EP.5 疑い
戦いが終わり、コクピットの中で気を失った。原因はニューラル・インターフェイス・システムによる脳の酷使らしいが、このシステムのおかげで敵を退けたと言っても過言ではない。
それと、幻覚が見えたがこれもシステムによる俺自身の夢なのであろうか。それにしては妙に生々しく俺自身で無いような感覚だ、一体これは……。
目を覚ますと見た事のない天井が広がる、目を覚ます時はいつも自室のはずだ。
「目が覚めましたね?」
すると白衣を着た男性が目に入る、医者か?
「あんたは?」
「私はネスト1の大病院で医者をしている人間です。主に脳神経内科を専門にしてますが、脳に関するあらゆる研究をしている学者だとでも思ってください。」
「俺をどうする気だ?」
立ちあがろうとすると何かに縛り付けられてるのが分かる、頭に何か装着されており、両手両足を固定されてる。
「まずは落ち着いて、私自身何も悪い事はしない。ただ、地球政府の方達があなたを拘束するように呼びかけているのです。」
「戦ってこれか、歓迎されてはないか。」
天井を見渡すとカメラを見つける、記録しているようだ。
「まずはいくつか質問をします。いいですね?」
「ああ。」
「あなたは、新型機AD.E-1に搭乗した際、独自でシステムを改ざん及び都合の良いように書き替えましたか?」
「いいえ、してません。」
「なるほど。では、あなたはパートナー・システムを開発しインストールは行なってないのですね?」
「そうだ、そもそもパートナー・システムは新型に入ってるんじゃないのか?」
「申し訳ないですが、専門外ですので……。」
「こっちの質問に答えて欲しいが、アンタは軍と関わってるのか?」
「ええ、まぁ……アルテミス・クエルに軍医として配属される事にはなってますね。ニューラル・インターフェイス・システムは下手をすれば脳を破壊してしまう恐れがあるので……。」
俺が質問をすると表情を一切変えず目すら合わせない、警戒してるのか……。
『ドクター、対象の質問には答えるな。』
すると部屋に放送が入る、危険対象として見ている事がハッキリした。
「質問を続けます。あなたはAD.E-1の戦闘データだけを残し他の記録を消去しましたか?」
「いいえ。」
「ガイア・システムの開発に携わっていた?」
「いいえだ。」
『おい!大人しく吐け!痛い目見るぞ?』
室内放送から脅しとも取れるような高圧的な態度が分かる。
「本当だ!嘘は言ってない、俺は……!」
すると、電流が流れる。
「あああああああああああああ!!」
体がブルブルと震え視界が歪む。
『ドクター自白剤を投与する、場所を変える。眠らせろ。』
「や、やめろおおおお!!」
「大人しくしていてください。」
医者は俺に何かを注射した、すると4秒ぐらいで意識が朦朧とする。
『そっちに尋問官を向かわせる、拘束を解いて椅子に座らせます。ドクターは監視室へ……。』
室内放送が徐々に聞こえなくなる、意識が付いてけない……。
「起きろ!」
バケツに入った冷水を頭に被る。
「うわああああああああ!!」
急な出来事にびっくりする、一瞬呼吸ができなくなった。
「エイジ・スガワラ上等兵だな?」
「は、はい……。」
「この機体はなんだ?」
すると尋問官の男が写真を見せる、あえてホログラムで見せないのは俺がハッキングするとでも思っているのか……。
「これはAD.E-1、地球から送られた新型です。」
「そうだ、お前はこれに乗ってネスト1居住区を救ってくれた。そこまでは良い、問題は……」
次から本題だというばかりに髪を掴み顔を近づける。
「どうやって、AD.E-1のデータを書き換えたのかだ?あれにはガイア・システムのOSが搭載され、戦闘時はニューラル・インターフェイス・システムを接続しガイア・システムとの接続は切れる。唯一できる事と言えばネットが混線しない環境下での遠隔通信などだ。なのにお前はガイア・システムのデータを書き換え、ガイア・システムとニューラル・インターフェイスを混合させて戦った、挙句記録データを抹消。戦闘データしか残ってない。違うか?」
