01. 裏切り者
この作品は私の処女作をリメイクしたものです。
「これより、勇者ロア・ウングリュックの処刑を執り行う!」
大勢の観衆に囲まれながら、断頭台に引きづり出され、膝まづかされる。
ここは僕の故郷。ユスティーツ聖王国の広場。
昔はここで仲間たちと鬼ごっこをして遊んだものだ。
俺は勇者としての役職を受け、この世の根源悪である魔王を勇者の剣に封印した。
この国に4人いる大司教。そのうちの一角のアロガン大司教が高らかになにか民衆に吠えている。何やら俺のありもしない悪事をつらつらと並べているようだ。
もう立つ気力もない。ここ数日与えられるのは水だけで、激しい飢餓感に襲われる。抵抗しようにも縛られたものの自由を奪う"魔封じの縄"が首に巻かれておりそれを邪魔した。
絹のような金髪はすす汚れ、童顔で可愛らしかった顔はコケている。蒼色の瞳にハイライトはない。
「この者はこの国の象徴であらされるフロトリヒ教皇を殺害した大罪人である!! 私は見たのだ! こやつに拷問かのごとくいたぶり殺される教皇の最後を! 私は命からがら逃げ出し…仲間の謀反という辛い現実を受止め、勇者を捕縛できる真の英雄達に助けを乞うたのだ!」
頭の上から爪の先まですべて真っ赤な嘘だ。
魔王封印を祝うパレードが終わりを告げ、自室にいた僕にフロトリヒ教皇がお呼びだとアロガン大司教に伝えられて向かった先には見るも無残に惨殺された教皇の姿があった。あんなに優しく、慈悲深かった教皇の顔がくしゃくしゃになるほどに殴打され、殺害された姿に僕は狼狽した。
するとキュッと後ろから首になにかを括られた瞬間、身体に力が入らなくなった。
地面に伏し、這いつくばっている俺を見ながら後ろにいたのは、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべるアロガン大司教とかつて魔王を共に討伐した仲間の姿があった。
魔法使いのレルネン。重騎士のグラハム。この2人は貴族の出ながらも平民の僕に対して対等に接してくれる仲間だった。途中で仲間に入った女盗賊のヘレも少し男にだらしないところをのぞけば良い奴だと思う。
そんな彼らは恐怖と蔑みの色を目に浮かべ、逃げるように僕を置いて早々と部屋から出て行き、大司教が呼んだ聖騎士に捕まり牢屋にぶちこまれて今に至る。
アロガン大司教に呼ばれたかつての仲間たちが僕の前に背中を見せる形で前に出た。観衆に媚びるように手を振り、笑顔を振りまいている。彼らは歓声に紛れ、なにやら僕を横目になにか言っている。
「ようやくこの日が来たかよ。この化け物との旅はほんと長く感じたよ」
「えぇ、この国にとって彼が主人公で我々はモブ。なにをやっても彼の成果。母上にこの化け物の足を引っ張らないようにねと言われた日はさすがにこたえましたよ」
愉快そうに笑うグラハムとレルネン。化け物……僕のことだろうか。
どうやら知らず知らずのうちに仲間から嫌われていたらしい。彼らを信頼していたのは僕だけだったようだ。
「……なん、で、、」
「──はぁ……貴方と旅をしていて辟易していましたよロア。貴方と長くいればいるほど劣等感が大きくなっていく。私たちのことを見下していたのでしょう。平民上がりの癖に生意気にも……! 貴族の我々を差し置いて英雄気取りですか」
「俺らは家の名をあげるために遺憾ながら平民上がりのお前とパーティの話を持ちかけたんだよ。なのに冒険中はお前だけが注目される。おまけに教皇からの推薦を受けて次期教皇候補だァ?? お前の身分でそれだけは絶対阻止しなきゃならん!!」
亡くなったフロトリヒ教皇は僕の身の上を知りながらも、敬意を持って接してくれていた。魔王封印によってフロトリヒ教皇は僕を次期教皇に推薦するという噂もたっていたのも知っている。
