EP.1 未知
時々夢を見る、2年前のネスト3奪還作戦を……。
訓練と実戦は違う、それを身をもって体験して以来もう二度とあの場へは行きたくない。
先輩方が倒した敵のADの悲鳴が寝る度に思い出す、最近は落ち着いてるが忘れる事のない記憶だ。
AM6:32 ネスト1の駐屯地、自室にて目覚めの悪い朝を迎える。
『ガイアシステム記録を開始。エイジ・スガワラ上等兵のヘルスチェック……メンタルの異常を確認、心療内科への受診をお勧めします。』
俺の左腕には常時近未来的なリストバンドが巻かれている、そこから俺の心身の状態を調べた、俺のは一応軍属用で提供されてるものだが。一般社会の住民も付けている、一昔前はスマホを携帯していたが今の時代はこれを携帯している。
名前を『ガイア・リンク』と言われており、ガイアコネクト社が作ったものだ。
「ガイアリンク、今日のスケジュールを。」
『本日は9:00より作戦室にて警備の予定を確認します。』
ガイアリンクの話を聞きながら、下着を脱いでシャワー室へ行く。冷や汗が気持ち悪い。
シャワーを浴びると気持ちがリフレッシュされる。
『今回の防衛対象は新型機動戦艦、そして新型AD数機です。』
事前に資料をもらったが今日、地球からその護衛対象が送られるそうだ。
シャワー室の水が止まると今度は生暖かい風が送られる、シャワー室自体がシャワーとドライヤーの役割を果たしてくれる。
さっぱりして地球軍の制服に着替えて自室を出る、そのまま食堂へと向かう。
「お疲れ様です、エイジさん。」
地球軍兵士とすれ違う度に挨拶が交わされる、ネスト1駐屯地は落ち着いた職場だ。
食堂へ入ると奥のテーブルで手を振る地球軍兵士を見かける。
「おーいこっちだ、エイジ!」
俺は友人を見かけると急いで食べ物を買って席に着く。
「今日も元気だな、マルコス。」
俺が今話してるのは、マルコス・シルア。2年前ネスト3奪還作戦の時の整備兵だ、俺がADで縮こまってた時に黒いADを見ようと手を引っ張ってくれた奴だ。
「だって新型のADEが拝めるんだぞ、こんなチャンス滅多にねぇ。」
「ADE?ADじゃないのか?」
「アホか!資料を見なかったのか、今まではアームド・ドロイドで地球も月もデザインは違くとも同じ設計だった、そこでちゃんと地球の技術だって見せつけるために『アームド・ドロイド・アース』でADEなんだよ!分かったか!」
「あ、ああ……そうか……。」
彼はADの話をすると周りが見えなくなる、人情的でいい奴だが、根はメカニックとしてのプライドがあるようだ。
「それに、俺はネスト3へ行く。お前とまた会えるか分からん。」
「今までそんなの言ってないだろ?」
「言おうか迷ってたんだよ。俺は本日付で新型機動戦艦の整備兵に配属される、前線に出す用の戦艦だからな……」
彼は死ぬかもしれないと思ったのか少し俯いて話す。
「別に何とも思わないよ、行ってこいよ。ただ、生きて帰ってくれば良いだけなんだし。」
「そうか、この話をしてお前が昔を思い出すかもって思ったのさ。でも、いらん気遣いだったな。」
「本当だよ、俺もそこまで心が弱いわけじゃないから心配しないで。」
その後、彼とご飯を食べて時間を潰し作戦室へ入る。
作戦室の中には駐屯地に務める兵士が多く座席に座っていた、席は弧を描くようになっており中央にスクリーンがある。
「これより、新型ADの護衛任務の詳細を説明する。」
今回の任務責任のある上官が説明してくれる。
「今日の12:00頃に地球から新型機動戦艦一隻と中に入っている新型AD五機の護衛になる、これらはまずネスト1地球側格納庫に入って第五ブロックに移送される、そこから戦艦とADの点検に入るためADは戦艦から出される。」
第五ブロックはネストの中でも最重要機密ブロックの扱いになる、守りは厳重で防衛扉が何重にも重なっている。
「守るのは兵器だけではない、戦艦に配属される隊員もだ。彼らは出航式の際に戦艦へ登場する。」
「司令、出航式を行うのですか?」
隣にいた兵士が疑問に思い質問する、確かに資料では出航式の項目はなかった。
「ああ、急ではあるがネスト3奪還のため声明を出さなければならない。最近は地球政府が敗戦続きで不審の目もあるため、新型ADと新型戦艦の技術力を見せネスト3奪還の意思を見せねばならん。」
話をまとめると俺達は第五ブロックと地上の出航式を護衛しろという事だ。
今回の新型戦艦とそのADはネスト3奪還と月中都市の鎮圧を目的とした兵器だ。
