3話「アイテムが有能すぎる件」
あっという間に高台についてしまった。
高台に着くと、ノクテリスさんが私を下ろしてくれた。
もう少し、ノクテリスさんの腕の中にいたかった気もする。
私ったらはしたない……!
「ここが高台なのね」
そこは上空から見たときよりもずっと開けた場所だった。
森と海を一望できる。
爽やかな風も吹いていた。
「眺めもいいし、ここなら家を建てるのに最適ね!」
『この場所に家を建てますか?』
天の声が尋ねてきた。
私が「お願い!」と伝える。
『了承しました。
これさえあれば無人島でも快適! 家具、食料、庭付き一戸建てセット! 素敵な旦那とラブラブな新婚生活を送っちゃおう!
を具現化します』
ボン! と音を立て目の前に家が出現した。
赤い屋根に白い壁の西洋風の二階建てのお屋敷。
二階にはバルコニーもある。
庭には広い畑と、作業用の小屋がついていた。
ここで野菜などを育てながら自給自足しろってことらしい。
庭と家を囲むように白い柵が設置されていた。
「わーー!
想像してたよりずっと素敵!
ノクテリスさんもそう思わない?」
「ジゼル様が好みそうな可愛らしい外観の家ですね」
「ちょっと少女趣味だったかな?」
「わたしは好きですよ」
ノクテリスさんがふわりと微笑む。
ノクテリスさんも気に入ってくれたみたいでよかった。
だって、これから二人きりで生活するんだもん。
柵には説明書らしきものがあり、オート修復機能、結界機能、防虫機能、50年保証がついていた。
さすが、50万円課金したときのボーナスアイテム。
保証までバッチリだわ。
特に防虫機能はありがたいわ!
田舎だと、夜電気をつけていると家の周りに尋常ではない数の虫が集まるのだ。
虫はそこまで苦手ではないけど、あれには流石に引いた。
『アイテムの購入に使用した金額が50万円を超えました。
ガチャチケットを差し上げます。
A、Bどちらかを選択してください』
すると、また天からの声が聞こえた。
さっきのは課金(振り込み)額が50万円を超えたボーナス。
今度のは50万円を使ったボーナスなのね。
意外とサービスが手厚いゲームだったのね。
前世では、死ぬ直前までゲームに課金したことがなかったから知らなかった。
『A:初級アイテムガチャチケット100枚。
B:上級アイテムガチャチケット1枚』
また目の前にウィンドウが現れた。
「う〜〜ん、これは難問だわ」
初級アイテムが何かはわからない。
推測だが、薬草とか聖水とかポーションとか日常の便利アイテムだろう。
先ほど見た上級アイテムは、うっかり世界を滅ぼしかねない危険アイテムばかりだった。
なので、初級アイテムが貰えるガチャチケット100枚の方が良い気がする。
「Aの初級アイテムが貰えるガチャチケット100枚……きゃー、虫!!」
その時、どこからか蜂が飛んできた。
しかもバスケットボールくらいの大きさがある。
ここは敷地の外なので、虫がいるようだ。
さすがファンタジー世界の無人島!
虫も大きい!
虫というより、この大きさだとモンスター枠に分類しても良いと思う!
「お下がりください!
お嬢様!」
ノクテリスさんが私を背にかばい、腰のナイフを抜く。
私が瞬きしている間に、ノクテリスさんが蜂を切り刻んでいた。
体をバラバラにされた蜂が地面に落ちる。
「怪我はございませんか、お嬢様?」
「うん、ノクテリスさんが守ってくれたから」
ホッとした瞬間……。
『Bを選択されたので、上級アイテムガチャチケット1枚を進呈します』
という天の声が聞こえた。
どうやら蜂騒動のどさくさでBを選択してしまったようだ。
まぁ……チケットを使わなければ、変なアイテムが届くこともないでしょう。
そう思っていたのだけど……。
『早速、抽選します』
ええ……! もう!?
そういうのってこっちのタイミングで決められるんじゃないの??
ウィンドウ画面に、新井式回転抽選器が現れ(商店街の福引きなどで使う木製の六角形や八角形の道具)、くるくると回っている。
お願いだから、危険な道具は出てこないでね!
やがて抽選機から金色の球がポロリとこぼれ落ちた。
画面には『大当たり! 光の剣、盾、兜、鎧、一式プレゼント!!』と記されていた。
取り敢えず、世界を滅ぼす系のやばい道具でなかったことに胸を撫で下ろす。
画面が光り、光の剣、盾、兜、鎧のセットが出てきた。
これってきっとヒロインしか装備できない伝説のアイテムだよね?
うーん、ゲームがエンディングを迎えたいま何と戦えと……?
「お嬢様、これは?」
「50万円使ったボーナスみたい。
邪魔だから物置にしまっておこう」
伝説のアイテムがそんな扱いでいいのかって気もするけど、剣や兜を居間に飾って眺める趣味はない。
盗まれても困るし、放置するわけにもいかないから物置にしまうのが一番だろう。
こんなことなら、家の中でガチャを回せばよかったな。
片付けるために私が剣に触れようとすると、『収納』の文字が浮かび、腕にブレスレットが現れ、剣や盾がその中に吸い込まれていった。
「収納機能が付いてるとはこれまた便利な」
物置まで運ばなくて済んでよかった。
「お嬢様が装備している姿が見られず、少し残念です」
「ええ? そうかな?」
「ええ、光の装備を纏われたお嬢様はさぞかし神々しく、凛々しく、麗しかっただろうと」
ノクテリスさんがうっとりとした表情で呟く。
「褒め過ぎだよ」
そんなに期待されていたのなら、今度装備してみようかな?
このしばらくあと、光の装備一式を身につけることになることをこの時の私は知らない。
読んで下さりありがとうございます。
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