2章「vs後輩」_10話
(あーーーーーーーーーっ!!!!!!)
アンジュ・ブルナーは職場で荒ぶっていた。
アルフレードの告白で頭が働かない中、どうにか出勤したものの、衝撃のあまり仕事が一切手につかない。自席で頭を抱え、時折足をバタバタと動かしている。
アンジュの奇行に、他の班員は何事も気にせず過ごしていた。
彼女は過去にも似た行動を起こしているからだ。しばらくすれば勝手に落ち着き、仕事に取り組み始めるため、全員放っておいている。
そんな仲間の放置に感謝をしながら、アンジュは自身を責めていた。アルフレードが1人の女として、自分を好きだとは一切思っていなかった。長く"アルフレード推し"活動で情報を集めるアンジュは、彼にも人に好き嫌いがあることは知っていた。当たり前である、アルフレードとて普通の人なのだから。その中でも、アンジュは好きな分類に入る、信頼できる女性である、そんな認識だった。婚約の顔合わせの時に彼がそう言っていたのだから。
だが、それらは一切間違っていた。
軍学校時代の会話、初めて遊びに来てくれた時、手紙や婚約してからのやり取り。そもそも、女性との関わりから逃げ続けていたアルフレードが、アンジュには自ら声をかけてくれた。思い返せば、返すほど。アルフレードが惜しみない好意を伝えてくれていたと痛感する。
(してくれていたのに!なにが、好きな人だ。推しだ。1番気づくべき気持ちに気づきもしないで!)
アンジュは頭をデスクに伏せる。腕に光が遮られ、視界が暗くなる。
(…お母さんも、兄さんたちも知ってるよね)
アンジュは暗闇の中に、家族の顔を思い出した。
なぜ長兄が突然アルフレードを屋敷に連れて来たのか、今ようやく察することができる。彼なりの後押しだったのだろう。
娘を想う男子に、絡む息子やポエテランジュたち。状況がわかれば、母親も微笑むだけに留まった気持ちがなんとなく分かる。
そんな家族が、度々微妙な表情になる時があった。決まってアルフレードとの交流について話している時だ。色々と思うところはあっても、夫婦になるのだと自分たちで解決するよう口をつぐんでいたに違いない。
アンジュ自身、自分の恋路に家族に介入されるのは、まだ10歳に近い年齢ならともかく、この年齢になってからだと流石に情けなさすぎる。まあすでに情けない状況に陥ってはいるが。
アンジュはたまらず、大きなため息が出てしまった。
「ブルナー。アンジュ・ブルナー。」
不機嫌な声で班長・ウィリアムがアンジュを呼んだ。顎で隊室の入り口を指している。そこには副班長・ツキヨが女性たちの相手をしており、彼女たちは時折アンジュの方に指を刺して、何かを訴えている。
アンジュは顔を顰めた。
(嫌な予感がする)
●登場人物
アンジュ・ブルナー
アルフレード・ランゲ
〈ウィリアム班〉
ウィリアム・スミス…班長。精霊遣い
ツキヨ・ルナール…副班長。精霊との混血種の末裔。先祖返り
〈新人〉
ロザリー・シュヴァリエ…軍学校2年生。エゼリオ班に仮配属中