「話は戻るが、お前達『ネスト1AD警備大隊』のスケジュールはガイアリンクに計画表を送ってある、後で確認してくれ。それから……」
司令官からある程度の作戦内容を聞いた、俺は最初に地球側格納庫へ行き新型戦闘戦艦が入り次第、第五ブロックへ移動し新型戦艦の点検補給が終わるまで警備する。終わり次第新型戦艦と共に地上へ行き、出航式が終わるまで警備になる、休憩はなく大変だが頑張るぞ。
「ガイアシステム、新型の資料を。」
俺は作戦室での予定確認が終わるとガイアリンクに今回の護衛対象ADと戦艦を表示するよう指示する。
時計を見るように左手を前にだしガイアリンクがホログラムを出す。
『今回の護衛対象です。新型戦艦『アルテミス・クエル』型番『BS.A.E』は最重要防衛目標です。』
新型戦艦は普通の地球軍が持っている戦艦と比べて二回り程大きかった。
『続いてADです、一機目は『AD.E-1』地球軍の最新機、初号機になります。以前の『AD-3』の良さを踏襲した機体であり汎用性に秀でています、今後の量産機はこの初号機をベースにして作る計画のようです。』
新型機の初号機は以前のADと違い無骨さは無くスリムで人体的な形をしており白色、動きがより人間ぽくなったそうだ、ちなみに『AD-3』は現在運用されてるADの型番だ。
『二号機です、『AD.E-2』近接戦に特化しており、両腰の『対AD用刀』に右手には『マウント式25mm速射砲』が装備されており機動力が強みです。』
見た目は初号機と変わらない、色は赤で右手にだけマウント式の装備が自由に付けられるようだ、初号機と比べて装甲が覆われているわけでは無く、脛の骨組みの部分が見えていたりと軽量化されてるのが分かる。
『こちら三号機です。『AD.E-3』ステルスを得意とし遠距離からの攻撃を得意とします。装備には『三号機用180mm遠距離砲』と『ヒートナイフ』『25mmハンドピストル』を装備しており装甲は光学迷彩を採用してます。ただ光学迷彩使用中はバッテリーの消費が激しいため長時間の使用は危険だそうです。』
この機体だけ開発コストがとても高い、見た目こそ初号機と変わらないが使っている装甲が違う、光学迷彩装甲は周りの環境に合わせて装甲の色が変化し背景と透過している様に見せる、宇宙空間であれば黒になり地上のジャングルでは緑の迷彩へと変化する。遠くから敵を射撃するコンセプトなのが伺える。
『四号機です、『ADF.E-4』ADFは『アームド・ドロイド・フライトタイプ』の略です。地球軍が初めて飛行形態になるADを開発しました、飛行形態中は高速移動が可能であり、宇宙、空中もジェットパックの換装は入りません。ただ、武器は少なく両腕の『25mmガトリング』両腰の『帯電ワイヤーアンカー』です。』
見た目は先程の新型達と違い複雑な形をしている、変形機構を採用しているのか骨格が複雑でスリムな体型ではなく所々突出した装甲が目立つ。
『続いて五機目ですが、五号機ではなく初号機の派生機になります。型番は『ADU.E-1』ADUは『アームド・ドロイド・ユニバース』です。名前の通り宇宙仕様になっています、装備は両腕にあります『ビームマシンガン』『ビームソード』になります、地球軍が初めてのビーム兵器の導入になり試作段階の機体でもあります。』
見た目は初号機と変わらないが、足が無く脛部分しかない。足があったはずの場所は推力機が付いており、背中にはまぁまぁ、大きいジェットパックが付いており両肩には小さい推力機が付いている、宇宙空間を自由に動き回る様に設計されているのが分かる。
『これらの新型ですが、以前月政府の『シンクロ・リンク・システム』を踏襲した『ニューラル・インターフェイス・システム』を導入しました。月政府のルナティック・ブラックナイツの様にうなじにコネクター部分を作る事はなく、彼らと同じことが出来ます。』
その話を聞いて2年前の黒いADに乗ったパイロットを嫌でも思い出してしまった。彼らブラックナイツは格闘戦においては右に出る者はいない、ガイアシステムの既存格闘データではなく彼ら独自でリアルタイムで格闘システムを構築してるのだから。もし彼らと同じ事が出来るなら勝機はあるだろう。
俺はパイロットスーツに着替えて駐屯地AD格納庫へ入る。
「エイジ隊長今日はよろしくお願いします。」
「よ、よろしくお願いします。」
二人俺に挨拶してくれた。
