EP.22 走馬灯
目が覚めると、暗い天井が目に入る。午後の時間である事は確実であり、自分がどれほど眠っていたのか想像できない。未だに頭が痛い、銃撃戦の音が遠くで響いている。
「ああ……一体何が……。」
ニールは目を覚ますなり、辺りを見渡す。頭痛も酷く体調すらも優れない。
「銃撃戦……音が大きい。AD戦か……。」
危機的状況であることがすぐに分かる、ベッドから急いで出るが力が出ない。
「あ!」
力が抜けていく……思いっきり床へ倒れる。
「まだ死ねない……自分に何が起こったのか、知るまでは……。」
そう、記憶が全くない。覚えているのは自分が強化人間の手術に失敗しルナティック・ブラックナイツへの編入が出来なかった事、そこからは養父が指揮する戦艦で兵士として雑用をこなしてただけだ。気が付けば病院のベッドの上……その中間の記憶がなぜ無いのか、それだけを知りたい。
「まずは立たないと……。」
力を振り絞り体を立たせる、だいぶ感覚が戻ってきたぞ。
ドアの向こうから足音が聞こえる……かなり焦っているのかバタバタしている。
「ニールさん!敵の襲撃です!今すぐ避難を!」
この人は確か、シア・アグラーだったか……。
「敵、いやそんな訳ない……捕虜にされた俺を助ける目的じゃないだろ。」
「よく分かりませんが、早く出ますよ!」
「ああ。」
そうだ、分からないんだ。敵も味方も……俺は味方によって利用されて今度は敵に捕まってる訳だ。面白い話だよな。
シアの肩を借り、共に病院の廊下を少し走り気味に渡っていく、足の力はまだ入らない。彼女はそれを見越してか気を遣ってくれている。
「今どこに向かっている?」
「地下の隔離施設です、そこから基地の外へ出ます。」
患者用の避難口か……まだ助かりそうだ……。
どうやら、地下道が存在するらしく敷地外に繋がっている、そこにはある程度の建物が存在し、小さい基地のような構造らしい。
目的の場所には多くの人が混み合っていた、警備の人が道を止めている。
「悪いが、車両が出せない!道中敵ADの確認がされた!」
「嘘つくな!味方は何やってんだ!」
「味方ADは撃破された、黒いADたった一機でだ。味方を置いて俺たちを通さないようにしている。」
黒いAD……誰だ……ルナティック・ブラックナイツの人間がここにいるのか……。
「なんで避難口の経路知ってんだよ!俺たちにスパイがいるって事だぞ!」
「落ち着けよ、今は騒いでる暇はねぇ。地下避難道に味方が来てくれるか、あるいは地上で……。」
「そうなる前に死ぬって言ってんだろ?!」
患者と警備兵がモメ始める、自分の命は誰だって惜しいさ。
「ニールさん、私達は外に出てアルテミス・クエルのある格納庫まで行きましょう。」
「うあ……!」
アルテミス・クエルだと……その言葉を聞いた瞬間頭に響く。俺とは何にも関係ないはずなのに。
「だ、大丈夫ですか?」
「いや、ごめん……外は危険だ。流石に俺一人の為に迷惑はかけられない……。」
「ご安心を、私はあなたの担当……プライマリーナースです。絶対に一人にはしません。」
「え、ああそう……。」
この状況下でそんなこと言うか……なんか変な人だな……。
「おい!敵ADの接近を確認した!」
「ああ、くそ!皆んな、避難を!」
仕方なく病院にいた人間達は避難道へ降りて行く、電気は通っているためエレベーターを使い先ほどの避難道を目指す、扉が開くと地下都市とまではいかないが小さい建物が少し建っており数機の地球軍のADが破壊されていた。
「良いか、敵は見えないが慎重に行くぞ?目指すは管制室だ。」
警備兵の誘導に従いそこを目指す、管制室に入れば敵の居場所も容易に分かる、あちらの行動が分からない限り我々の命も危ないだろう。
避難道は一本道だ、道路が敷かれており倉庫には車両も確認できる。
物陰に隠れながらそこそこ大きい建物を目指す、そこが管制室なのだろうか。
案外簡単にその建物に入れてしまった、呆気ないほどに……。だが、こういう時ほどトラブルは付き物だと思う。
大勢の人を引き連れ管制室の扉まで警備兵が向かう。
「聞こえるか!軍病棟から来た!」
『なんの用だ?!』
