EP.27 打ち上げ
4月25日……戦いは宇宙へ移行する、ハンソン・ドロイド社には戦艦の発艦場を設けている。格納扉が開き地下に格納された打ち上げ施設がゆっくりと迫り上がる。打ち上げ施設には地球軍の艦隊が垂直にセッティングされており量産機である『AD.E-MP(エディM)』を多く積んでいる。本格的物量戦に持ち込む準備が整っているのだ。一隻ずつ打ち上げが始まり、経由地点であるネスト3へ向かう。
そんな中、アルテミス・クエルは最後の打ち上げになり、クルーは時間が来るまで各々自由にしていた。
アルテミス・クエルのAD格納庫にエイジとマルコスが談笑する。
「打ち上げまで時間が長い長い……。」
マルコスは暇そうにとある機体を見ていた。
「なぁ?なんでこの機体がここに?」
間違いなく、ここにあるべき機体ではない。黒々とした四つ足の機体。
「ああ……お偉いさんがゴミを押し付けてきたんだよ。『ADQ.E-5(エディ5Q)』は部品の換えは高価で修理できねぇとよ。バッテリーは爆破しちまったしコクピットもボロボロ……強いてゆうなら脚部パーツぐらいしか使えねぇか……いや、資料によるとバッテリーが特殊だったような……従来のバッテリーじゃ出力が……」
また、自分の世界に入ってる……とはいえADQ.E-5を押し付けてきたのか疑問だな……お前らで処理しろって話だろ。
すると、背後から誰かが近づく。
「疑問をお持ちね、エイジ・スガワラ?」
「うわ!びっくりさせるな?!」
正体はミランダ・ハンだ、何故ここにいる?
「ミランダちゃん!!俺に会いに来たのか!?」
マルコスはミランダの事が好きなようだな……スパイだって聞いたら驚くだろう。
「この機体はネスト3で廃棄予定よ。」
「大気圏で燃やしちゃダメなのか?」
とりあえず、疑問を投げる。
「なんでも宇宙環境の観点からダメらしいわ。宇宙ごみ一つで戦争する時代よ?そういう観点は必要よね?」
「何が、宇宙環境の観点だよ……宇宙でバンバンやってるくせして建前は一丁前だな……。」
そんな会話をしてるとマルコスが割って入る。
「おいおい!!いつ仲良くなったんだお前ら!!エイジお前……ゆるさん!!」
すると寄ってきてヘッドロックしてくる。
「おい、やめろ!!」
「あらあら、仲良しさん。」
それだけ言ってどこかへ行く……マジで何しに来た?
「さよならああああ!!俺絶対に生きて帰るからなあああああ!!」
「やめろ!!死亡フラグだ!!」
ジタバタしながらバカなコントをする、こいつが友人で退屈はしない。
——一方でアルテミス・クエルの病室ではニール・カーがベッドに横たわっており口には入院中に見るような呼吸が付けられていた。体中に包帯が巻かれており火傷や打撲、そして破片による傷が多い。前々回の戦いもあったため体は既にボロボロだ。
その様子をシア・アグラーとノクター・シェルフが観察する。
「全く酷いものだね。」
ノクターは少し目を背けながら話す。
「なんで、彼を宇宙へ?」
シアも同様、彼は巻き込まれた人間という見方をする。
「簡単さ、交渉材料にはなるだろ?」
「まだ、利用するなんて……政府はイカれてます。」
「勝てば良いのさ……目的の手段は選ばない。それがモットーなんだろ?」
ハンソン・ドロイド社工場のカメラにマルヒト・カーが映った。彼は間違いなく宇宙政府の元へ行ったはずだ。彼は己の養子のためなら手段を選ばない男だと政府は分かった。ならばニールを上手い事使う他ない。そもそもアルテミス・クエルは前線に出て戦う事を前提にしている。マルヒトにも遭遇する確率が高い、それを利用するのは当然だ。幸い死んでも特に影響なんてものもない、『ただのガキ』であればだが。
