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「"推したい"婚約者」ー推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。ー  作者: 烏賊


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3章「vs麗しきご令嬢」_2話:親友と女子会

本格的な冬の寒さが厳しく、連日降り積もる雪で中央区も真っ白に装飾されている。

この日、アンジュ・ブルナーは中央区で暮らす親友宅で、女子会を楽しんでいた。


女子会に参加しているのは、親友が3人。

まずは1人目。


「逆にマウントされたから驚いたのでしょう?」


この屋敷の主人である、ビアンカ・リエヒティ。

アンジュの話を聞いてたまらず笑ってしまい、目尻から溢れた涙を拭っている。

リエヒティ家は魔術師の家系で、薬や植物などの薬学に精通した事業を経営している。1人娘であるビアンカは、次期侯爵である。

アンジュの2つ年上で、夕日のように輝かしい髪を巻いている。2メートル超える身長が誰をも惹きつける。すでに結婚しており、婿入りした夫とも仲が良い。

なによりアンジュたちに推しの概念を布教した、ロイヤルファンだ。大陸中の王家や国家代表に精通し、ファラデウス代表の息子とその婚約者を1番に推している。






次は2人目。


「その上自分を褒めてくる。恐怖でしかないわ。ふはははっ」


未だ笑いが止まらず腹を抱えているのは、アンジュの幼馴染であるララ・ウェンガー。

真黒な髪を肩で揃え、小麦色の肌がよく似合う美女である。背丈はアンジュより少し高いぐらいだが、スラリと長い手足に、身体の柔らかさでは4人の中で1番だ。

アンジュがアルフレードに想いを寄せていることを見抜いたのは彼女である。

訳あって母方の祖父母、ウェンガー伯爵家の養子となった。叔父夫妻と中央区で暮らしている1人でもある。

通っていた学園が同じだったことからアルフレードとも顔見知りだが、お互い性に合わず話す機会はあまりない関係であった。

女性歌劇団の公演を観るのが人生の癒しで、毎月必ず通っている。






「うむ。生半可な気持ちでアンジュに声をかけた方が悪い」


最後の3人目は、サーラ・ローサ。

可愛らしい薔薇の色を思わせる髪色に、鍛え上げた強靭な心身は戦いの女神像のよう。

4人の中で1番年下の18歳。ローサ家は代々、北東の神聖守護団に属する。父親と共に、彼女もそこで働く聖騎士の1人である。保護、または討伐対象である幻獣種に詳しい。

1に鍛錬、2に特訓と心身を鍛えることを愛している彼女だが、年相応に恋愛にも興味を持っている。

あらゆるカップリングの恋愛本を読み耽り、その本を題材にした創作活動にも精を出している。噂話にもこと欠かさない。

アンジュの得ているロマンス知識は、彼女から貸りた恋愛小説が主だ。






ビアンカ、ララ、アンジュ、サーラの4人は子供の時に出会ってから、10年近い付き合いがある親友であり、お互いの腹黒いところもさられ出して来た悪友である。

それぞれ目を引く特徴があったことから"亜種動物園"と称してつるんできた。ビアンカは麒麟、アンジュは魔キツネリス、ララは人喰い大蛇、サーラはマッドベアを自称している。


生活拠点が違う”亜種動物”たちが会って話すのは半年ぶりだ。

国防に携わる団体と軍との会議があり、神聖守護団の長の付き添いでサーラが中央に来たのだ。

中央に4人が集まるならと、ビアンカの屋敷に今日はお邪魔している訳である。

仕事ではないアンジュの格好は、瞳の赤を落ち着かせた色合いのセーターに、生地の厚いパンツスタイル。肩まで伸びた真っ白な髪を襟足の位置で結んでいる。ふわりとした毛質と相まって、尻尾のよう。ビアンカたちがぴょこぴょこと指で跳ねて遊ぶほど人気である。

3人も気の知れたメンツで集まると、リボンとフリルいっぱいのワンピースや、シンプルなタートルネックとタイト目なパンツ、ゆったりとしたシャツにロングスカートといった好きな格好である。メイクもネイルも、アクセサリーも思い思い。部屋の中が華やかで、実に


ビアンカの部屋で、お菓子やお土産の数々を広げてプチパーティー。会えていない間に積もり積もった日々の出来事。近況や仕事のこと、最近あった珍事を話していた際に、ララが中央での"アンジュ無双"を切り出した。面白そうな話題にビアンカとサーラも乗り、アンジュは1番最近の出来事を話したら笑いが起こったのであった。


「誰も彼も、アンジュが領土を治めている一族だと忘れているのよ」


「これではライオネルさんも頭を抱える理由がわかる」


「ふふふ。けど、こんな感じでさ。アンジュに食ってかかって返り討ちに合うのが多いの。笑えちゃって笑えちゃって」


ララの言葉に、アンジュは唇を尖らせる。確かに彼女たちが舐めているのは重々承知しているが、もし仲良くなればアルフレード語りができるのではないか、と言う期待がある。軍学校で得たアルフレード推し友達のように。

まずは彼女たちの持つ推しの情報から会話の糸口を得ようと話を聞いていたのに、最後は必ず逃げるように立ち去ってしまう。

寂しい限りだ。


「ところで…貴女いつの間に彼の身体について詳細に語れるようになったのよ」


ビアンカは手を伸ばし、アンジュの柔らかな頬をその長い指で撫でた。

会話の言葉をしっかりと逃さなかったビアンカに、アンジュはたちまち顔を赤く染める。


「もしかして!…一線越したのか?」


「違うよ?!」


ラブロマンスの香りに目を輝かせたサーラに、アンジュは慌てて否定した。

親友たちには長年推し語りを聞いてもらってきたが、恋人としてのエピソードを話すのはまだ気恥ずかしいアンジュ・ブルナー、20歳。しかし変に隠せば誤解を生むと、素直に白状することにした。

