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EP.2 冷たい高鳴り。

 いつも前触れもなく事が起きる、それは自分の変化を知らせる大きな兆候である。

 受け入れ難い現実を前に俺は足を進めるだけだった。

 

「な、なんだ!?」

 マヤと話しながら歩いていると大きな破壊音が耳に入る、地上からだ。

「上で何かあったかも、先輩急いで戻りますよ!」

 彼女と一緒に来た道を戻る、警報音が甲高く響く通路を走り抜け、戦艦がある場所へ戻る。

 

 戦艦が見えると、周りの整備兵は急いでADを戦艦へ詰め込んでる。

「マヤは早く戦艦へ戻った方が良い!」

「先輩は!?」

「戦うしかないだろ!?さぁ、早く!」

 それだけ伝え俺は降りたADに再び戻る、敵襲である可能性は非常に高い。

『第四ブロックに侵入者確認。』

 格納庫に警報と共に第四ブロックへ何者かが侵入している放送が流れる、狙いはここ第五ブロックで間違いはない。

「なんで知ってるんだ……。」

 コクピットに入って準備するなり、独り言をこぼす。第一ここはネスト1だ、ネスト2を超えなければ辿り着くことは難しいはず。

『隊長!敵は黒いAD数機のようです。ものすごい速さで、ここ第五ブロックまで進行してます!』

 フランクは今の状況を伝えてくれた。

「フランク!マサトを守れ!」

『しかし……』

「敵はブラックナイツだ!俺達が太刀打ちできる相手じゃない!」

 フランクに指示をすると、第四警備部隊から通信が入る。

『こちら第四警備部隊、敵の襲撃に遭っている!今すぐ増援を求む!第一から第三ブロックまで破られてる!第四ブロックも限界だ!うあああああああ……!!』

 大きな悲鳴と共に微かな爆発音を残し通信が切れた。

 その瞬間、上が大きな爆発を起こして黒いADが五機落下し着地する。

「多いって……。」

 あの恐怖が蘇ってくる、おまけに複数と来た。確実に負けを確信する。

 黒いADがこちらに向かってきた、得意な格闘戦を仕掛ける気だ。

「フランク!マサトと脱出しろ!今しかない!」

 俺は指示を出し、ヒートナイフで応戦する。

 黒いADはそれを予測しており、周りにはまだ整備兵もいる。銃を撃とうものなら彼らを巻き込むのを彼らは知っている。

 敵はヒートナタを抜き攻撃を仕掛けナイフで防ぐ。

「ガイアシステム!格闘データを混合させて応戦しろ!」

『了解。格闘データファイルをランダムに組み合わせます。』

 俺は右操縦桿、右前にあるボタンを操作しナイフを捨てると俺のADは敵の懐へ入り込む事に成功した。

 そのまま敵の体を両腕でホールドし、体重を敵に乗せる。敵は後方に倒れ上手い事右腕は敵の首に入り込みそのまま締めつぶす。

 黒いADの首に油圧部分である所から油が噴き出て、モノアイは点滅し始める。メインカメラは機能を失っただろう。

 敵は右手に持っているナタを俺に刺してこようとする、その前に立ち上がり距離を取った。

 敵のADは立ち上がると頭が垂れており、電気配線や油圧線、全身に巡らせているクーラントホース等が出ている。

 

「まだか!」

 俺は時間稼ぎをしている間、フランクがマサトを連れて行ってないのを確認する。

『隊長、マサトのADが動かないです!トラブルかも!』

「コクピットはどうなんだ!」

『それが、全然AD自体が動かなくって!』

 フランクと会話をしていると黒いADがもう一体近づいて来る、次は奇跡なんて起こせない。他三体は戦艦に収納中の新型ADと収納しきれてない新型を狙っているようだ。

「フランク!コクピットを壊せ!今すぐだ!」

 黒いADの狙いは俺の後ろにいる部下二人だ、脅威はなるべく排除したいのだろう。

 メインカメラを破壊された黒いADはしばらく動けないはずだ、二人を狙うADを止めに行く。

「こっちだ!!」

 俺は注目をこっちに集める、食いついてくれるか。

 黒いADのモノアイは俺を確認するが襲ってくる様子はなく、二人を狙っていた。

「くそ!」

 あの黒いADに近接武器は見受けられなかった、俺のADもナイフを捨てたので都合が良い。

 黒いADが二人へ近づく前に手で押さえて動きを止める。

 手で動きを抑えた瞬間、敵の突っ込みをモロに受けてコクピット内は大きく揺れる。

「おら!」

 右手操縦桿トリガーを引き相手の頭を殴る。

 それと同時に相手も格闘戦に持ち込み殴り合いが始まる。


『な、何が起こってんだ!』

 すると、さっき喫煙所まで案内してた新型機のパイロット三人が現れる。

「ぼさっとするな!戦艦までいけ!」

 ADから音声を発し戦艦まで行くよう促すが、彼らは怯えていた。

『た、助けてくれ!』

 彼らは混乱しており、その場から動けないでいた。

 

