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"推したい"婚約者  作者: 烏賊


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2章_番外編『12匹のポエテランジュの子ども達_2』

2章_番外編『12匹のポエテランジュの子ども達_2』


「こんばんは。遅くなりましたが、明けましておめでとうございます」


「…本当に来た。おめでとう」


アンジュのこととなればアルフレードの対応早い。

仕事をどうにか終わらせ、アンジュに教えてもらった場所に出向けば、セオドアと精霊2匹がいた。


「どうも。アフも、ヌフも久しぶり…です」


(まだ敬語か)


基本人見知りであるアルフレードは、慣れた相手でも長く会っていないと距離感がわからなくなり敬語に戻ってしまう。もう3年近い付き合いがあるのだからいい加減精霊たちだけでも慣れればいいと思っているが、人の性格は変えられない。本人もひどく気にしているため、セオドアも追求しない。


「ンン…」


ヌフはアルフレードを見るなり、アフの後ろに隠れてしまう。大きな瞳に涙を潤ませ、睨みつけている。


「ヌフ。トお兄さんと、アンジュから事情は聞いた。約束する。ヌフが中央にいる間は、絶対に邪魔しない。存分にアンジュたちに甘えて欲しい。けど、あの、どうか…花祭りの打ち合わせのときは許してくれないでしょうか…!」


アルフレードが両膝をつき、組んだ手を掲げる。あまりにも必死な懇願に、セオドアもアフも口を開けて呆然とアルフレードを見下ろした。

要件がわからないヌフは困った声で鳴いた。


「あー…ヌフ、ほら衣装の件だよ。アンジュが楽しみにしてるだろ?」


春を迎えると、国で大きなイベントが開かれる。イベント期間に開かれる夜会に参加するため、去年から色々と準備をしているのだ。本番に向けて微調節をしていく時期に入っており、どうしてもアンジュと合わないといけない時が出てくる。


『今回私がアルフレードのタキシードもデザインするんだよ!楽しみ』


アンジュが楽しみに準備しているのを知っていたヌフは、彼女が悲しむのは見たくないと特別に認めることにした。「ン!」とアルフレードにしっかり頷いた。


「ありがとう」


催促されたためアルフレードは狭い額を撫でてやれば、ヌフは満足げに鼻を鳴らした。


「で、後ろさんは何用?」


セオドアはアルフレードの後ろに目を向ける。そこには彼の上司であるエゼリオとマーギットが場を邪魔しないように息を潜めていたのだ。


「毛玉ちゃんを撫でたく伺いました!」


純粋な眼。エゼリオの目的はヌフであった。1日中噂になった白い毛玉を撫でてみたい。アルフレードがセオドアと会うと知り、付いて来たのだ。

マーギットはそんな班長の見張りである。

ヌフが許可を出したため、エゼリオは頭を撫でると、たちまち柔らかな毛に陥落した。

マーギットも催促されたので恐縮しながら優しい手つきで撫でれば、いたく感動したようで、口元を押さえ耐えていた。


「これは貴重な体験を…。ありがとうございました」


「ありがとうございました。んじゃアルフレード帰るぞ」


「あ、はい、それでは。うぅ」


丁寧に頭を下げた2人の上司は、アルフレードの首根っこを掴むと引っ張っていった。2メートルの男が、引きづられていく。情けない顔で去るアルフレードに手を振りながらヌフはアフを見つめる。




なぁにあれ?


世にも面白い人たち。悪い人ではないから、俺もアンジュにも頼れない状況になったらあの人たちなら力を貸してくれるはずだ


ふーん




「お待たせ!」


「ピュイ!」


アルフレードが立ち去ると、アンジュがようやく姿を表した。仕事が押してしまい、待ち合わせに遅刻してしまったと詫びる彼女に、ヌフは勢いよく抱きついた。


「1日楽しかった?」


「すごい人気だったよな?なぁ」


帰りまでに山盛りに積み上がったお土産。デスクに置いたままでは虫がたかると、袋にまとめ持ち帰ることにした。セオドアがアンジュに戦利品を見せる。1袋しっかり重みを感じる量に、アンジュは驚いた。