頭がこんがらがっている僕にヘレは僕の耳元まで顔を近づけてきた。
「きゃはは、ロア、ほんとにごめんね?? 強いし可愛い顔してるから私は貴方のことそんなに嫌いじゃないけどぉ。最初からこういう計画だったのよねぇ? 私は大司教様達に勇者ロアの動向を知らせるために雇われてパーティに入ったのよぉ。あなたの処刑が終わればたんまり入る報酬で、私はこの国のイケメンを集めて隠居するの。だからぁ、悪く思わないでね??」
なんとも自分勝手なものだが彼女とは冒険中もこういうやつだったのを思い出す。いざ敵になると非常に薄情なものだ。
気がつくと四人の大司教が僕を囲むように立っていた。
4人の名前は
アロガン大司教
ファート大司教
ゾニア大司教
キビル大司教
僕が産まれるずっと前より生きている大司教達。
噂では魔法で老いを強制的に遅らせているらしい。
普段から教皇との言伝を伝えてくるアロガン大司教以外はあまり接点はなかったが、みな共通するのは今僕を明確に蔑んでいる目をしていることだった。
「お主の力がここまで大きくなるとこちらも対策を打たねばならぬのだよ勇者ロア。憎き魔王亡き今、それ以上の戦力が我々聖王国に反旗を翻しでもすれば一夜とて持つまい。危険な芽は早いうちに摘んでおくべきなのだ」
「しかし教皇も馬鹿なことを言ったものだ。平民を我々の我々より上の地位に据えるなど我々が許す訳がなかろうて。だがこれで計画もやりやすくなるの」
「ふん! あの女のときも、早く処刑するべきだった。そうすれば魔王に苦慮することもなかったというのに…!」
「あれは失敗作だ。次は適合者を……」
僕を見下げる大司教達はそう淡々と言い放った。
危険?たかがそんなゼロにも等しい可能性のために僕は殺されてしまうのか。死力を尽くして国のために戦い、この国を救った者に対してあんまりな仕打ちだ。頭がカァッと熱くなるのがわかる。普段温厚な性格であるのは自負しているがここまでコケにされたのは初めてである。
「ムゥッ!? 魔封じをしてもなおここまでの圧…… つくづく化け物だなお主は」
「お、まえらだけは絶対、にゆるさ、ない"」
ギロリと裏切り者達を睨む。
各々冷や汗をかき、目を逸らす。
その最中、頭に鈍い衝撃が走る。生暖かい液体が頬をつたる。
「あくまッ! 信じてたのに!!」
「こらっ、やめなさい……」
「きみは……」
どうやら石を投げつけられたらしい。
その投げられたであろう方向を見てみると小さな男の子。
彼は僕が勇者としてこの国に帰ってきた日に話しかけてきた少年だった。
『勇者様みたいになるにはどうすればいいの!?』
興奮した様子で僕に言葉を伝えてくるのは年相応でとても可愛らしかった。僕を目標にしてくれる人がいることは幸せだなと感じた瞬間でもあった。
目を赤く腫らし、母親であろう女性に連れていかれた。
冷水を突然頭にかけられたの如く血の気が引く。
「ほっほっ! お主も嫌われたものよのぉ! ──皆の者! これより大罪人の処刑に移る!」
大司教達が天空に向かって両手を掲げる。
途端に空中で集まる光の粒。やがてそれはひとつの剣になった。
「シュタール……!」
勇剣"シュタール"
かつて、凶悪な魔人からエルフ族を救った際に授かった勇者だけの剣。
エルフ族が守る世界樹の枝木から作られた唯一無二の剣であるシュタールは貪欲なまでに魔力を吸おうとするため、魔力が桁違いに多い僕にしか扱えなかったものだ。そしてその魔力吸引力はこれまで戦ってきた魔物や魔人の魔力を吸い上げ、全てを内包している。そして今回の戦いにおいて魔王封印の触媒にしたものでもある。
「普通の剣や斧では歯が立たんからのぉ……魔封じをされたお主が果たしてシュタールの魔力吸引に耐えられるかの? 悪しき魔王と共に封印されておれ!!」