今回は三体編成のチームで行動する、フランク二等兵とマサト訓練兵をまとめなければならない、ここ駐屯地では訓練兵も研修として預かっている、将来有望なADのパイロットとして普段どんな仕事をするか体験させるのだ。
「今日はよろしくね。第三警備部隊、隊長を務めますエイジ・スガワラ上等兵です。」
挨拶するとADに乗り込む、相変わらず狭い。
「もっとこう、広くないと腰を痛めそうだ……」
愚痴をこぼしながらも渋々シートに座る、「コクピット閉めるぞ!」と注意喚起しVRゴーグルを付ける。
「AD起動開始。」
俺が狭いコクピットの中で呟く。
『ガイアシステム起動します。搭乗者確認……地球軍エイジ・スガワラを承認。AD起動、操作をパイロットに一任します。』
VRゴーグル内に『AD-3 Start up』と表示され起動音と共にゴーグル内の映像が切り替わり、頭部から見えてる情報が共有される。
「フランクとマサト……聞こえるか?」
俺は二人に通信する、ここは戦場ではない為ネットが混在し遠隔通信を遮断される心配はない。
『フランク二等兵、通信良好であります。』
『こ、こちらも良好です。』
彼らの声がヘルメットに響く。今回は地上での警備なので宇宙ヘルメットかぶる必要はない。
「マサト訓練兵、落ち着いて任務に当たれ。大丈夫だから……」
『しょ、承知しました。』
今回の装備は30mm速射砲と左腰にヒートナイフがマウントされており、左腰には速射砲のマガジンが装備される、対ADを想定した装備でないので、180mm装甲貫通弾は装備してない。
俺達は地球側の格納庫に向かうため地下へ繋がるAD用のエレベータに乗る。
地球側の格納庫には第四警備部隊が既にいた。彼らは今回、地球側の格納庫の警備を主にしてる様だ。
地球側の格納庫が開くと大きな戦艦が入って来る。
『あーあー聞こえますか?』
すると、戦艦から女性の声が聞こえる、通信員だろうか。
『こちらネスト1管制塔、話は聞いている。そのまま第五ブロックへ移動してくれ。』
『了解でーす。』
戦艦から軽い返事が聞こえる、舐めてるのか?
俺達は戦艦と共に第五ブロックへ移動し彼らが安全に点検補給ができるように警備する。
第五ブロックに着くと戦艦の出撃ハッチから機体が五機出てくる、操縦しているのは新型のパイロットだろうか。
『おい、エイジ!お前も出て来て挨拶ぐらいしろ!』
第五ブロックに居た補給兵上官から注意された、渋々コクピットを出て今回警備する戦艦のクルーと挨拶する。
俺と今回の部下二人を引き連れて戦艦へ向かうが「おい、取り扱いには気をつけろ!」という女性の声が響き渡る、あれは二号機だろうか。
二号機を見ていると女性パイロットと目が合うがどこかで見たことあるな……。
「隊長、あの人なんか隊長に手振ってませんか?」
フランク二等兵が話すが、本当に俺か?
「いやいや、俺じゃないだろ。」
そんな事を話してると女性パイロットがこちらに走って来た。なんか見た事あるんだよな……。
「先輩!お疲れ様です!」
「ん?マヤか?」
「そうですよ!忘れてたなんてひどい!」
この子は『マヤ・リリデンス』という名で当時、地球日本にあるADを専攻する軍部学校時代の後輩に当たる。
「なんでここにいんだ?」
「なんでって、私新型の二号機パイロットですよ。」
「さすが飛級生……。」
「先輩大丈夫ですか?急に連絡来なくなったから……」
「ああ、大丈夫……なんともないから、ただ忙しくて……」
PTSDになって一時期連絡を全て絶っていた、家族との面会も推奨されたが、わざわざ地球になんて行こうにもお金はかかるし家族の方から来て彼らを迷惑をかけるわけにはいかない。
「じゃあ、私やる事があるんで、時間があったらなんか奢ってくださいね。」
「ああ、分かった。」
彼女と別れた後、戦艦のメインブリッジへ行く。
行く道中は新型なだけあって内装は綺麗だ。
メインブリッジへ着き艦長らに挨拶する。
「今回警備をします、ネスト1駐屯地から来ました第三警備部隊隊長エイジ・スガワラです。」
「同じく、駐屯地所属フランク二等兵です。」
「今回研修で来ました、マサト訓練兵であります。」
それぞれの自己紹介を終えると彼女達が俺たちを見る。
「護衛の任務、ご苦労様です。私は『リー・シュウ』アルテミス・クエルの副館長です。」
彼女はクールで威厳のある感じだが艦長ではないようだ。
「さぁ、艦長。あなたも挨拶を。」
リー副館長は後ろへ向き座席に座っているであろう艦長に伺う。