「こんなに。今度お礼しないとね」


「好きでやってんだ。気にしなくていいと思うが。まぁお菓子準備しとくわ」


「私もお金出すよ」


ゆっくり借家へ帰る。

道すがら、アルフレードと話したとセオドアから教えられた。頭を撫でられ満足気なヌフに、アンジュは目を細めた。


「ありがとうね、ヌフ。そうだ、明日からヌフを連れて行けることになった」


アンジュは胸ポケットにしまっていた許可証をひっそりと見せる。許可が降りるのに時間がかかる代物に、目を丸くするセオドア。アンジュは声を潜め、耳打ちする。


「…班長、耳ちょっとやられたみたい」


「あぁ。それはお気の毒様」


出社するや否や班長ウィリアムに許可証を手渡された。なぜか耳を抑え、痛みに耐えているウィリアム。


『はやく寂しがりやをなだめてくれ』


いつもは優雅に舞う彼の風の精霊も、憂鬱な表情を浮かべている。日頃の情報収拾で、うっかりヌフの鳴き声を拾ってしまったのだと察したアンジュは、ありがたく許可証を受け取ったのであった。


「キュイ!ピュイピュ!」


詳しい事情の知らないヌフは、とにかく明日から一緒に過ごせることを純粋に喜んでいる。妹の喜ぶ隣で、アフは大きなあくびをしながら夕食に思いを馳せていた。






それから。ヌフは姉弟たちや、時間があれば様子を確かめにきたブルナー家族とともに、たっぷりアンジュたちと、時間を過ごした。

平日は仕事場に通い、軍所属の他の精霊遣いや、アンジュの上司と契約する精霊の訓練相手として活躍し、ライオネルの許可の下で魔術研究の手伝いに関わった。アンジュの元にやってくる、香りのキツイ不埒者が現れれば威嚇、追い出したりもした。

休日はのんびりと過ごすこともあれば、少し遠出をしてピクニックや森林浴、アスレチックパークで遊んだ。

打ち合わせの時に会うアルフレードにも存分に甘やかしてもらい、寂しさを感じる隙間がないほど。毎日充実した日々を過ごす。


「チュ、チュ」


「ん?どうしたの」


名前を呼ばれ、アンジュはヌフを抱き上げる。小さな毛玉は彼女の頬に顔を寄せる。


「ピュピュイ、チュ?」


「うん。帰るよ必ず。私1人でも」


「ピッ。キュ」


アンジュの答えに満足した寂しがりや毛玉。存分に満足した彼女は、西に帰ることにした。






「え、列車乗って帰るの?」


ヌフが西に戻る前夜。再び借家に集まったポエテランジュの子どもたちは一斉に頷く。長女アヌが、列車のチケットと1枚の紙を見せる。ライオネルが手配した、召喚公特別車両仕様の許可証である。本人にその位はなくとも大精霊の子どもであることに間違いなく、狭い空間でも他の乗客が萎縮させない配慮である。


「準備満タンだ。でもなんで列車?」


いつもなら次元を通り、自由に行き来する彼女たち。列車を使用するなら5時間以上かかる。今回はなぜ手間をかけるのか。


ヌフが紙と鉛筆を取り出すと、絵を描き始めた。アンジュと、セオドアたちが列車に乗って西へ帰ってくる様子。


「自分でも体験してみたいってこと?」


「ピュイ!」


当たりである。アンジュたちの帰郷と同じ経験をしてみたくなったのだ。姉弟も好奇心が勝ち、ヌフの案に乗ることにしたのだ。アフとフィも契約者の元に帰ることになるのだが、せっかくならと参加する。

お土産を入れるリュックサックも手作りしている。


「よし、ならお弁当も用意しよう!少し材料が足らないから、みんなで買い物行こう!」


店が閉まるまで少し時間がある。アンジュたちは明日に備えて食材を買いに向かうのであった。





「それじゃまた!必ず帰るから!」


「気をつけて帰れよ。アフ、食いすぎないように」


アンジュとセオドアに見送られ、12匹は西行きの列車、専用車両に乗り込んだ。召喚公特別車両ーもといブルナー家族専用車両であるーは、細かな彫刻が施された木彫の内装は、厳かながら落ち着く空間である。