「彼は第三世代強化人間である事が分かった。だが、不適合者であるランクはナイトE-324……ランク圏外だ。だが、おかしい点が見つかった。エディMに搭載されたニューラル・インターフェイス・システムとの相性が悪い。あれはエイジ君達が乗っている機体と違って負荷が低いように作られている、一般パイロット向けだからね……にも関わらず接続された瞬間脳への高負荷が見られた。これが何を意味するか……。」
ノクターは深い思考へ陥る。
「私はとにかく彼をADになんて乗せたくありません。まだ、14ですよ?おかしいです。」
シアは個人的な話をしている。道徳的というべきか子供が戦争するもんじゃないと俗世に囚われた話し方をする。
「ああ、おかしいな。」
すると、ノクターは『おかしい』という言葉に反応する。
「どうしました?」
「考えてもみろ?この子は元々戦艦クルーで雑用。訓練こそしてるがADになんて乗せるほど強い兵士じゃなかった。おまけに騎士落ちだ。」
「ええ、それが?」
話が全く見えてこない、自分の深い思考の話をするのはやめて欲しいとシアは内心思っている。
「悪い、変な話をしたな。ただ、脳内にチップを発見した。この場合彼が騎士だった可能性がある。機体の情報を抜き取られた際チップが起動しパイロットを殺す。そのために存在するならば何故手術に失敗した彼に埋め込む必要があったのだ?」
ノクターは核心をつく、ノア艦長はマルヒトからもらったナイトシリーズのデータを地球政府に公開した。それから政府では様々な考察やら研究が進められている。ノクターもそれに今は没頭している最中だ。
「ん……確かに。」
シアも少し理解する、ニールの特別性を。
「答えなんて分からないが、少なくとも情報を抜き取られた際に発動するならば彼に埋め込まれたチップと連動する情報体がどこかにある、機体に入っているのか……それとも……。」
そこからは考察しようにも答えはない、月に着かない限りは一生不明だろう。
時間は過ぎアルテミス・クエルも発射準備に掛かる。アルテミス・クエルの発射場は特別に作られたものであり。垂直に宇宙へ上げるのではなく、スキージャンプ方式であり傾斜板に沿って発艦する。アルテミス・クエルは一般的な戦艦と比べて三倍大きい……垂直式では無理があった。
発射カウントダウンの時間が来ると各々が衝撃に備えるため席に着きベルトを付ける。その席は自室に設けられており、メインブリッジではそのまま席に付いてベルトを着けるだけで良い、衝撃の観点から正面にGが掛かるよう座席は正面を向いている。
メインブリッジに通信が入る。
「艦長、通信です。」
エナから報告を受ける。
「今ですか?」
少し驚く、何故今にして通信が入るのか。そろそろ発艦に入るのに。
『こちら、ハンソン・ドロイド社の政府ビルから発信してます。そちらにADQ.E-5が格納されませんか?』
どうやら政府から連絡だ。
「はい、項目にADQ.E-5の廃棄項目が……。」
『そうですか……申し訳ありませんがこちらの手違いです。出来ればパーツを出来る限り分解し大気圏へ投げてくれませんか?』
「申し訳ないですが、こちらに廃棄用の格納庫は備えられていません……なんでもネスト3で廃棄するとか……違いますか?」
『そのような計画はありません、その機体は情報漏洩の防止のため即刻破棄するのが政府の間で決まりました。発射時間も迫ってますし……良いでしょう……ネスト3での廃棄をお願いします。くれぐれも地球政府の人間に処理を……良いですね?』
そして、通信が切れる。せっかくの打ち上げだ。金が掛かっている、機体一機の廃棄と比べれば打ち上げコストを優先するという事だ。
政府の人間は渋々承諾した。プランと違う……誰かが情報操作を行ったのか……。
突然の出来事にメインブリッジの人間は顔を見合わせる。
「艦長……私達は誰かから利用されてるのでは。」
リーは少し疑問に思う、ただでさえモルモットなこの部隊。政府にさえ予期せぬ事態が起こる。
「大丈夫ですよ、たまたまでしょう。そして私達は最初から政府に利用されてますし、今更ですよ。」
