EP.24 空間
4月23日……敵の襲撃を受けたハンソン・ドロイド社は八割以上の兵器を失った、これを大損害と言わずなんと言おうか……地球政府軍の軍力は著しく低下したが、作戦は続行される。まずは月政府の拠点である小惑星ケラウノスを攻略、あそこに基地がある以上ネスト1及び2に多大な損害が生じることは想像に難くない、そこが終わると今度はネスト2を経由し敵の勢力圏内に入る。そのままネスト3を奪還、後に月へ進行し全ての幕が閉じる……はずだった……。
戦いが終わり俺は作業用のADに乗って工場内の兵士の捜索をしていた。主に死体だ、彼らの遺体を遺族に届けなければならない。
『エイジ、そこの瓦礫に人はいたか?』
「いえ、見つかりません。」
丁度、破壊された格納庫を探していたが人は見つからなかった。何とか避難してくれたのかな?
キッカーが機体を回収し船に乗ると敵側の作戦は終了したようだったが、金目欲しさに傭兵がそのまま建物や機体を破壊して回っていた。どのパイロットも熟練者で一般の兵士では太刀打ち出来なかった。そこで、政府軍の別基地から航空部隊が派兵された、戦闘機の中にADF.E-4のマスプロタイプ『ADF.E-MP』も配備されていた。所詮はAD……空からの攻撃は相性が悪い、殆どが殲滅された。
今回の作戦はまたしても俺たちの負け……月政府の仲間がこのハンソン・ドロイド社にいた事、敵の総数を見誤った事もある。何より、ローラが囮になっていながら内側のスパイを出し抜けなかった……これが今回の問題と言えるだろうか、敵との通信記録は一切見つけられなかった。
だが、ローラ曰く周りをウロウロしていたのは女性だったとの事。息遣い、足音から体重などを測定……そこまでは掴めたらしい。端末をハッキングしようとしたらしいが、ガイアリンクなどの端末は一切身につけておらず用意周到だった。
『エイジさん、ノアです。』
通信が入る、まぁ……あれしかないだろう……。
『バルトン・シミラスの意識が回復しました。地下隔離施設まで移動をお願いします。』
あの後彼は気を失い生死を彷徨った、だが彼はルナティック・ブラックナイツの長だ。騎士なので彼なりの死に方を選びたかったはずだがそう簡単には出来なかった。
案内された場所まで進む、地下道にも建物が存在してはいるが崩壊している箇所が多く見られる。奥に進めばそこまで酷くはなくなる。
案内された場所は多くの捕虜が存在しているらしく、厳重に管理されている。小さい部屋がいくつか存在しこちらからは見えない。同時に相手からも見えない。出られない工夫もされていて扉の鍵はパスワードになっている、次に第二の扉はただの鍵……看守が交代で持つことになる、次に第3はハンソン・ドロイド社に常駐する軍の責任者の生体IDが必要になる。ここまで厳重なので誰一人として出られた試しはない。おまけに中の換気口は溶接されており壊す以外に方法はない、何より狭く天井にあるので中に入られたとしてもこの地下から地上まで両手両足を使い天井まで行ける訳がない。最悪そんな芸当ができそうな奴は切り落とすとか噂好きのエナはそんな話を口にしていた。
「エイジ・スガワラ、到着しました。」
その場所はバルトンが収容されている施設ではなく取り調べ室、少々居心地は悪いが仕方ない。ノア艦長以外にも船の監視員ガリアス・ハーバークとマルク・ケイがともに付いていた。
「それでは中に入りますよ。」
そもそもなぜ俺が呼ばれたのか……分からないが、バルトンの様子も気になる、彼は一体どうしてるのか……。
中に入ると衝撃しかなかった、バルトンは存在していたが四肢が無い、そこまでは予想できるただ……。
「艦長……俺はここに居たくない……。」
これは本音……彼の容姿は酷いものだった……こんな姿を見られるのは不本意以外に何もない。
まず、目をマスクで隠されている。そこまでは良いが……頭は刈り上げられ何か針のようなものが刺さっている。そして首付近に点滴が刺さっている、何が入っているんだ……。
「誰だ……。」
バルトンは弱々しく口を開く、口の周りは赤く猿轡か何かをされていた可能性がある。
口を開いた途端バルトンが激しく震え始める、見ているこっちがおかしくなる。
『口は開くな、貴様の脳に埋め込まれたチップを刺激されたくは無いだろう?』
スピーカーから音声が流れる、恐らく頭に刺さった針はバルトンの脳に入ったチップが繋がっている。あの震えの後口から少し泡を吹いている、二年前と同じ。あの生体情報を渡さないためパイロットを殺すシステムを死なない程度に動作させている。
『貴様は私達の指示に従っていれば良い、月政府騎士などというくだらん組織のために我々がどれほど苦労したか……。』