「はい、違います。」
すると呆れた顔で顔を殴られ、腹を蹴られると座ってた椅子が後ろに倒れる。
「真実を言え。」
尋問官は追い討ちをかけ足で体重を乗せてくる、手は後ろに縛られてるため潰されて地味に痛い。
「本当に知らない!搭乗したらガイア・システムが認証システムを説明して……。」
「だから!それをインストールさせたんだろ!お前は月政府のスパイという疑いがある、お前専用にして月に持ち帰るつもりだったんだろ!」
「違う!そもそも俺は月自体に行った事はない!」
「口答えか!良いだろう、素直になるお薬だ。」
尋問官がアタッシュケースを開き注射器を取り出す。
「お願いだ!自白剤だけは!心的外傷に一回なってるんだ!」
「知ってるよ、中は鎮痛剤だ。自制心や論理的な思考を低下させるからな……思い出したくないなら吐くんだな。」
すると足に思いっきり刺し薬を流し込む。
「た、助けてくれええええええ!!」
「助けなんてこねぇぞ。それと、口を割らないならもう一本行くからな?」
その会話を最後に時間の流れが分からなくなった、三本目が入ると死んでいった先輩方がずっと近くを彷徨いている、時々天井にもボロボロになったADが張り付いて……。
「ああ……あ……。」
「チッ!大人しく吐かないからだ。おい!最後にこのADはなんだ!?会話の内容は監視カメラが記録してるぞ?暗号か?」
尋問官が黒いADの写真を見せる。
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!死にたくないいいいいいいいいいいいい!!」
「な、なんだ?」
『こちらドクター、多分尋問はできない。時間を空けましょう。』
「分かったよ。」
ああああああああああああ、もう散々だああああああああ。ここどこだよおおおおおおおおおおおおおおお!!
頭がおかしくなる、もういいから殺してくれ……。
時間を忘れた頃に誰かがやって来るのを感じる。
「起きろ。」
誰かに頭を叩かれる。
「酷い面だな。まぁ俺がやったんだがな。」
尋問官が拘束を外す。
「立て!新型に乗ってもらうぞ!」
無理やり立たされ足がふらつく。
「なんだ、歩けないか?」
尋問官は何かを飲ませる、すると意識がハッキリし動きやすくなる。
時期に体が慣れていき、尋問官の後ろに付いて行く。
暗い通路を歩いていくと格納庫へ入る、そこにはアルテミス・クエルと初号機と二号機がある。
歩いていると周りが俺を見るなり話し声が聞こえる、どーせ悪口だろ……聞こえないけど。
「新型に乗って機動しろ。」
尋問官が背中を蹴って前に出されるが、耐えきれず倒れる。
「脆いもんだぜ。」
「おい!ジジイ、そんな扱いねーだろ!?」
聞いた事のある声がする、マルコスか?
「バカ言うな、コイツは月政府の人間かもしれん。敵の可能性があるんだ、甘く扱えるか!」
「エイジがいなかったら、お前ここにいねーだろ!アホぬかせ!」
マルコスの言葉に惹かれ他の整備兵が尋問官に野次を飛ばす。
「そーだ!地球軍様だからって何やってもいいわけじゃねー!」
「そうだ!恩を仇で返してんじゃねー!」
「整備兵だからって舐めんじゃねーぞ!」
整備兵達は俺を庇ってくれる、少なくとも味方はいるようだ。
「うるせええええええええ!!」
尋問官は整備兵に銃を向ける。
「おい!お前らコイツをコクピットまで乗せろ。そしたら今の発言を撤回してやる!」
銃を向けられた途端、整備兵は黙る。
「この高給取りが……エイジ歩けるか?」
「ああ……すまん……あと、ありがとな……。」
マルコスともう一人整備兵が俺の両肩を担いで初号機まで誘導してくれた。
初号機のコクピットになんとか乗る。
「大丈夫か、機動できるか?」
「ああ、機動する。」