ノアは表情を変えず応える、この感情が表に出ない感じが何かあるのではないかと勘繰るほどに。
その空気の中シルアが水を差す。
「まぁ……どうせお偉いさんも人間だ。ミスぐらいあるってよ。」
「そ、そうですよ。艦長の言う通りたまたまってねー。」
エナも続いて参加する。
「このプランの立案者は誰か分かりますか?」
ノアが急に問いかける、メインブリッジ全体だ。
「うーん……。」
エナは唸って考える、まず考えた所で出てくる訳ない。ハンソン・ドロイド社のお偉方の名前なんて覚えてる訳ないし、会ってもいない。
「軍の最高司令……『エスタム・ミカウス』ですかな?」
マサトシはノア艦長に尋ねる。
「惜しいですね、私達の作戦の一部分は彼が担ってますが今回の件は違います。」
「では、誰がこのプランを?」
痺れを切らしたリーは答えを求める、所詮知った所でと言う感じだった。
「AIですよ、アース・ガイア・コネクト・システム……彼も参加してより良い道……最善のプランを練ってきました。それをアルテミス・クエルに提示し続けてましたが……誰が干渉したんでしょうね?このネットワーク・システムの一部に……。」
ノアの発言の後、周りがネット操作の一部になっている事に気づく。
このADQ.E-5の処分はガイア・コネクト・システムが作ったプランだ……それを政府が確認したが、知らない間に内容が変わっており処分場所をネスト3に……こんな事は普通は出来ない。常に書き換え続けられる暗号を誰かが解除してプランを変更した、それがいつからか分からない、つまりアルテミス・クエルとAD.Eシリーズを開発してから既に誰かが内容を書き続けている可能性があると言う事だ。政府は書き換えられた情報に気づかず今日までアルテミス・クエルをガイア・コネクトと一緒に指示してきたと思ってる。
「私の……私の中に……。」
ノアは何かを一人でぶつぶつ話している。
「どうしましたか、艦長?」
リーは心配する。動揺だろうか、滅多に感情が出ないのに珍しいと思った。
「心配入りませんよ……さぁ、カウントダウンが始まります。皆さん備えてください。」
ノアが周りに指示を出し発艦準備に入る。
「それと、私は皆さんを生きて帰します。何が起ころうと、絶対に。」
それだけを皆んなに話した。これは建前ではなく本音だ。
そして、カウントダウンが流れて射出……アルテミス・クエルは大気圏を再突入し再び宇宙へ戻ってきた。ネスト3を目指す……。
——エルノアは戦いに敗れ財団のとある建物、椅子に縛り付けられる、なぜかシックな椅子……両足を椅子の足に固定し手は後ろに回され手錠を掛ける、目には布を。ただ、口は自由にされた。
「おい……そろそろ、疲れてきた。」
周りが分からない以上ここがどこだが分からないが、確実に財団の所有する建物だろう。どこまでも腹が立つ連中だ。
「お待たせしました、エルノア・カルティス様。」
「ああ?」
この声はマーガレット・スミス。
すると、目隠しを剥いでくる。目が慣れないと思ったが周りは薄暗くビックリはしなかった。
「ここはどこだ?」
周りを見渡すが、全く分からない。地下である事は間違いないが、内装が少し西洋風屋敷のような感じだ。周りに家具はなく質素で広い。
「ここは財団の所有する建物です、場所までは言いませんよ。」
「それで、『イセリナ』は無事なんだろうな?」
「はい、娘様はこの通り。」
すると、扉が開きメイドが医療用カプセルを押しながら出てくる。中にはイセリナが仰向けで寝ており、あらゆる所に医療用の管が刺さっている。
「イセリナ!!」
「大丈夫です、このように安全ですので。」
「何が安全だ!!適当言ってんじゃねぇ!!」
憤慨する、得体の知れない財団とかいう組織に命を握られたも同然。
「まぁまぁ……私達はあなたに協力したいんですよ。」
「協力だと?」
何が協力だ、ただ利用したいだけだろ?