 奥に居た黒いADは戦艦に格納途中の新型と対峙する、整備兵は対抗するべく銃を用いるがADの前では豆鉄砲そのものだ。

 新型の周りを囲む、整備兵を速射砲で一掃した。

『う、うあああああ!!』

 それを遠くで見ていた、新型のパイロット達は人が死ぬ姿を見て尻餅をついてしまった。

 黒いADは整備兵を一掃した後、速射砲を新型のパイロット三人に向ける。

「や、やめろー!!」

 生意気な奴らとは言え、実戦もした事のない人達だ。戦争という理由で死んで欲しいなんて思わない。

 黒いADが引き金を引いた後、彼らの体は分離した。30mmの弾だ、あんな物を直に食らえば人の形なんて残してくれるわけなかった。

「クソッタレ……。」

 彼らの死を見て少し嫌な気分になると同時に二年前の人の死がフラッシュバックした。

 俺と対抗している黒いADはそのまま俺を壁に押し付け、潰そうとする。

 ADは装甲が少しずつ歪み内部のパーツが損傷していく、色々な液が混ざり合い装甲の隙間から流れ落ちていく。胸部装甲も少し歪みコクピットを固定している所が損傷し、俺が丸出しになる。

 

『隊長!マサトのコクピットが外れました!今、助けに……』

 通信でフランクの声が聞こえる。

「そのまま、逃げてくれ。敵は今、俺と新型に夢中だ。」

『置いてはいけませんよ!』

「良いから行けって!お前じゃ何もできない!」

『了解です……』

 フランクはADの手の平にマサトを乗せ、上へ繋がるAD用のエレベーターへ急ぐ。

 俺を押し潰そうとする、黒いADのモノアイはフランクに目を付ける。

「ここまで来てやらせると思うか?」

 俺はVRゴーグルを脱ぎ、シートベルトを外した。股の間にパネルがあり操作する、ADに内蔵されたバッテリーを超加熱ささせる。

「彼らを逃すまで、死ねない。」

 パネルを操作した後、ADから飛び降り、戦艦へ走る。

 黒いADも急な出来事に戸惑い、俺をモノアイで追ってると、俺の乗っていたADは爆破し黒いADに多少なりともダメージを与えられた。

 ダメージをもらったのは黒いADだけじゃない、俺も爆破に巻き込まれ吹き飛ばされるのと同時にADの破片もいくつか体にめり込む。

「痛すぎる……。」

 小言を溢し、再び戦艦へ向かうが、敵は格納し切れなかった新型ADを強奪していた。

「えっと……三号機と四号機、初号機の派生機だったかな……。地獄か……。」

 彼らは乗ってた黒いADで周りにいた整備兵を撃ち殺し。乗り捨て、新型のADを強奪した。

 新型が立ち上がり、初号機の派生機は宇宙仕様で足がないため上体しか起こしてない。

「格納できたのは二号機だけ……」

 戦艦の格納庫ハッチは閉まっており、整備兵だけでも助けるようにと人命を優先させた。

 初号機を見るとまだ起動はされてないが、人影が見える。

「首をやった奴か、行かせるかよ!」

 最初にメインカメラを破壊させた黒いADのパイロットで間違いない、拳銃をホルスターから抜き新型へ接近する。

 敵は既にコクピット外部におり、開けるのに苦戦している。

「そこから離れろ!」

 俺は彼の背後を取り銃を向ける。

 敵は両手を上げゆっくりと振り返る。宇宙用のヘルメットで顔が視認できない。

「全く、地球人は甘いな。」

「何?」

 敵はヘルメットを脱ぐ。

「動くなよ!」

「私を撃っても結果は変わらん。皆死ぬ覚悟で来ている。」

 敵は男で若い印象を持つ、月の人間特有の色素の薄い肌で白い。

「私達ルナティック・ブラックナイツは月政府の騎士として存在している。貴様は何故ここにいる?」

「哲学を語る程暇じゃない。今すぐコクピットから離れて機体を譲れ。」

「機体が欲しいのだろう?撃った方早い。お前は私に勝てる状況を作っておきながら殺さなかった、何故だ?」

 俺は彼と戦う時、殺せるはずだった。腕で締め壊してメインカメラを破壊後、ナイフを持ってコクピットを刺せばよかったのだ、それが出来ないのは己と相手の死を恐れたからだ。