ふつふつと怒りが沸きあがる。
エルフ達が心血を注いで贈ってくれたこの愛剣をいいように使うだけにとどまらず。死力を尽くして戦い、やっとの思いで封印した魔王がいる剣で僕を殺すとは。
───自分の中でなにかが切れた気がした。
「おまえら……! ぜったいに許さないぞ!!僕がお前らをまとめて、地獄に叩き落としてやる!!」
「ッ!? まずい! お主ら!!早く仕留めるぞ!!!」
空間が揺らぐ。
魔封じを破壊する勢いで底にある魔力をすべて放出する。
突然の圧に体制のない国民は倒れ、混乱する。
かつて仲間だったやつらも怯えた表情で尻もちを着いている。
焦る大司教達の手が素早く振り下ろされる。
それに呼応するようにシュタールは僕は心臓めがけて音を置き去りにしながら迫り、、
───ドスッ
胸から串刺しにされた。
生命活動に使用されていた、なけなしの魔力がどんどん吸われていく。
空間のゆらぎは収まり、張り詰めていた圧がなくなる。
愛剣に殺されることになるとは思わなかったが不思議と痛みはなかった。床に滴る血と汗を眺めながら僕は静かに目を閉じた。
――――――――――――――――――――――――
「──ん、ここは? ……ッ!」
バッ、と胸を突き刺されたはずの胸を見る。
そこには綺麗な肌。傷跡は何も無かった。
全てが白い空間。
奥行きがあるのかないのかどうかも分からない無限に続くような白に辺りを見回してしまう。
「ようこそ、ロア・ウングリュック」
「うわっ!え? どこ??」
いきなり声をかけられてビックリする。
凛と響く滑舌のいい女性の声だった。
気がつけば空間に扉がポツンと立っていた。
声の発生源はあそこらしい。恐る恐るガチャリと扉を開けて中を覗く。
扉の先にいたのは相も変わらず白く広がる空間にひとつの椅子に腰掛けている女性だった。腰ほどまでに伸びる黒髪をなびかせ、赤い目で顔を覗き込んでくる。
そして彼女は、、裸だった。
「こんな姿ですまないね、久しぶりだ」
「ちょッ! ふ、服! これ被っていてください!──これは」
ローブを脱いで彼女に渡す際に見えた。
スレンダーな彼女の四肢を繋ぐ光の鎖。
「この鎖は一体……ん? 久しぶり??」
「なんだ? 覚えていないのか?……あぁ、この姿と声じゃそら気づかないな。ん"ん"──我を忘れたとは言わせぬぞ勇者ロアよ」
「ッ!?」
その声に聞き覚えしか無かった。
瞬時に体が臨戦態勢に入る。忘れようもない、その圧。圧倒的強者の余裕。
あの決戦でシュタールに封印した魔王のものだった。
「落ち着いてくれ。確かに私は魔王と呼ばれていた存在だがね」
「……ここはどこなんだ…? 僕は、死んだのか?」
焦る魔王から敵意がないことだけはわかる。
ここは落ち着いて話を聞いてみる。
その様子にフゥっと息を吐く魔王は椅子の背もたれに片腕を乗せて足を組む。
「全部見ていた。君が仲間に裏切られ、民衆に裏切られ、最期は愛剣で突き刺され殺されるところも。……あのクソジジイどもは本当に学習しない」
彼女は爪をガリッと噛んで怒りを露わにする。
困惑する僕を見て少しはにかんだ様子でゆっくり指を指してくる。
「ロア・ウングリュック……ロアくんと呼ばせてもらうけども、きみは魔王について何を知っている?」
「……魔王とは人類にとっての根源悪であり、人間を滅ぼすことを目的にする怪物だと学校では習った」
「ふむ、年月が経つと学校教育にまで浸透しているのか。どこから話したもんかね……そうだな、───私はねロアくん。こことは違う世界から来た人間。いわゆる転生者というやつだね」
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