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EP.3 月の女神を喰らう獣

 新型機AD.E-1……この機体に搭載されたガイアシステムは不思議と人の感情を持っているように感じる。

 これからこの機体と共に物語が進む、選択と己の正解を求め彷徨うだろう……。


『エイジさん。これより主砲、副砲で天井に穴を空けます。戦艦の格納庫へ入ってください。』

 ノア艦長の指示に従い戦艦の上へ登ろうとして、左操縦桿を前に倒すと反応速度が早く驚く。

「感度が良すぎるな……。」

『私の方で旧型と同等の感度に設定しますか?』

「ああ、頼む。」

 ガイアシステムの提案を実行すると、慣れた感度に戻る。ゲームのコントローラーでもそうだが自分の得意とする感度でなければ事故の元になりかねない——。


 一方、アルテミス・クエルのメインブリッジ内では……。

「これより、アルテミスクエルは緊急発艦します。エイジさんをネスト3居住区に送り次第、私達は宇宙へ出て敵戦艦二隻を破壊します。」

 私は艦長である以上、皆を引っ張らねばならない。それが責任であり私に与えられた仕事だ。

「では、艦長。戦闘形態にしますか?準備はできています。」

 副艦長であるリーが提案する。流石、準備が早い。

「ええ、お願いします。クルーも何人いるか把握を。」

「はっ!これより、アルテミス・クエルを戦闘形態に変形!各主要クルーは人員把握のため迅速に確認せよ!」

 リーは通信機を使い周りに伝達する。

 アルテミスクエルは全体的に滑らかな長方形な形をしており、突出したメインブリッジが上に突出しており、後方右舷左舷に突出したAD格納庫兼射出カタパルトがついている。デザインは神々しく美しい印象だ。

 エイジの乗る機体が格納庫へ入るとアルテミス・クエルは本性を現す。

『アルテミス・クエルの動力安全を確認!浮上します!』

 ここからは様々な人の通信がメインブリッジに響く、正直誰が誰か分からない。

『右舷左舷の開閉式装甲展開!対空砲、副砲、切替式弾頭砲オープン!』

 右舷左舷の装甲が開き、厳つい凶器が姿を現す。

『メインブリッジ後方、垂直ミサイルキャニスター展開。』

 メインブリッジの後方も滑らかだが、箱のような物が突出す。中には『個別式ガイア・システム搭載追尾ミサイル』が大量に入っている。

『上部下部の装甲展開!対空、主砲、展開式ビームバリア弾砲、出る!』

 上部には副砲しかないが、装甲を展開すると主砲が姿を現し突出する、下部にも同じように装甲が展開する。

『前方装甲展開、対戦艦高出力ビーム砲はセーフティに設定!前方ビームバリアいつでも展開可能です!』

「メインブリッジ縮小、戦闘形態移行完了。」

 リーが発言を最後に突出していたメインブリッジ縮小し船体と一体化する。

 アルテミス・クエルはその美しい外観から凶悪な兵器を積んだ戦艦へと変貌する、まさに月の女神を喰らうものとして申し分ない獣だ。


「ネスト1居住区監視カメラ確認!本艦の上に人影はありせん!」

 通信士がネスト1のカメラを確認し伝達する。

「上部主砲副砲を天井に、破片が落ちてくる場合はビームバリアを展開。」

「了解!主砲副砲撃て!」

 ノアの指示の後、リーが復唱する。

 天井に副砲主砲を撃ち込むと居住区への道が出来ると同時に破片が落ちてくる。

「破片を確認!ビームバリア弾、射出!」

 通信士が状況を把握しビームバリア弾が射出される、上空でバリアの幕を展開し落ちてくる破片を壊す。

「エイジさん、準備はいいですか?」

 私は新型ADに通信する。

『こちらエイジ・スガワラです。射出準備完了。』

「では、射出を。」

『こちら、左舷格納庫管制室。承認しました、射出します。』

 左舷格納庫は天井に向け扉が開く。

 エイジ・スガワラの乗る機体は射出されネスト1居住区へ送り込まれた。

 

 エイジの乗る機体を皆は見送った、メインブリッジは後方に艦長席、隣に副艦長席と戦術長席がある。中央には星間地図がホログラムで映しだされており、航海長の席が設けられている。両端には通信員が二席ずつ設けてあり、一番前には操舵席が設けてある。