各々好きな席に座り、出発を待つ。窓から外を見れば、アンジュとセオドアがまだ立っていた。


「ピュゥーーイ!!!」


電車の汽笛と、ヌフの声が重なる。

手を大きく振る最愛の家族の姿が見えなくなるまで、ヌフたちも手を振り続けた。


ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。


中央区から西区まで5時間以上。

建物もまばらになり、のどかな自然の景色へと移ろい変わって行く。

窓から景色を眺めたり、姉弟とゲームして遊んだり。アンジュたちと用意した、好物の詰まったお弁当を食べ、昼寝を堪能しながら時間を過ごす。


日が傾き始めた頃。弟たちと身を寄せ合って昼寝していたヌフは、ふわりと舞い込んだ空気の香りに目が覚めた。

気がつけば深い森と、鋭利な山々が連なる見知った風景が広がっている。




西だ…。帰ってきた


こんな風にテちゃんたちも、帰ってきてたんだね


ほら、帰ってきたよ皆んな



キラキラと山向こうで輝いている。彼らはその輝きを知っている。ブルナーが誇る、美しい湖が陽光を反射しているのだと。






1時間ほどして、列車は西区駅に到着した。

車両にゴミや忘れ物がないか確認し、12匹は降りる。

駅では西で待っていたブルナー家族が出迎えていた。

もちろん。


12匹の母親である、ポエテランジュも。子どもたちは大好きな母の胸元に飛び込んだ。

機嫌良く喉を震わせる。

すると、彼らの周りをはらはらと何かが舞う。




とーちゃんの羽だ!


おぉ!




大陸を巡る父、プゥカンタノンからの贈り物。

しばらく静かすぎたブルナー領に、有り余る元気が戻ってきた。











ヌフたちが帰ってから2日後。

仕事を終えたアンジュが防衛局本部から退勤すると、入り口でアルフレードが待っていた。久しぶりに一緒に過ごしたい。婚約者の願いを叶えようとアンジュはアルフレードを借家へと迎えた。


「ではアル、いらっしゃい」


「お邪魔します」


誰もいない借家は寒い。アンジュはまず薪ストーブに火をつける。コトレット印の安全設計。この機器のおかげで大分暖かい生活が送れている

アルフレードから脱いだコートを預かり、階段横にあるハンガーにかけてからから自分のコートも脱いだ。

次にヤカンで水を沸かす。


「…本当にみんな帰ったのか」


「うん。けど近いうちに帰らないとね。それに今度は。あ、お土産貰ったんだ!アルも食べる?」


昨日の朝目覚めるとアンジュの枕元ーセオドアの元にもーに、あらゆる果実が詰まった籠が贈られた。中には立派な羽も入っていた。




子どもたちがお世話になりました。




ポエテランジュとプゥカンタノンからのお礼の品々である。水分と甘みたっぷりの果実は、アルフレードの年末から溜まった疲れを癒すに違いない。アンジュはさっとカゴから果物も取り出す。


「さ、アルフレードはくつろいでて!今おいしい果物と温かいお茶入れるから…」


とびきり癒してあげようと意気込むアンジュ。するとアルフレードに後ろから抱きしめられた。肩に顔を埋め、チクチクと髪が当たるのがこそばゆい。彼がつけている香水が強く、やけに甘く感じた。


(ふへ?)


「ぴ、ぴぃ…」


アルフレードが耳元で、鳴く。低い声がぞわりと身体の中を撫でる感覚に、アンジュは震わせた。


「……泣き虫まだここに居ます。………かまってください」


(うはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)


最愛な人の新たな一面に、アンジュはトキメキが爆上がりした。


こうして。アルフレードは約1ヶ月ぶりにアンジュに甘え、アンジュも存分にアルフレードとの時間を過ごせ、充実した時間を過ごせた2人なのだった。

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