喚 / 眷属化 / 兵器創造 / 魔力譲渡 / 進化促進 / 身体能力超アップ / 不老 /etc…………
魔王は僕に躊躇なく鑑定魔法"ステータス"を見せてきた。
近年この魔法は個人情報保護のため他人に滅多に見せてはならないとされているので一瞬身じろいだ。
面食らいながらもそのステータスを見ると氏名:綴 真央。種族:人間の文字。
──じゃあ、僕は、勇者になった10年間を人間と戦うために費やしてきた……?それどころか、ただの人間を封印してしまったということに……!?
「あぁ、そんな罪悪感に苛まれた顔をしないでくれたまえ。私も私で魔王としてのロールプレイングをしていた節がある。それに、長年この世界に生きてきて退屈だったんだ。そんな時に君のように強く、そしてその真っ直ぐな瞳に興味が湧いた。だからあえて力を抜いて自分から封印されてみたんだ」
魔王、もといツヅリは手をヒラヒラとふりながらなんでもないというように言いのけた。
自分から封印された? 力を抜いていた?
理解不能だ。しかしその瞳は決して負け惜しみを言ってる訳ではないとわかる。
「でもこれには参った。君の剣。凄いね。封印されてみて君をちょっと観察するつもりが出られなくなっちゃった☆」
「……」
コツン、と自分の頭に拳を当て舌を可愛らしく出す彼女はとても茶目っ気があったがやることが規格外すぎる。
そして無鉄砲。
だれが自ら勇剣シュタールに封印されようと思うのか。
それで出られなくなるのも救いようがなさすぎる。
「ひとつ、聞きたいことがある……。聖王国を筆頭に他国に対して戦争紛いのことをけしかけてきたのはなんでだ? 明らかな侵略行為じゃないか」
「それは誤解だ! 私は私の領地を守ったに過ぎない。私の領土に入り、私の可愛い家族を傷つけた罪だ。それに、ユスティーツ聖王国に対しては私は恨みがあるのだよ。個人的にね」
「恨み……?」
「私は転生者だといったね。十数年も前、私は地球という星にいた。平凡な毎日を送っているただの女の子だったんだ。でもある日私は事故により即死した、のだろう。次の瞬間にはこの世界に強制的に召喚されてしまっていた。──君もよく知っているだろう? あの4人の大司教にね」
「なっ、、そんな訳が……あっ」
『あの女のときも、早く処刑するべきだった。そうすれば魔王に苦慮することもなかったというのに…!』
『あれは失敗作だ。次は適合者を……』
その時僕は思い出した。
処刑の直前。4人の大司教が僕を見下げ言っていたこと。
あの女とはツヅリのことだった?
「これまでの情報で合点がいったかい? 私は彼らに召喚され、あることに使われようとした。モルモットのようにね」
「……あること?」
「不老だよ。あのクソジジイどもは己が歳をとりたくないという理由だけで異世界から不老のスキルを潜在的にもつ人々を召喚してはそのスキルを抽出しようとしている。私も来て早々に実験台にされかけたよ。命からがら逃げ出したがね」
「ッ!?」
なんということだ。教皇や大司教達が今の地位について十数年経つとされているが、あの心優しきフロトリヒ教皇もグルだったのだろうか。
「フロトリヒ教皇は何も言わなかったの……?」
「いや、彼はこのことを知らなかったようでね。彼は牢屋に閉じ込められていた私の逃亡に手を貸してくれたんだ。まさか大司教達の仕業だとは教皇も思わなかったようだがね。それ以来、大司教どもは異世界からの召喚は控えているようだが教皇が殺された今、やりたい放題だね。聖魔法で寿命を伸ばしているようだかもう限界だろう。今更、不老を得たとて……よくやるよほんと」
フロトリヒ教皇がこの件に関与していないことにまずは安堵する。教皇が殺されたのは僕の次期教皇候補の噂が原因だと思っていたがその背景からも色々察することができる。これは推察だが、大司教達の企みにあの御方は薄々感ずいていたのではないか。それを知られた大司教達は口封じのために殺害を企てたとすれば動悸も納得感がでる。
しかし改めてなんという鬼畜だ。教皇もこれでは浮かばれない。
「私が聖王国に対して必要に嫌がらせをしていたのもうなずけるだろう? そんなことを続けているとアイツら。私のことを魔王だなんだと呼んでくる。私の役職は魔物使いだ。魔物を召喚したり眷属にしたりと汎用性が高いんだよね。でも色んな国から悪の親玉として懸賞金とかかけられたことには驚いたね」