「私達に協力すればあなたの娘様を第五世代型強化人間へ改造する事ができます。」
「何……?」
「ですが、所詮植物人間……大脳に異常があります。頭部と神経だけ移植しても動かないかも……ですが、この手術……A.D.E.B本社に頼めば大脳を機能させる事も可能でしょう。」
「ふざけんじゃねぇ……あんなマッドサイエンティスト共に預けられるか!」
「手術成功率は極めて低いです、情報を齧っただけの闇医者にでも任せる気ですか?」
「そんな事はしねぇ!!我慢するだけだ、第五世代型手術が普及した際に溜め込んだ金を出して優秀な医者共に頼る!!」
「それが叶えば良いですね?」
「何?」
扉からまた一人、今度は男だ。
「私を信じてくれ、エレノア君。」
「気安く話しかけんじゃねぇ……この変わりもんが。」
間違いないミスターローテッド本人だ……前まで出てこねぇ、姿が分からない。どういう風体なのかさっぱりだ。
「良いか?正直に話そう。君の娘をA.D.E.Bが現在研究中の第五世代型強化人間の研究材料として提出する。」
「こんのクソボケが!!」
縛られた椅子が跳ね上がる、怒りは収まらない。
「元気が良くて何より、ただ……モタモタしていれば君の夢も潰えるぞ?」
「はぁ……はぁ……どう言う事だ?」
ジタバタ暴れていると己の目標であるイセリナが救えないと知らせる。
「私はただ、君に感謝しているのだよ。数々の依頼をこなしてきた君への礼でもあるんだ。絶対に悪いようには扱わないさ。」
「良いから、要点を言え!!」
「強化人間を廃止させる。」
「そんな事は出来ない!!」
そう、絶対に出来ない。あれは兵器だ……強い兵器は残されて当然……脅威という然るべき存在。
「いや、出来る。私の力を舐めては困るよエレノア君。強化人間が廃止されれば君の娘さんが改造されなくなってしまうぞ?」
俺は甘いのか……いや、甘くはない。彼女に人生を与えるために金を貯めてきた。これの何が甘い、エゴだろうがなんだろうが人生を与える事に戦って稼いできた。
同時にもし、彼女が目覚めた時……家族が私しか居なかったら……どう説明する……。それは彼女にとって幸せなのか?
今だけ頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「時間を与えよう。だが、少しだけだ。」
「何をすればいい……。」
決めたぞ……俺は……。
「ん?」
微妙な変化に気づくローテッド。
「てめーらの話に乗ってやる……ただし、手術後はすぐに彼女を解放しろ。家を与えて社会に馴染めるまで面倒を見ろ。彼女には幸せになってもらう。」
幸せとは何か彼女自身に掴ませてもらう、茨の道だが。俺は決めた。とりあえず人生の続きを……愚かだが俺はそれに賭ける、寝たままは生きてる事は人生への奉仕じゃない。体が動けば良い、都合が良いただ俺の中の決めつけだ。
「ほう……。」
ローテッドは唸る、何かを期待してるように。
「何をすれば良い。なんでもしてやる……。」
するとローテッドは拍手する。
「契約成立だ、安心したまえ。君の願いを叶えよう。」
イセリナが入った医療用カプセルは再び押されて扉の向こうへ行ってしまった。
「君には大役を任せる。私の悲願のためにね。」
「大役?」
「なんでもするなら、答えは目覚めてからだ。」
彼が前に出てきて両肩に手を乗せる、感謝しているのか?顔を確認すると普通の顔付きだ、ここにきてやっと彼の顔を確認する事ができた。なるほど、謎の多い財団様のトップは影の薄い顔をしてる訳だ。
背後にはいつの間にかマーガレット・スミスがいた。手に何か持っている。後ろからじゃ見えない。
「早々で申し訳ないが君には眠ってもらう、マーガレット。」
「つっ……何した?」
何か腕に刺さる……注射か、何を流している?
「長い眠りだ……起きた頃には全てが変わる。」
「何言って……あ……。」
意識が遠のく……その時家族の顔を思い出した。不法移民の俺を受け入れてくれた女性……それがチラつく。不思議と長い夢が見れそうだと心が安堵した。これが覚めれば今度こそ本当の別れだと、直感した。
EP.28へ続く……。
読んで頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




