EP.4 AD.E-1
アルテミス・クエルが敵戦艦とADを破壊する数十分前、エイジがアルテミス・クエルの格納庫へ入った時……。
アルテミス・クエルの格納庫へ入り、奥まで進む。周りは命からがら逃げて来た整備兵が多く居たが、怪我人も同時に多かった。見ていてあまりいい気分はしない。
『初号機のパイロット、こちら管制室。奥まで進め、簡易装備を装着させる。』
「了解。」
管制室の言う通りに動き奥まで進む、奥はAD用の武器が乱雑に置かれている。武器はADと比べて小さいため運搬がしやすかったのだろう。
ADを奥まで進めさせて、立ち膝の状態にする。
「コクピット開きます。」
周りに注意を促し、コクピットを開けると、すぐさま整備兵がADに寄って点検と付ける装備の準備をする。
「水。」
整備兵の一人が素っ気なく水を渡してくれた。
「データこっちで確認する、そのまま座っててくれ。」
次から次へと忙しく整備兵がコクピットに集まってくる、こんな状況であれば当たり前だ。
「おい、エイジ!なんでここに居んだよ!」
整備兵の一人がやって来たが知り合いだった、マルコスである。
「色々だよ。てか、なんでお前も居んだよ?」
「新型が見たいから、出航式まで待てなかったんだよ。でもこんなザマじゃあな……。」
マルコスは落ち込んでるのが見て分かる、誰もこうなるなんて予想しなかった。
「とりあえず、武器を教えてくれ。今何を装備させてる?」
「ああ、本当ならA装備、B装備と換装システムがあるが、時間がねぇ。右手に対AD用1.8ゲージスラッグ弾自動ショットガンを装備、左手には30mm速射砲を持たせた。後ろ腰に供給式帯電大型ナイフをマウントさせる。」
「了解した。」
「良いのか、あんだけ戦いを拒んでたのに?また部屋から出られなくなるんじゃ……?」
「恐らく、この状況を打破できるのはコイツだけだ。本当は乗りたく無かったけどさ、救えるもんは救っときたいだろ?」
「確かにそうだな。健闘を祈るよ。」
マルコスに気を使ってもらった、この戦いに出て以前のような症状に苦しむかもしれないが、居住区の味方ADの数を考えれば負ける可能性が高い、負けるぐらいなら症状に苦しんでも勝つ確率を上げた方がマシだ。
「エイジ!装備完了だ、コクピット閉めて射出口の電磁カタパルトに足を乗せろ!」
マルコスから装備完了の報告を受けコクピットを閉め、機体の足を動かしカタパルトへ足を乗せる。
『エイジさん、準備はいいですか?』
ノア艦長から通信が入る。
「こちら、エイジ・スガワラです。射出準備完了。」
『では、射出を。』
『こちら左舷格納庫管制室。承認しました、射出します。』
すると、格納庫内に居た整備兵は続々とその場からいなくなり、戦艦に付いている格納庫自体が動く。
「すごいな……格納庫ごと動くのか……。」
格納扉が開き、穴の空いた第五ブロックの天井が見える、あの先に居住区がある。
格納庫の中が赤く照明で照らされる、射出するから近くに寄るなと伝わる。
『照明が青くなったら、射出する。』
管制室から通信が入る。
照明が青くなると勝手に射出され、強いGが体にかかる。
勢いよく、天井の穴を抜け居住区に入り込み、大きい音を立てて着地する。
居住区は赤い炎で包まれており、奥には銃撃戦の音が聞こえる。
崩壊したビル群を抜け前線まで進む。
『エイジさん、居住区監視カメラにアクセスしたところ、敵の数は十五機です。』
「多いな……。」
『味方機も数が減少しています。』
すると物陰から敵が一体顔を出す。
「居たな。」
敵がこちらに気づくと速射砲を構える。
脇に抱えたショットガンを放つと敵の速射砲を巻き込む形で装甲が抉れる。
「すごい威力だ……。」