「どうも、艦長の『ノア・G・ニブルス』です。」
座席をこちらに向け姿を露わにするが正体は少女だった10代前半の子供がなぜ前線に向かう新型戦艦の艦長をしているのだろうか。
「あなたの考えにお答えする事はできません。変に察するのは遠慮してください。」
すると、俺の考えてる事が分かったのかノアから返事が帰ってくる。
「すいません。失礼な事を……」
俺は不躾なことをしたと思い、艦長に謝るが。
「なんて、冗談ですよ。人の思考なんて読み取れるわけないじゃないですか。」
「ああ……そうですよね。」
そんな事を言ってるが本当だろうか、顔は真顔だし目すら笑ってない、底が分からないという感じだ。
「出たー艦長の冗談、面白いっすね。」
通信員だろうか、地球側の格納庫へ入った際、管制室に舐めた感じで通信していた声と同じだ。
「他にもクルーはいますが現在は席を外してます、挨拶できず申し訳ない。」
副艦長から謝罪される、誠実さが伝わる人だ。
「いえ、大丈夫ですよ。我々は警備に戻ります。」
俺達は戦艦から出てADまで向かう。
いつもの狭いコクピットで俺は周りを警護してると、三人の新型ADのパイロットが屯していた、彼らはタバコを吸い、舐めた態度で休んでいた。
「皆んな、若いな……俺もだけど……それにしても気が緩みすぎてないか。」
俺は彼らの態度に少し不服に思うがこれから戦地に向かうのであれば仕方のないかもしれないと感じた。
「でも、ここ喫煙禁止エリアだし……注意した方がいいか……。」
独り言を呟いてやっと決心が着いた、タバコを吸うなら場所を弁えることだ。
俺は彼らに近づいて注意しようとした。
「そこの、パイロット。ここは喫煙禁止エリアだ、場所を移してくれ。」
『チッ……ウッセーな……。』
彼らの小言が聞こえる、聞こえないつもりだろうがADの集音機能は優秀だ。
『警備員さん!だったら喫煙所まで案内してください!』
なんとも上から目線だが仕方ない。
俺はADを降りて彼らを喫煙所まで案内しようとする。
「ごめんね。喫煙所はね……」
俺は下に出て彼らの機嫌を損ねないように立ち回る。
「案内助かります、上等兵殿。」
少し皮肉めいた感じで話してくる、一体何なんだ。
「おい、この勲章見ろよ。ネスト3奪還作戦の。」
「あー負け犬ね。ダッセェ勲章だな。」
俺の胸につけた勲章を見るなりバカにしてくる、ネスト3奪還作戦に参加した際のバッジがパイロットスーツに付いている、彼らの印象では負け犬の扱いだろう、彼らは多分実践経験を知らない素人だ。
「とりあえず、案内しますね。」
彼らの痛い言葉を聞く必要はない、負け犬である事は間違いないが、彼らには敬意というものがない。
「早く案内してください、なんなら犬みたいにリードで繋いであげましょうか?」
「はは、俺は犬ほど利口じゃないから……。」
少し頭に来るが我慢だ、大人として落ち着いて対処しなければ。
「センパーイ!」
俺が彼らを案内しているとマヤがやって来た、なんか騒がしくなりそうだな。
「マヤちゃん、今さコイツに喫煙所まで案内されてんだよね。」
「コイツって先輩ですか?」
「何?知り合いなの?」
「知り合いも何も学生の時の先輩ですよ。」
「こんな負け犬が?」
「ああ!?」
マヤが負け犬と聞いた途端キレ始める、ちょっと嬉しいな。
「何怒ってんだよ、冗談だって。」
「先輩行きましょう、こんな奴に構ってる暇ないでしょ?」
「ああ……そうだな……」
俺はマヤに腕を引っ張られその場を後にする。
彼女と一緒に歩いていると彼女から話が始まる。
「さっき整備士の人に聞いたんですよ、先輩が連絡絶ってた理由ってPTSDだったんですね。」
「あーすまん。」
言ったのは誰だろう……。
「私、空気も読まずにずっと連絡して来て迷惑でしたよね?」
「いいや、そんな事ないよ。本当は出ようか迷ってたけど数ヶ月も空いたのに今さら連絡してもって考えたんだ。」
「でしたら、病んだ時は私を頼ってください。いつでもお話し聞きますよ!」
我ながら良い後輩を持ったと思う、マヤは昔から人懐っこいイメージがある。
彼女と話をしていると、前触れもなく何かが破壊された音が聞こえる、それと同時に侵入者を知らせるアラームが鳴る、この甲高いサイレン音は不安と緊張を与えてくれる。俺は彼女と共に戦艦のいる場所へ戻るのだ。
EP.2 へ続く……。
読んで頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。