『パートナーシステム実行、ガイア・システム起動。地球軍エイジ・スガワラを承認、ADを起動……操作をパイロットに一任します。』
「おい!整備兵はコクピットから離れろ!」
「全く、偉そーに。」
マルコスは尋問官を見るなり嫌な顔をして、コクピットから離れた。
マルコスの代わりに尋問官が姿を見せる。
「コクピットを閉めようもんなら撃ち抜くからな?」
尋問官は俺に銃を構える、いつでも殺す気のようだ。
「はい……。」
「まずは、データの復旧だ。やれ!」
「すいません、データは復旧できない。イジった事がないから……」
すると銃を撃って威嚇する、後ろに銃の穴が出来る。
「おいおい、これまずいだろ……。」
マルコスは側から見ていて、エイジの身の安全を心配する。
「何騒いでる?銃なんて誰が撃ってんだ?」
銃の発砲音を聞きアルテミス・クエルのAD整備長であるジーン・オウスが姿を現す。
「整備長、AD.E-1の件で……」
マルコスはジーンに事の発端を話す。
「報告書に書いたんだがな……あの複雑なプログラムは人間じゃ入れられねぇってな。そもそも、初号機の積んでる頭のOSはちょっと特別みたいだ。人がいるみたいな……」
ジーンが説明していると尋問官がコチラを見る。
「お前らも手伝え!」
「はいよ、何をすればよろしくて?」
ジーンは呆れたように話す。
「データの復旧だ!元のデータに戻すんだよ!地球政府からの命令だ!」
「はいよ、でも期待はしないでくださいね。報告書通りにその機体は……」
「いいからやれ!」
「はいはい。」
ジーンはコクピットに近づきエイジと話す。
「整備長のジーン・オウスだ。データの復旧だが……元々がこれなんだな?」
「はい。」
「ガイアシステム、起動してくれ。」
ジーンはガイアシステムを起動させる。
『はい、なんでしょう?』
「ん?なんだその設定……普通は『ガイア・システム起動……ご用件を伺います。』だ……多少なりとも言葉は違えどフランクに言葉を話すような設定はしてねぇ。お前、なんか設定したか?」
「いいえ、確か……乗った時から人っぽい話し方をしますよ。」
「謎が深まるな。ガイアシステム、プログラムを全表示。」
『……できません。』
「なぜだ?」
『私自身にはOSプログラムがないからです。そして、パートナー・システムは私が独自に作ったものであり、エイジさんは関係ありません。』
質問してない問いにも答えてくれた。
「なるほどね……人じゃなく機械が作ったプログラムなら、この複雑さは納得できるかな。」
「どう言う事です?」
俺は整備長に伺う。
「いや、まぁ……話せば長くなるが、お前は無実って事だ。」
なんだそれ……。
「嘘だ!その新型は乗っ取られている!」
尋問官は血相を変えて怒鳴る。
「何を怒ってらっしゃる。何か不都合でも?」
ジーンは怒る尋問官に不信を抱く。
「ありえない!送られた新型は全部OSが同じだ!」
「であれば、送り元である地球に問題があったのでは?」
「そんな証拠どこにある?送られた資料を知ってるだろ!?機体のスペックが全部書いてあるやつだ!嘘の報告を地球がした事になるぞ!」
「確かに……それは否めませんな。」
「どちらにせよ、その兵士は殺す!我々を裏切ってる可能性がある!」
「おい、エイジ近づくんじゃねぇ!」
マルコスが止めに入る。
「黙れ!反逆罪でお前も殺すぞ?」
銃を上に向け射撃し威嚇する。
すると、エイジの体が震え始める。
銃の音と共に急に人の悲鳴が頭に響く。
「おい、どうした?しっかりしろ!」
ジーンは震えるエイジを見て心配する。
「薬が切れたか……逃げられまい。」
尋問官が徐々にコクピットに近づく。
「おい、立て!」
ジーンが頑張ってエイジを引っ張り出すが、エイジは何かに怯え出られなくなる。
「観念しろ。」
その時、二号機の手が尋問官に覆い被さり動けなくなる。
「ぐあ!」