どこから見ているのか……部屋自体は正方形の部屋で周り一体が白い、正直気が狂いそうだ。一番は壁が鏡張りであることマジックミラーか……そこから見ているのは分かっている。
「さて、本題です。バルトンさん、貴方はエイジさんに何を渡すつもりだったのですか?」
「これは私とエイジの問題だ。貴様は黙っていろ。」
その時また体が震え始める、あの戦いの意味を全部無に帰している感覚だ。
「良いですか?あなたのこのスマホ型の端末に何を入れたのか教えてください。」
ノア艦長ですらハッキング出来なかったのか……それほど厳重なものが分かるが。
「はは……バカな事を言う……知っているんじゃないのか?それとも知らされてない……所詮、貴様は物だと言うことだ……ノア・G・ニブルス……。」
皮肉混じりに言うとまた体が震える、これ以上は彼の体が持つのか……。
「艦長……なぜ俺をここに……。」
「その声……やはりエイジか……こんな事になってしまうとは……すまぬ……」
全てはマルヒトが渡したナイト・シリーズのデータだ。艦長が時間をかけて解析し例の生体情報を殺すシステムを無効化された。だが、問題なのはデータ自体を抜き取っている訳でパスワードか何かの鍵がかかっていると言う点だ。そうでなければこんな事になっていない。そもそも俺に託した時点で俺が開けたのかという問題もある。
「エイジさんが居れば何か分かると思いまして。」
「彼を連れても意味はない……無駄な足掻きだ。」
今度は体が震えない……流石に死んでしまうと判断したか……。
「随分と余裕ですね……何かあるんですか?」
「私にはもう何もないさ。役目を全うし、死ぬ事だけが望みだ。第一こんな状態で死にたくは無いがね……。」
「良い加減答えろよ!ど玉ぶち抜かれてーか!?」
ガリアスが銃を股間にググッと押し付けると同時にマルクが点滴を物理的にギュウと絞る。
「バカな事ばかりする連中だ、その程度でこのバルトン・シミラスが臆するとでも!」
確かに彼ほどの男ならこの程度何ともないか……だが、胸は痛くなる。
「この端末はエイジさんに渡しておきます。私が何をやっても開きませんでしたし持っていても意味はありません。ただ、保管は厳重に。第一私のようなハッカーでさえ開かなかったのですから誰の手に渡っても一緒ですけどね。」
「エイジ……貴様は誰を信じる?」
「なんだ急に……。」
「気を付けろ……特に周りだ。敵はいつも周りにいると思え……。」
「意味の分からない事を吹き込まないでください。そんなんでエイジさんが貴方に降ると?」
「貴様にそんな感情があるのか?何よりお前はせいひ……あああああああ!!」
途中で再び震え始まる、彼が何か言おうとした瞬間にだ。
「はぁ……はぁ……やはりズルい奴らだ……こういう連中だ、エイジよ。こうなってしまった以上その端末は開けん……。」
「開けさせないと言う意思表示ですね?」
「貴様らのような連中に渡してたまるか!同胞にもだ!」
同胞……同じルナティック・ブラックナイツか……それか政府か……。
「エイジさん、そしてガリアスさんとマルクさんも出て大丈夫です。ここからは私が……。」
「はっお気をつけを……。」
ガリアスは一言入れるとその場を後にする。マルクはその後をついて行った。
それに続き自分も出ようとすると。
「また会おう。」
それだけを言われた、彼は何を託そうとしているのか……。
マジックミラーの裏側には多くの人間がバルトンの様子を伺っていた。医師と企業の人間、軍の人間も存在する。
「エイジ・スガワラを出せば何か喋ると思ったが。何も出なかったな。」
「心拍数が徐々に落ち着いてきました。」
医師が心電図を見ながら答える、あたりにはカメラの映像やら何やら彼を監視するには多いくらいのモニターが存在する。
「危うく私達の製品がバレかけましたね。」
ガイア・コネクトの社員が答える。
「と言う事はあの端末には……」
「バカな事を……表に出ない情報だ。不良品すら知らん。」
「また、私達の製品に愚痴を……あれは試作品ですよ?月の鎮圧まで行ったら廃棄しますがね。」
「とにかくだ、あのモルモット達にはただ戦ってもらわねば困る。敵の勢力も徐々に伸びてきているのだ。マスプロの機体も他工場で作られている、早く宇宙へあげなくては……。」
「まぁ……大抵は財団からの支援でしばらくは戦えますからね……。あと、例のエイジ・スガワラの乗る機体……どう説明します?ガイア・システムが他と違うと指摘をもらっています。」
「適当に言っとけば言い。初号機だからガイア・コネクトもそれに合わせたOSを搭載させた試験機と言えばよかろう。」
「それで通れば良いですが……。」
「大丈夫だ、頭部をボコボコにされない限りは……。」
——地球にはいくつか孤島が存在するがグレイス・レイス財団の本拠がマーシャル諸島周辺に存在する。環礁の上に大きな屋敷が存在し、そこに財団の人間が生活している。