少し声が荒い気もするが、どうしたのだろう。
「敵ADに交渉を持ちかけたい、患者や医療関係者だけでも外に出せないか……」
すると扉が開き、その部屋の責任者らしき人が現れる。
「ダメだ!敵はこれ以上先に進むと発砲すると言っている!戦いが終わるまでは待機だ!」
「これ以上待ってられない!俺たちの命がかかってんだぞ!」
気が動転しているのか患者の一人が騒ぎ立てる。
「騒ぐな!」
——一方で避難道の先には月政府のAD二機が待機していた。
「おい、いつまで待たせんだ?日が暮れっちまうよ。」
『はは、キッカーさんなら早く終わりますよ。』
『聞こえるか、こちら第一戦艦。キッカー少佐の回収を確認した、お前らの部隊は敵に損害を与えるため建物を撃破して回れ。以上だ。』
「了解了解、それにしても。楽なもんだぜ、宇宙と違って楽に通信できラァ。」
『まぁ、通信圏内に入るか接触しないと出来ませんしね。』
管制室では敵の動向をいち早く掴めた。
「敵二機、こちらに接近!建物を破壊しながら進んでます!」
「何?!」
「話がちげーじゃねーか?!おい?!」
患者が責任者の胸ぐらを掴む。
「クソ……上の病棟は?」
「半壊しています。外に出るのは危険です。」
死ぬのか俺は……答えも分からぬまま……。
「はぁ、つまんねー人生。」
つい小言が出てしまう、上の連中に良いようにされるだけの人生だったな……。
「誰か乗れねぇのか!ADが一機余ってんだろ?!」
「おい、ここにいるのは患者……負傷した兵士だ。まともに操縦出来るか……。」
「助からねぇって言ってんだよ!」
頼むから静かにしてくれ、怒鳴り声が頭に響く。
「ニールさん、立って下さい。やっぱり地上に出ましょう。」
「いや、あんた一人で行けばいい。階段を使うんだろ?俺一人に構ってたら死ぬって。」
「また、そんな事言って。意外と行ってみたらなんとかなるもんですよ。」
「なるほど……。」
ポジティブにモノを考えてるのが分かる、確かにやってみない事には分からないか……。
「おいガキ!」
「は?」
ずっとキレてる患者がこっちを見るなり怒鳴り散らかす。
「お前アレだろ、敵側だったよな?」
肌を見たのか、月の人間特有の色素の薄い肌。
「お前がスパイか?なんだ?!」
今度はこっちの胸ぐらを掴み始める、面倒事はよしてくれ。
「おい、落ち着け!まだ子供だぞ?!」
「関係ないね!俺たちの敵は月だ!こんなご時世だ、こんなのが紛れ込んでたらこうなるのも必然だ!」
すると銃を向け始める。
「スパイかどうかを言え!」
「スパイじゃないです。」
「そこのお前はどうなんだ?!さっきからこいつと一緒だよな?!俺たちは命がけで戦ってんだ、お前らの思い通りにはさせない!」
今度はシアに銃を向ける。
「待て、無闇に銃を!」
「うるせえええ!俺は本気だ!邪魔すんなよ!」
ますます気がおかしくなっている、この最悪な状況で追い詰められてるのが分かる。
「敵機体、さらに接近!このままでは……!」
通信兵が状況を伝えると銃を持った患者の目が変わる。
シアの後ろへ周りこめかみに銃を突きつける。
「やめろって!」
「黙れ、俺の言うことを聞け。お前、月政府騎士だろ?うなじの手術痕を見れば分かる。」
「いや……。」
俺は騎士ではない、騎士落ちだ……。
「やめて下さい!彼は子供ですよ、まさか機体に乗らせると?!」
「当たり前だ!スパイじゃねーなら誠意を見せろ!こういうガキが同情をさらって俺達を騙すんだよ!」
さらにこめかみに銃をねじり込む。
「わ、分かったって……言うこと聞くよ……」
流石に自分一人の為に誰かを死なせたくはない、一応担当のナースと聞けば色々世話にもなってるし恩は少なからずある。こんな男一人の為に死なせるかよ。
そのまま男の指示通り格納庫へ向かいADに乗る、パイロットスーツなんてものは当然着てない。上半身は裸、下半身は患者衣のズボンをただ履いてるだけ。
機体はAD.E-MPという新型、仰向けになってコクピットだけが開いている。
中に入りゴーグルを付ける起動スイッチを起こし画面から『AD.E-MP Start Up』と出てくる。