『聞こえるか尋問官。先輩に手ェ出してんじゃねーよ。』
正体はマヤだった。
「今だ!銃を取り上げるぞ!」
マルコスと整備兵が尋問官の銃を取り上げる。
「こんな事をしてタダで済むと思うなよ!」
尋問官が声を荒げる。
「タダで済みますよ。」
そこで現れたのが、ノア艦長とリー副館長だった。
「何?」
「この虚偽の報告を明らかにすればいいのでしょう?だったら一度地球に戻り、量産中の新型を受けもらい、開発元に直接赴き視察しますよ。」
「ここでアンタらが居なくなったら、ネスト1はどうする?」
「敵の拠点を掴みました、しばらくは監視ができるので抑制にはなります。新型をハッキングした際位置情報も追加で入れました。混線場所のせいで定かではありませんが、敵ははネスト1と2の辺りに浮いてる小惑星で拠点を築いてます、そこを経由してネスト2を無視してここまで来たのでしょう。」
「あの兵士は裏切ってるかも知れないぞ。」
「はぁ、聞き分けのない政府の犬ですね。そもそもあの独自のOSは根本が同じです。内容こそ違いますが、AD.E-1は最初から意思を持たせてより人間ぽくさせるのと比較して、アルテミス・クエル及び他新型は誰かの意思を接続……ニューラル・インターフェイスを使って人の意思を機体に接続させる物です。世は最初から入ってるか、接続して入れるかの違いです。なので、既存のものなのでエイジさんに罪はないです。」
尋問官はそれを聞いて沈黙した。
「黙ってないで、言い訳したらどうですか?」
ノア艦長はさらに追い討ちをかけるが、黙ったままだった。
「マヤさん、エイジさんをアルテミス・クエルの個室まで案内できますか?」
『了解です!』
マヤは二号機から降りるなり、エイジの初号機まで駆け寄る。
「整備兵は引き続き、新型と戦艦を点検補修を行って下さい。」
「おい!話は終わってない!」
尋問官は流れを持ってかれると思い焦る。
「犬に用はないです。エイジさんはこれから私達の管轄に入ります。」
ノア艦長は戦艦に戻って行く。
「艦長は今からエイジ・スガワラのクルー登録を行う予定だ、おまけにお前の報告書もだ。勝手な判断で人を殺そうとするとはな……自分で足を引っ張ってる自覚がないのか?」
リーも続いて尋問官を罵倒する。
「クソ……。」
その後知る事になるが、尋問官はクビになり大きな理由としては許可のない薬剤の投与、銃での威嚇に殺害未遂だ。
アルテミスクエルの通路、クルーの部屋が並ぶ場所ではマヤがエイジの肩を担いでいた。
「先輩、部屋に着きましたよ。大丈夫ですか?」
「ああ、すまん。」
エイジは身体中殴られた跡もあり、何より薬剤の過剰摂取により意識が朦朧として上手く立てなかった。
「空き個室や客室、病室は怪我人が一杯で狭そうだったんで、私の部屋で我慢して下さいね。」
「気を使わせたな。」
「まぁ、いい女ですから。」
部屋に入るなりベッドにエイジを寝かせる。
「良いのか?床で良いし……。」
「怪我人なんですから、遠慮しないでください。」
「すまん。」
意識が朦朧とする、自白剤の他にも中枢神経を刺激する薬も無理やり飲まされ起き続けていた、こうして柔らかいベッドに横たわると一瞬で眠れそうだ。
「寝たよね……?」
私はエイジ・スガワラを愛している、先輩としての敬いではなく一人の男としてだ。
「もう、逃がさないですよ……私がどれだけ心配したか。」
彼がネスト3奪還作戦後は一切連絡が取れなかった。二号機を点検していたマルコスさんから話を聞いたけど、病んでて人との接触を絶ってたとか。
「大丈夫ですよ……私が全部……先輩を苦しめる人を殺してあげますからね……。」
ゆっくりと彼の頭を撫でてあげる、私以外に適任はいない。彼をいじめる奴は私の敵だ。
「早く、起きてね……私が我慢できなくなる前に……。」
私は彼が目覚めるまで1秒たりとも目を離しはしなかった……。
EP.6へ続く……。
読んで頂きありがとうございます。