「グレイス・レイス財団、会計担当の『イルマ・スラ』です。この度はご連絡を頂きありがとうございます。」
『『ムーンライクス量産組合』CEOの『カウズ・シュターゲル』です。弊社は『A.D.E.B』ー『AD開発イプシロン支部』の傘下企業です。現在回線は月からネスト3から1そして地球にある財団様が所有するサーバーに繋いでおります。』
「今回、私達からも報告がいくつかございます。」
『報告ですか?フレイクスの連中が何かやらかしましたか?』
「いいえ、まずは一点。この度ハンソン・ドロイド社の襲撃に際しまして、多くの新型を鹵獲いたしました。全て傭兵から回収したもので、主にネスト1、2に送ります。」
『ほう……激化させるおつもりですか?現在私達もA.D.E.Bが新型の解析を終えて『AD.M-G』の量産に取り組んでいます。実に良い商売をしますね?いつか恨まれますよ。』
「ローデッド様の言い付けですので……。」
『貴方も苦労が絶えないようだ……中立である財団と死体回収業社兼傭兵業担うフレイクスが潤う事は側から見ても分かります。』
「ですので、その回収した新型の二割を貴社である量産組合にお渡しします。」
『A.D.E.Bに通さずですか?』
「ええ、これは貴社が買ったパーツとして取り扱います。そして、輸送費も……。」
『確かにこれほど美味い話はありませんね……上層の奴らに一泡吹かせる事ができそうです。』
「もう一点……その機体が届きましたら火星に一機だけでも送りできませんか?」
『火星にですか……彼らは軍こそ抱えてますが星間同士での争いは出来ないはずだ……我々に火種を大きくする役割をやれと?』
「いいえ、さすがにまずいと思いまして私も訳を聞きましたが。そういう目的はないそうです。」
『まぁ良いでしょう……貴方の主人はADが好きですからね……戦争目的ではなく、あくまでギャラリーとしての人間だという事を信じますよ。』
「もう一点……ルナティック・ブラックナイツについてですが……。」
『彼らがどうしましたか?』
「バルトン・シミラスが政府に監禁されました。」
『本当ですか?その情報、こちらには来てませんが……。』
「私達の情報網を舐めて頂いては困ります。」
『はぁ……即戦力が無くなるとは……彼であれば自害しそうですが……これはナイトシリーズのデータが落ちたという事ですよ……。情報の更新を止めなくては……。』
「これは前払いの情報です。」
『何をすれば良いですか?さすがに断りはしませんよ。』
「バルトン・シミラスを倒したパイロット……エイジ・スガワラと言うそうです。主人が大変気に入ったそうでして……。仮に月まで行ったとして彼が戦闘不能になった場合あなた方で保護をお願いしたいです。」
『それぐらい構いませんが……貴方の主人の考えてる事は分かりかねます。』
「私もです。」
『商談は終わりです。これ以上聞いているとこちらの身が持ちません。』
通信は切られると背後の扉から数人顔を出す。
「ご苦労、イルマ。」
「ご主人様、商談の件ですが、全て承諾しました。」
「良くやった。」
「何をなさるおつもりで?」
「いや、何もしないさ。今はね。」
「新型機の輸送護衛ですが、誰に行かせますか?」
「エリザベートとハンナを行かせる。」
「エリザベートはともかく、ハンナは14歳の子供ですよ……ADの操縦も覚えたばかり……。」
「サイアー兄弟ならなんとかなるさ、それに彼女らには既に行かせてある。」
『エリザベート・サイアー』は財団でもトップのAD操縦技術を持っている、その次に雇用担当のマーガレット・スミスが強いが、伴星である『ハンナ・サイアー』は数回の訓練しかしてない。だが、さすがは兄弟と言うべきか類を見ないほど物覚えが良かった。
「と言うわけで、私は自室に戻る。マーガレットにも報告をお願いするよ。」
「かしこまりました。」——
一方でハンソンドロイドの兵舎の休憩室ではエイジが休憩をとっていた。
「この端末……マジで開かんな……。」
託されはしたが、開かない。これでは戦いの意味のない。
『もしかしたら、生体認証では?』
「そうなのかねぇ……。」
すると扉が開きミランダが出てきた。
「そう、生体認証。」
「は?」
端末に触られると起動する。
「え……。」
こいつがスパイかよ……。
「でも、今は開いちゃだめ。絶対ね。」
端末が暗転する。
「あんた何もんだ?」
急すぎたが敵意は示してこない、底が分からないと言うべきか……。
「大丈夫、私は敵でも味方でもない。でも協力はする。」
EP.25へ続く……。
読んでいただきありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