「……事情はわかった。──ツヅリさん。まずは、ユスティーツ聖王国を代表して謝罪する。我々の国が貴女に大変なことをしてしまった。本当に申し訳ない。そして君の魔物……家族を俺は数え切れないほど倒してしまった。それについてもお詫びしたい」
「へ……?──ぷっ、あはははははは!」
急にケラケラと笑いだした彼女に驚く。
何かおかしなことを言っただろうか。
普通なら怒り心頭でその国民である俺に八つ当たりしてもおかしくはないはずだが。
「いやぁ、ははっ! ロアくんはほんとうに真っ直ぐなんだねぇ。感心してしまうよ。……いいよ、許す。そして私の家族というのは魔王四天王のことだ。彼女らは最初に私が召喚した魔物たちでね。それ以外はこの世界の元から居た魔物を眷属化しただけにすぎない。だからまったく問題ないよ」
「四天王……? そんな魔物はあの決戦の時には見ていないけど……」
「彼女らは君が魔王城に来ると知らせを聞いたから適当に理由をつけて旅行に行かせたんだ。君、この世界の人間としては強すぎるもん。走るだけで魔物を吹き飛ばし、大振りながらも鋭い太刀筋はさながら範囲攻撃だ。君のお仲間もほぼお荷物だったじゃあないか。そんな化け物に家族をみすみす死地に送り込むわけが無いだろ?」
元パーティ仲間からも言われていたが自分はそんなに化け物に見えただろうか。
かなりショックな事実だ。
だが先程のツヅリのステータスを見るに僕以上の化け物はお前だぞと言いたくもなる。
「……じゃあその彼女ら今頃、封印されたことを知って悲しんでるんじゃ…」
「ふぅむ、それもそうだね。私としても遊びのはずがガチの本気で封印されてしまったもんだから本当に困っているんだよねぇ」
今頃その四天王とやらは怒り狂って僕のことを血眼で探しているに違いない。
本当に申し訳ないです。名も知らぬ四天王たち。
「と、いうわけでロアくん。君にはひとつ、罪滅ぼしをしてもらおうかな?」
「……もう僕はシュタールに串刺しにされて死んだんだ。できることはしてあげたいんだけど…」
「うん。厳密には君は死んではいない。ただシュタールの中に閉じ込められただけなんだ。だから君はこの鎖に繋がられてはないだろう? 大丈夫。シュタールに意思はないけど、ちゃんと君を主人として認識しているよ。──君に私の魔力を半分あげる。スキルもいくつか貸してあげるから生き返って私をこの封印から解いてくれないかな?」
「え、僕はまだ生き返られるの…? 封印はどう解くの? シュタールも今は4人の大司教が持ってるようだった……」
「ははっ! それは簡単。ステゴロでぶち殺すんだ! 所有者がいなくなれば自ずと本来の主人に帰っていくはずさ。ロアくんに所有権が完全に移れば解除してくれたらいい。シュタールも今頃ぷんぷんだろう。汚いジジイたちに強引に動かされて主人を串刺しにさせられるなんてね。ロアくんを鎖で拘束しないのも彼なりの抵抗なんだろう」
シュタールに意思があればツヅリを遠隔で封印を解いてくれといえるのだが……
兎にも角にも、僕は4人の大司教をぶち殺せばいいのだ。
非常にイージーなものだ。彼らには煮え湯をたらふく飲まされている。願ったり叶ったりとはまさにこのこと。
「じゃあさっさく生き返ってみようか! ほらこっちにきて!」
「なになに、何をするん……ッ!」
ツヅリは俺を手招きし、椅子を後ろに蹴飛ばしながらキスをしてきた。
……裸体でなんてことをしてくるんだこの痴女は。
「ちなみに私ははじめてだ! この行為は一番譲渡に効率がいい。ふん、私のファーストキスは高いぞ?」
「大事に取っとけよそういうのは!!……って、光が!」
頬を赤らめているツヅリにツッコミをいれていると俺の周囲を光が包む。
足の感覚からどんどん無くなっていくような不思議な感じだ。ツヅリは倒した椅子を起こし、俺のあげたローブを体に巻きつつドカッと座る。
そしていたずらっ子のような不敵な笑みを彼女は浮かべながら手を振る。
「ハハッ!せいぜい頑張りたまえ!新しい魔王よ!! 色々と弄らせてもらったから楽しみにしてくれたまえ!」
「──は?」
瞬間、光が目の前を覆った。
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