左手にはヒートナイフを持っており、襲ってくるがもう一発打ち込むとコクピットを抉り人の形は絶対に残ってないのが分かる。
「許せよ。」
それだけ言い残し次に向かう。
『ショットガン残り三発です。気をつけてくださいね。』
ガイアシステムから弾の残りを知らされる、正直この武器頼みの所はある。
『こちら、避難所防衛部隊!敵の接近を確認!増援を送ってくれ!』
どうやら、避難所まで敵ADが押し寄せているようだ。
「こちら、エイジ上等兵。向かいます。」
返答し直ぐに行く、敵の狙いは民間人である事が分かる。人質にとりネスト1の制圧を円滑に進めようとしているのだろうか。
ADを進ませていると、敵と遭遇する。
「邪魔だ!」
敵は装甲貫通砲を持っている、正面からは危険だが早く倒したい。
敵が貫通砲を撃つ前に大きくジャンプし背後を取る、新型は跳躍力もあるようだ。
背後から速射砲を放ち、敵を破壊しもう一体はショットガンでコクピットを撃ち抜く。
反応速度が恐ろしく速い、感度こそ設定で旧型のADにしたが、首を動かした時の頭の連動がほぼ一緒だ。トリガーも重みはなくスッと押し込める、全体的に操縦は柔らかく、旧型の無骨さは感じられない。
「ガイアシステム、感度をもう少し上げてくれ!」
『了解。』
「少しずつ慣れていこう……コイツの本領は操縦のしやすさにある。」
足を進め避難所に着くと地下シェルターに避難民を入れているようだ、それを狙うように敵は防衛部隊に攻撃を仕掛けている。
「こちらエイジ・スガワラ、到着しました。敵に突っ込みます。」
『危険だ!敵は5機だ、回り込まれたら……。』
味方のADが注意を促してくれるが、このままでは押し負ける。
銃撃戦内に突っ込むと敵は急な登場に驚き、銃火器をこちらに向け発砲する。
『エイジさん、敵から目を離さないでくださいね。』
ガイア・システムから通信が入り、言う通りにすると敵の軌道を予測し、機体が弾に当たらない所へ移動する。ニューラル・インターフェイス・システムのおかげで思った通りに動いてくれるが、時々ガイアシステムと混同して二人で操縦している感覚になる。
新型は人のように動き俊敏だ、敵に接近しショットガンを打ち込む、残り四体。
敵は懐へ入り込まれた事に焦り奥二体は装甲貫通砲と速射砲を持っており、手前二体はヒートナイフを持って応戦しよとする。
一体はショットガンの最後の一発で倒し、ヒートナイフを持った敵には左手の速射砲を放ち牽制する。
敵は急いで物陰に隠れるのでショットガンを捨て、後ろ腰の供給式帯電大型ナイフを右手に装備し前進する。
帯電ナイフの柄頭部分にADの電気を供給する用のワイヤーが付いている。
敵は俺が近接戦に入ると分かると近づき近接戦に持ち込もうとしてくる、敵はナイフを突き出すがそれを避けて相手の首部分に大型ナイフを突き刺す。
刺したら強力な電気を放電し敵の背中部分が爆破する。
『その帯電ナイフはADのバッテリーを消耗します。使い過ぎには気をつけてください。』
ガイアシステムから注意されると、奥の敵は銃を構えている。
俺は速射砲で牽制し前へ詰めるが、ジャムを起こした。
「クソ……。」
速射砲を捨て右手に持った大型ナイフを投げ付ける。
当たったのは貫通砲を持っている敵ADだ。
敵の体に刺さったようで電気を流し破壊すると持ってた貫通砲を落とすので回収する。
もう一体は速射砲を乱射していくつか装甲に当たる。
腰についたナイフと繋がる供給ワイヤーを外し貫通砲の発射口を前にして敵に突っ込む。
敵は後ろへ後退しようとするが間に合わずでかい銃口がコクピットに当たりそのまま発射すると敵の上部は吹き飛ぶ。
これにて避難所の防衛に成功する。
『だ、誰か!避難所に敵が接近中!普通じゃない速度だ!』
味方から通信が入る、なんであれここに敵を入れさせるわけにはいかない。