「さて、これよりアルテミス・クエルは少し早い実戦に入ります。戦術長から紹介を。」

 私は今一度彼らの紹介を求める、地球を立って日も浅い。一部の人はデータ上でしか知らない。

「はっ!戦術長の『マサトシ・イシダ』であります。よろしくお願いします。」

 データで年齢は三十代後半だったはず。幾つもの戦地で実践経験を積んでいる優秀なタクティカルオフィサーだ。

「通信士の『エナ・デイエンス』今はメインブリッジ一人だけど頑張るねー。」

 彼女は一番最初に絡んできた人当たりの良い女性だ、こんな無口な私でも時々話相手になってくれる。

「航海長の『クルシュ・ルーシェ』よろしくな。」

 彼女はリーと同じ士官学校の出身のようだ。的確な順路で私達を導いてくれるとリーが信頼している。

「操舵士の『シルア・ボーディン』だ。俺の腕を頼ってくれよ。」

 彼は若くして地球軍の中でも戦艦の操縦技術が上手い。優秀な操舵士に送られる勲章をつけている。

「艦長を務めます、ノア・G・ニブルスとコチラは副艦長のリー・シュウ。」

 リーは少し会釈する。

 

「これより、第五ブロックを破壊し宇宙へ出ます。新型ADは宇宙用のバックパックは付けてません、彼らが戦艦へ乗り込む前に破壊します。」

 私はわざと第五ブロックの壁に穴を空け彼らを逃した、こうすれば初号機の安全を確保でき。尚且つ彼らの乗っていたであろう戦艦を特定できる、新型を三機奪われたのは痛いがそう簡単に逃しはしない。

「戦闘室、準備はどうですか?」

 私は一つ一つ部署を確認する、一つでも準備が整ってなければ統率は取れない。

『こちら戦闘室、手動誤差修正準備完了、各武装のオート照準をガイアシステムに設定完了、切替式弾砲の切替準備完了、戦闘管理室管理者『エド・ランバ』部下のミキ、アルカ、ハドックの計四名。準備完了。』

 戦闘室はアルテミス・クエルが戦闘形態時のメインブリッジ下に位置している。

「報告ありがとうございます。機関室はどうですか?」

『こちら機関室統括の『マルテラ・シルル』各機関はオッケーだ!エンジン、バッテリー、冷却とどれも万端!いつでも発艦しな!』

「格納庫は二号機を出せますか?」

『AD整備長の『ジーン・オウス』だ。悪いが、二号機は設定に悪戦苦闘中だ。なのでADは出せない、すまんな。』

「相手は二隻の戦艦、おまけにADも八機ほどいるでしょう。黒いADの出元を考えればもう一隻いてもおかしくありません。」

 リーから的確な分析をされる、確かにこの状態では私達は不利だ。

「このアルテミス・クエルは特別ですよ、負けるはずはないです。」

「失礼ながら艦長、根拠はどこに?」

「私がいるじゃないですか。」

 私はガイアコネクトに自分自身を接続する。

「これは一体?」

 リーとメインブリッジに居た他のメンバーは私を見て驚く、この『ニューラル・インターフェイス・システム』は新型ADにだけついてる訳じゃない。

『ニューラル・インターフェイス・システム作動。ノア・G・ニブルスに接続……ガイアシステム自体を艦長に一任します。』

「皆さん、私一人でもこの船は動かせます。ただ、私一人では負荷が大きいのです。皆さんの力を貸してください。」

 戦艦同士の戦いでは同じガイアシステムで戦ってるだけだ、これではADの格闘戦のように同等の戦いしか出来ないのと同じで戦艦で同等の戦いをしてしまえば、消耗戦にしか持ち込めない。もちろんクルーの能力によっては圧倒できたりもするが、本質が同じ以上型破りな戦いはできない。

「皆さん私に力を貸してください。」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 メインブリッジ全員が彼女の願いをかなえるよに敬礼する。