『ニューラル・インターフェイス・システム起動……』
「ああああああああああああ!!」
なんだこれ……気持ち悪い……。
「あ……う……。オエェェェ……。」
少しした後、吐き気に襲われるが案の定吐いてしまう。
『おい、クソガキ!敵がすぐに来るぞ?分かってんだよな?』
「はいはい……」
武器は無し……舐めてんのか……。
『ここにも格納庫が……』
すると敵の声が聞こえて来る。
『中に新型があるかもしれん、開けてみよう。』
格納庫の扉が破かれ敵を二機確認できる。
『ん?起動してるのでしょうか……』
『いや、慌てて乗り捨てた可能性がある。』
機体がゆっくりと右手を伸ばしくるがその隙を逃しはしない。
その手を左手で掴み頭部に1発拳を入れる。
「これがニューラル・インターフェイス・システム……パクリじゃないか……。」
とは言え手術がいらないのは最大のメリットだろうか、とにかく今はそれどころじゃない。
まだ手は掴んでいる、敵は体制を崩すことは無くそのまま起き上がりさらに頭を必要に殴る、カメラを無力化させるためだ。
『構わん、私ごと撃て!』
『で、ですが!』
「モタモタしてるな……」
訓練は一応積んである、そう簡単にはいかないさ。
もう一機が銃を構えた瞬間掴んでいるADをそっちに投げると二機とも体制を崩し倒れてしまう。
『少し手慣れてるな!』
カメラが壊れたADはコクピットを開きそこから視覚を得ている、帯電ナイフを装備しこちらへ接近してくる。
「そんな単純な。」
また左手で掴もうと考えるが思い通りにならなかった、右側に敵が回り込んでおり速射砲を威嚇程度で発射する。
数発装甲に被弾するとナイフが左腕に入ってしまう、そこから電流が流れるとニール自身にも微量ながら電気が流れる。
「ただでさえ気持ち悪いのに……。」
その電流にも臆せず右手をコクピットにぶち込むと聞いたことのない音と共に血だらけになる。
『隊長おおお!おのれええええ!』
『右手関節異常発生。』
「何……」
右手の小指と薬指が小刻みに震える、殴りすぎてイカれたか。
敵機体がさらに速射砲の弾を発射する、左腕に刺さったナイフを引っこ抜いて装備する。
弾はまた装甲に被弾すると、コクピットの横に当たる。コクピット内にもそれは影響し破片がニールに襲い掛かる。
「いたあああああ!」
敵が速射砲のリロードを確認し、右手に装備したナイフで襲う。
『仇を取らせてもらうぞ!』
「仇とか関係ない。」
持ったナイフを逆手にして覆い被さるように飛び込む、狙いは背後のバッテリー、上手いこと刺さり電流を流すことに成功するが。相手の速射砲のリロードも完了していたようで銃弾が下腹部に散弾する。
「これで終いか……。」
敵のバッテリーが膨れ爆破を起こすとニールの乗る新型は形こそ保っているが損傷が酷かった。
「ああ……養父さん……僕は真実に辿りつけなかったよ。なんで俺なんか拾ったのさ……。」
少しずつだが記憶が蘇る、走馬灯か……そして覚えのない記憶が少しずつ出てくる、俺はどうやら実験台にされてたらしい。新型機だろうか、戦車型の……非戦闘員なのを良い事にいつでも捨てられるように仕向けたのかな……分からないけど、本当の父親のフリは似合わないよ。
「あー……スイッチ……早く切りたい……気持ちが悪いんだ……」
ニールが起動スイッチを探している、だけど見つからない。
『聞こえるか、こちら管制室!今すぐ人を送る、死ぬなよ!』
『よせ、奴はスパイの可能性が!』
『言ってる場合じゃねーんだよ!』
また、何か言っている……頭に響くから……。
『私が行きます!絶対に死なないで!』
——地上ではニールの養父マルヒトが軍用ジープを奪い病棟まで来ていたが周りは既に火の海だった。
「ニール……」
『聞こえるか、そこの囚人。うちらの人間か?』
音声が聞こえる方を振り向くとADを確認できた。
『これは、マルヒト艦長!ご無事で……ただいま迎えを……。』
「いらないよ……何もかも……。」
EP.23へ続く……。
読んで頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