敵に刺さった帯電大型ナイフを引き抜くがワイヤーが外れてる以上電気攻撃はできない。
『こちら、3番機!応援を求む!黒いADだ!避難所にせ……』
遠くの方で爆発音が聞こえる、恐らくさっき通信してきた人で間違いはない。
「黒いADか……。」
ついさっきの出来事を思い出すと何かがこっちに向かってくる音がする、それは二年前を彷彿とさせるような……。
『敵の反応を確認、脚部にタイヤをつけてるタイプです。』
ガイアシステムが敵を確認したようで、物陰からすごい勢いで黒いADが現れる。
姿は両手にヒートナタを持っており右手にワイヤーがマウントされている、装備の内容からして二年前奪還作戦時の黒いADと酷似している。
『応戦します!』
すると後ろから味方ADがやってくる。
「やめろ!」
俺は急いで止めたが間に合うはずはなく、敵はヒートナイフを投げ味方ADのコクピットに当たり無力化させる。もう一体味方がやってくるが味方の持っている速射砲をワイヤーを飛ばして弾き飛ばしコクピットを刺し爆破させた。
「似ている……。」
そう、似ていた。戦い方が間違いなく二年前先輩方を殺した戦い方そのものだった。
黒いADは武器を回収しこちらを見る。
『聞こえるか新型、私はルナティック・ブラックナイツ。月政府騎士のバルトン・シミラスだ。』
急に黒いADから音声が発せられる。
『私達の本来の目的はネスト1鎮圧ではない。新型機の奪取だ、大人しく渡せば私達は引こう。』
「そんな証拠がどこにある?なぜ、機体が必要なんだ?」
俺もADから音声を発し会話する。
『話すと長くなる、お互いバッテリーも少ない。申し訳ないが快く承諾してくれ。』
話し方は意外と紳士であり敬意のある話し方をしている。
「目的が分からない以上、承諾はできない。」
『そうか……そうであろうな……では、参る!』
双剣を持って足元のタイヤを使い、滑るようにこちらの懐へ入る。
「速い!」
大型ナイフで敵のヒートナタを防ぐ、するとまた新たな斬撃が襲ってくる、休む暇を与えてはくれない。
ヒートナタはADの左肩部分に入り込む。
『肩の駆動系に問題発生。距離を取ってください。』
ガイア・システムが異常を知らせる、お互い頭で考えた格闘データを元に戦っているにも関わらず敵に押されている。
今度は右腕、左足とコクピットを狙わないようにしているようだ。明らかに新型を奪取したいのが分かる。
俺の機体は尻餅を着き黒いADを見上げる形になる。
『降りろ。お前にこの機体は相応しくない。』
「ごもっともだって。」
強すぎて苦笑いしか出ない。
敵がコクピットに手を掛けようとした瞬間、遠くから装甲貫通砲が放たれる、黒いADへ当たりそうになるが装甲が掠る程度だ、味方は続々とこちらに集結し黒いADを囲む形になる。
『潮時だ、新型のパイロット。次会う時は楽しませてくれよ。』
それだけ伝えられると黒いADは味方機の間を縫い去っていった。
『大丈夫ですか?敵機体はあなたのお陰で殆ど殲滅できました。』
味方機からその通信が入ると安堵する。
「少し疲れたな。」
『ニューラル・インターフェイス・システムは脳への負荷が大きいです。休憩をお勧めします。』
ガイアシステムから説明されると気を失う。頭が痛く何も考えられない。
すると、また何か瞼の裏に映るように映像が広がる。
そこには透明な大きいポッドが多く陳列されており、何かが入っている。
俺が見えているのはそのポッドの中だろうか、ポッドには液体が入っており冷たい感触が伝わるのと同時に助けを求める声が頭に響く、俺は一体何を見せられてるのだろうか。
EP.5に続く……。
読んで頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。