答えは至極簡単。

アルフレードが、アンジュの借家に頻繁に泊まるようになったからであった。昨年彼が荷物を用意してからというもの、週に1度は必ず泊まりに来る。多いと週の半分はアンジュの元で過ごす。彼女にとっても、遠距離から至近距離となった婚約者兼推しとの時間は嬉しくてたまらない。

が、彼には困った習慣があった。その1つに、お風呂上がり、上半身に何も羽織らないまま出てくるのだ。「冬なのに?」という疑問はアルフレードへお願いしたい。季節問わず、火照った体のまま服を着るのが汗をかいてしまい気持ち悪いと彼は説明している。


上腕二頭筋。

三角筋。

広背筋。

腹直筋。

外腹斜筋。

以下は略させてもらう。全てを言い出したらあまりにも長くなってしまう。


((聖遺物はきちんとしまって欲しい!))


アンジュは毎回、悲鳴を上げてしまうのを必死に耐えている状態だ。


「美しい御身の輝きに目が潰れます」とは言えず、「風邪を引くから服を着て欲しい!」などと健気な婚約者を演じて訴えているが、アルフレードは少し渋っている。

命に関わるためアンジュも引けない。

現在確実な対策を模索しているところだ。つまりは入浴後半裸族になるアルフレードの習慣のせいで、アンジュは彼の身体を知るようになったのだ。


「ただの惚気だった。もっと際どいのはないのか?」


「お腹の足しにもならないわねー」


「聞いたのはそっちなのに」


ビアンカとサーラに溜め息をつかれたアンジュは抗議した。


「それ…アンジュの反応楽しんでるんじゃない?」


「そうなの?そんな事ないと思うけど」


アルフレードのそぶりを思い返しても、わざとやっている様には見えなかった。


「いーや、わかんないからね?アイツが何考えてるかなんて。そもそもアンジュの周りの男性が紳士すぎなの。そのままフワフワしてたら、食べられちゃうんだから!アンジュが中央に移動してから、あからさまに浮かれてるし」


ララはアンジュに詰め寄った。

アンジュとアルフレードの仲を全力で応援しているララだが、いまいち男の機敏に疎いアンジュが心配でならない。大好きな親友が、アルフレードの良いようにされるのが気に入らないのだ。特に冬からのアルフレードの浮かれようは、遠くから見てわかるほど。あからさまに元気な日は大抵アンジュと登庁しているのだから、いやでも状況を察してしまう。もっと進展したらあっさり食べられてしまいそうなアンジュにもっと危機感を持つよう促すも、本人は首を傾げるばかり。


「前から思っていたんだが…。アンジュ、まさかそっちの知識がないとは言わないよな?」


昨年ようやく成人を迎えたサーラから、男女の仲について心配されてしまった。


「一緒に成人向けロマンス本を読んだじゃん」


「それ以外は?」


「…目下勉強中」


流石のアンジュも、男女の営みは知り得ている。しかし知っているのは基礎的な部分であるし、深い部分については絶賛勉強中ではあるが。一般的常識と、親友から借り受けたロマンス本で得た知識、そしてアルフレードとの触れ合いでのみでしか知り得ていなかったアンジュの知識は、ここ1、2ヶ月ほどでかなり充実してきている。

然るべき教育に力を入れている、アンジュの家族のおかげである。

素直に現状を伝えれば、ララが祈り始めてしまった。


「セレストさん、がんばってくださぁい!」


「これ以上頑張れたら困る!一杯一杯なんだって!」


耐寒の日に実家に戻ってからというもの、忙しい合間を縫って姉・セレストから宿題を出されて、知識を詰め込まれているアンジュは本当に悲鳴を上げた。

その反応に、マカロンをかじりながらビアンカは続ける。


「普通、好きな人といたら妄想膨らまない?」


「自主規制で妄想が止まる」


「自主規制ぃ?」

「自主規制!」


ララとサーラの声が重る。2人の目線から逃れるように、すっと赤い瞳がそらされた。

旧時代にあった機械のシステムが、人間に搭載してしまうなどあり得ない。彼女の兄で発明家でもあるコトレットが無駄な機能を搭載したのかと冤罪をかけたくなる発言に、アンジュがいかに純朴に過ごしてきたのか改めて噛み締める3人。セレストたちの気苦労が目に浮かび、苦笑が浮かんでしまう。

ビアンカが差し出したマカロンを、口で受け取るアンジュ。もそもそと動く様は小動物だ。ふわふわ揺れる白い髪を、拭った指で撫でる。


「ご家族も大変だこと。今度お菓子差し入れしようかしら」


「場数が足らんのだ、場数が。自主規制など生ぬるい」


「試合か。折角中央にいるんだし、もっと2人っきりで特別な思い出作りをしてみれば?」


耐寒の日は一緒に過ごしたとアンジュは堂々と胸を張ったが、家族行事は換算しないと相手にされなかった。


「近いイベントは、来月の愛の日…あとは」


「花祭りだろう!は、な、ま、つ、り!」


サーラが声を上げた。拳を握りしめ、勢いよく立ち上がる。


「我らがファラデウスで、恋の物語が始まる祭日だぞ!」


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