「前方ビームバリア展開、壁を突き破り宇宙へ出ます。」

「了解!ビームバリア展開、前進せよ!」

 ノアの指示を聞きリーが復唱する、大体これで回っている。

 戦艦は壁を突き破り、宇宙へ出る。

「敵戦艦、前方に二隻確認!左舷には奪取された新型ADを確認しました!」

 通信士エナが状況を確認する。

 戦艦二隻はこちらに気付き接近してくる、新型ADは戦艦から遠ざかろうとしている、その先に隠れた戦艦があるに違いない。

「艦長、二隻を叩けば新型を逃し。新型を追えば二隻に後ろを取られます。」

 リーは落ち着いている。

「先に二隻を叩き、新型を追います。」

「できるのですか?」

「短期決戦です。」

 敵戦艦二隻から四機ずつADが射出される、計8機の機体が襲い掛かる。

「全速前進、対空砲火で敵を牽制。敵戦艦の間を縫う航海経路を頼みます。」

「了解、経路算出……情報をシルアに譲渡。」

「オッケー。任せな!」

 シルアは右足のペダルをベタ踏みし、最速で敵戦艦の間を目指す。

 敵ADが射程圏内に入る。

「対空砲火撃てー!」

 リーの命令で対空砲を撃ち敵ADは後ろに下がる。

「ADの群れへ入ったら切替式弾頭砲にスモーク放て。」

 私は再び指示を飛ばす。

『こちら戦闘管理室、左舷右舷の一番から五番にスモーク切替!発射準備完了!』

 戦艦はあっという間に敵の群れに入った。

「スモーク放てえええ!」

 スモークを数発放ち辺りは真っ白になる、お互いどこに敵がいるか視認はできないが、牽制で撃っている対空砲は敵ADに当たり運良く二機落とした。

 敵戦艦は前に味方のADがいる以上、勝手には撃てない。

「ミサイルキャニスター、上部下部の主砲副砲用意。」

「了解!ミサイルキャニスター、上部下部主砲副砲よーい!」

 戦艦が煙を抜け、上部と下部に敵戦艦が位置する形になる。

「撃てええええええ!」

 リーがタイミング良く指示する。

 上部の敵戦艦はキャニスターミサイルと主砲副砲を全て浴び撃沈する、下部の戦艦は撃沈こそしなかったがいつ爆破してもおかしくない。

「後方より、敵AD六機接近!」

 エナは敵を確認し知らせる。

「急速旋回!」

 私の指示で戦艦は急いで反対を向く、この巨体ではGが重い。

「前方ビームバリア展開!シルア、敵の戦艦に突っ込んで!誤差修正は私がやります!」

「了解!」

『大きい、衝撃に備えてください。クルーは近くに掴まり衝撃へ備えてください。』

 艦内放送が警報と共に響き渡る。

 戦艦の前方が敵戦艦にめり込む、ビームバリアの層で外傷は少ないが、衝撃が強く大きく揺れた。

「ビームバリア解除!前進!」

「艦長!エンジンルームに問題発生!オーバーヒートです!」

 エナが緊急の連絡を入れる。

「構いません、高出力で前進。」

 敵戦艦を巻き込みながら前進する、敵戦艦を盾に敵ADを巻き込みながら前進する。

「戦艦がなくなれば、敵ADは補給ができません。今すぐにここから離脱、新型ADの追跡を。」

「了解、新型ADまでの最短航路を設定。」

 クルシュが航路を設定する。

 敵ADの追跡を振り切り、食い込んでた戦艦は脆くなり真っ二つに折れる。

『艦長!マルテラだ!エンジンルームが持たねぇよ!少し休ませろ!』

 機関室統括からお叱りの言葉を受けた。

「それはメインエンジンですよね?壊れたら予備に切り替えてください。」

「新型ADが一機近付いてきます!型番はADU.E-1です!」

 エナは強奪された宇宙用新型ADを確認する。

「対空砲用意、撃って。」

「撃て!」

 敵の宇宙用の新型は対空砲を潜り抜け近づき、ビームマシンガンで戦艦は損傷を受ける。

「右舷対空砲にダメージ!」

 エナは随時損傷部分を知らせる。

「さすが宇宙専用。」

 新型ADは虫のように自由自在に動き回る、対空砲の牽制は意味をなさない。

「リー副艦長、代わりに指揮をお願いします、時間を稼いで。」

「了解!」

 私はホログラム式のキーボードを映し、敵の新型のハッキングを行う。新型は幸いにも戦艦の回線内に入っている、チャンスは最大限に活かす。

 新型ADは後方に周りジェット部分へビームマシンガンを放つ。

「回避行動!」

 リーの命令を聞いたシルアは船体を左下に下げジェット部分の直撃は避ける事に成功はしたが、攻撃は受けてしまったので出力が低くなる。

「後方第四ジェットブロック被弾!機能を停止!推力の低下を確認!」

 エナが知らせてくれると機関室から通信が入る。

『こちら、エンジンルーム!出力が32%減、今も減っている!予備エンジンに切り替えるが、さっきまでの出力は出ないからな!』

 マルテラから通信が入ると事の重大さが分かる、出力が出ないという事は敵を振り切れないという事だ。

 新型ADがメインブリッジ前に姿を現す、右腕につけているビームマシンガンが向けられる。

「ここまでか……。」

 リーは唇を噛み締める。

 新型ADの右腕からカチカチと音がする、弾が出ないようだ。

「う、上部主砲、副砲!撃て!」

 リーは急な出来事に躊躇いはしたがチャンスを逃さず、命令する。

 主砲、副砲は新型に当たりはするが、装甲を掠る程度だった。

 異変に気付き、新型はどこかへ行ってしまう。

「もう少し、早ければ……。」

 リーは自分の判断の遅さを悔いた。

「いいえ、よくやりました。機能までは停止できませんでしたが、武器の使用を禁止にしました。」

 私は短時間の間で色々な情報をハッキングした。

「ですが、逃してしまえば。」

「いいえ、位置情報を共有させました。これで、どうしてネスト2を無視してここまで来られたのかわかります。」

「短時間で、よく出来ましたね。」

 リーは驚いたように話す。

「言ったはずです。負けるはずはないと。」

 今回、アルテミス・クエルは戦艦二隻とAD数機を破壊した、戦艦一隻でここまで戦えると証明して見せたが、損傷は大きく補給と修理が必要だ。

 私達はネスト1へ再び戻る。


 EP.4へ続く……。

読んで頂きありがとうございます、これからもよろしくお願いします。

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