「なるほど……怖いのか、戦いと死が……この機体に乗れば一生分の戦いと死が待っているというのに……。」

「何を知っている?」

「知りたければ、証拠を集めるんだな。この戦いと、そして己の正解を……己の正解はいわば正義だ。」

「お前らが正しいと?」

「本質を言えばどちらも正しくない。答えは選択によって決まるのだから……俺たちのように……。」

 彼が話していると、戦艦の副砲が火を吹く。壁に穴を空け大気が外へ逃げる。

「また会おう、私は君の答えを待っている。」

 謎めいた事を言い、彼はヘルメットを付ける。その後、俺が自爆させたADの爆破に巻き込まれた黒いADが男を回収する。

 穴は丁度AD一体を逃がせる程の大きさだ、敵に奪取された新型ADはその穴に向かって脱出を試みる。

「くそ、大気が……体も冷えて持たない……。」

 第五ブロックからは足りない大気を補おうと充填させてるが間に合わない。

『聞こえますか?私です。アルテミス・クエルの艦長、ノアです。』

 戦艦から音声が発せられるが、大気を漏らす音がうるさく、聞こえにくい。

『初号機のロックを解除します。死にたくないなら乗ってください。』

 彼女の音声が途切れると、初号機のコクピットが開く、中へ入るといつも通り狭いが中のデザインは一新されていた。

 中に入るなり、コクピットは閉まり席に着く、シートベルトを付けて股の間にあるパネルを操作。

「初期状態か……ガイア・システム?」

『ガイア・システム起動。ご用件をどうぞ。』

「地球軍エイジ・スガワラのデータをインストール。」

『了解……データインストールに問題が発生。ブロックされてます。』

「くそ、こんな時に……。」

『ブロック解除と起動には、パイロットの生体認証登録が必要です。』

「起動もか!?」

『はい、従来のADと違い。『パートナー・システム』が内蔵されてます。』

「パートナーシステム?」

『このシステムの本質はAD.E-1……つまり私をパートナーとして受け入れる事にあるのと同時にこの機体はあなた専用の機体になります。』

「つまり、ずっとこの機体に乗り続けろと?」

『期間は月政府の鎮圧までです。他のパイロットの登場は出来ず、起動は愚かガイアシステム……いいえ、私の起動もできません。あなたが他人に委ねる事もできません。』

「選択……AD.E-1。で良いのか?」

『言いづらければ、いつも通りガイアシステムで大丈夫です。』

 その時、通信が流れてくる。

『こちら、アルテミス・クエルのノアです。エイジさん、敵は地上に数機の月政府ADが人を襲ってます、先程の奇襲で地球軍のADは数が少なく苦戦してます。宇宙には月政府の戦艦が二機とあります。出来れば地上に出て戦闘に参加してください。』

 俺は迷っている、このまま生体認証を登録すれば俺は戦いに駆り出される。このまま見過ごせば、少なからずとも人は多く死ぬ。

「ガイア・システム……いいや、お前だったら敵を簡単に倒せるか?」

『もちろんです。あなたが私を信じてくれたら、私もあなたを信じます。あなたの願いを失礼ながら読み取らせていただきました。私も同じ願いです。』

「俺は人の死を見たくない……ゼロにできなくても減らしたい……信じていいんだな?」

『はい、貴方の恐怖する戦いも一緒に乗り越えます。恐怖で屈した時は私が立たせます。貴方のその願いの先を見届けたい。』

「なら、見せてやる。」

『ありがとう。』

 俺はパネルに手の平を当てた。

『生体認証登録……パートナーシステム実行、地球軍エイジ・スガワラを承認。AD起動、操作をパイロットに一任します。』

 初号機の起動音が鳴る。

 俺は上にあるVRゴーグルを付けると変な感覚に襲われる。

 『ニューラル・インターフェイス・システム作動。』

 その機械音と共に誰かが俺に話しかける。

「私を助けて。」

「誰だ!?」

 目を瞑ると誰かが居る。

「こいつを実験に?」

「ああ、世界は一つに……。」


 その会話だけ聞いて目を開けるとVRゴーグル内に『AD.E-1 Start up』と映し出され、AD頭部が見ている情報が出てくる。

「今のは?」

『幻覚です。』

「幻覚?」

『私も誰の情報か分かりません。』

「見えたのか?」

『はい、私はエイジさんと一心同体。離れてはいけない気がするんです。』


 俺はこの時、ガイアシステムに感情のようなものがあるように感じ、人のような虚しい感覚を共有した。

 この感覚をガイアシステムは受け付けたくないと感じてるのが俺にも分かる。

 その気持ちを俺は精一杯に受け止めた。


 EP.3へ続く……。

 

読んで頂きありがとうございます。

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