表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「"推したい"婚約者」ー推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。ー  作者: 烏賊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/75

2章「vs後輩」_18話:特別訓練という名の修羅場③

訓練が始まってから、なんと2時間が経過した。

アンジュと交戦を続けるのはたった1人。

期待の新人、ダンケだ。

アルフレードやウィリアムから聞いた話によると、彼は鬼種と人間のハーフだと言う。鬼は確かに力が強い種族だが、一撃で結界を壊す力を有する者は少ない。他の訓練生が戦闘不能となり、中庭に2人だけになってから上がったパワーは段違いだ。

一撃、一蹴り。まるで隕石が落ちてくる勢いだ。

攻撃を避ける度に、衝撃を代わりに受ける地面はヒビ割れている。期待されていても、彼は1年生。まだ16歳。

手加減しているとはいえ、2時間も奮闘するとはアンジュは思ってもいなかった。


(なんて素晴らしい)


アンジュは使っていた武器を捨て、素手で彼と戦っている。


「ふんッッッ!」


振り下ろされた拳を横に流す。正面から受ければ流石に身体は痺れ、酷い打ち傷を負うってしまう。下手をすれば骨にヒビが入る恐れがある。慎重に丁寧に動きを読み、躱しては反撃を繰り返した。

殴る、蹴る、掴む、投げる。

避ける、弾く、逃げる、打つ。

ダンケの動きは読みやすかった。最初は繰り出していた格闘技や魔術も今は一切使わず、怪力を生かした拳と蹴りで攻めてくる。


(ワザと?癖?………いや)


「君はなぜ強くなろうとする?その力を持って、何をしたい」


アンジュはダンケに問いかけた。

彼が力で攻めてくるのは、訳があるはずだとアンジュは考えた。

それも、かなり個人的な理由が。


ダンケは笑った。

新しいおもちゃを与えられた、子供のような輝く笑顔だ。


「何も!ただ存分に力を振るえる場所が、相手が欲しいのです!」


あぁ、やはり。アンジュはすぐさま納得する。結界を壊すほどの力を、日頃使う機会はない。毎日倒れ込んでしまう軍の訓練であってもだ。満足に発散できないばかりか、周囲に相当気を使い、力を抑えて過ごしている可能性が高いと睨んだ通りだ。


ダンケにとって、アンジュはようやく現れた救世主なのだ。力を込めても、込めても、壊れない。自分を叩きのめすことができる人物。彼は力を存分に振るえることに、快楽を感じていた。


「わかるよ、わかる。力は楽しい。暴れるたのしみを私も知っている」


彼が抱く感情に、アンジュにも覚えがある。

飛躍した能力を駆使して、領地を駆け巡り、大魔獣を倒し、元同期を全て倒した。湧き上がる高揚、興奮。達成感、爽快感は得難い瞬間である。

誰も傷つけないよう、何にも触れないようにしている時間は特訓でこもっていた1年間よりも長く、苦しく感じる時がある。

否定しない、できない。してはいけない。

間違いなく己を構成する1つの側面だからだ。


「けどそれだけじゃ虚しい。力はあるだけで、何も寄り添ってはくれない」


「だから貴女は力を隠すのですか。素晴らしい力を持っていながら。1人は嫌だと、子供のような理屈で!」


地面に響く揺れは、彼の心の咆哮か。言葉の端々から感じ取れる、不満不服。

彼はさらに吼える。


「寂しさも、孤高も、力があるものの特権です!誰か、何か…うんざりだ。我々のような存在には窮屈なだけではないですか…!!!」


ドッンッッッ!!!

今日1番の力が込められたダンケの拳を、アンジュは正面から受け止めた。


「…君、1人っ子だな?」


力は結局自分自身だ。

力に依存すればするほど、自分で自分を抱きしめている状況になる。

1人だからこそ気ままに振る舞える自由さは魅力だが、誰かから与えられる温かみを、柔らかさをアンジュは身に染みている。

兄弟、母親、父母方の祖父母たち。ポエテランジェに、彼女の夫、子供たち。親友らに、領地の人々、精霊に動物たち…。アンジュを認めてくれる者は沢山いる。彼らはどこまでもアンジュに寄り添う。窮屈なんてものじゃない。逃げ場すらない。

結局アンジュはまだ、多くの人の温もりの中で生きている。


「窮屈さは、私にとって平和の象徴。大事なものを守るためなら、私は幾らでも隠すとも」


今では婚約者もいる。

勿体無いぐらい素敵で、かっこよくて、けれど情けないところもある、尊敬できる人。アンジュ・ブルナーの最高の推しで、自慢の婚約者が。


「けど、気が変わったよ。もっと、欲深くなろうと思う」


ダンケは首を傾げる。全く理解していない様子に、アンジュは苦笑いする。それはそうだ。個人的な話をしてしまった。聞いて欲しい気持ちもあるが、呆れるほど長い話になる。この場では、相応しくない。


「ダンケ。力に振り回されれば、身動きが取れなくなるぞ。我々は力からも、自由でいなければならない。力も道具の1つにしか過ぎないんだ。制約あって、ようやく役割を与えることができる。誰か、何か。本当はもう、分かっているだろう?」


アンジュは拳を握る。魔力、能力の制限を3割まで解放し、全ての力を右の拳、一点に集中させる。

ダンケは鳥肌が立つ。避けろ!逃げろ!と頭の中でうるさく繰り返される者身体が動けない。


「また挑んで来い。窮屈な世界でも、その空は美しいと教えてあげよう」


アンジュはダンケの鳩尾に拳を打ち込んだ。


衝撃に意識を飛ばしたダンケは、膝をついた。身体は傾いていき、巨体は仰向けにゆっくりと倒れゆく。




中庭に沈黙が流れる。


2時間ぶりの静寂だ。


審判を務めていたツキヨは、カウントダウンを始める。


「……3、2、1、0。特別訓練終了!」


特別訓練はアンジュの勝利で幕を下ろした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