EP.15 不可抗力の地
4月19日……グリーンランドにてマルヒト・カーが艦長を務めた戦艦は吹雪の中に存在し残された乗組員は地球政府の回収を待っていた。
船内はほぼ機能しておらず灯り少ない、彼らは時代にそぐわぬ環境で生活を強いられていた。
「しかし寒いな……いつになったら迎えがくるんだ?」
「仕方ないだろ1日でどうこう出来る話じゃないだろ?」
「凍え死んじまうよ。補助動力が働いてるから一部の施設は使えるが……。」
「まぁ、そこは女性クルーに使わせるのが普通だろうな、俺達は座して待つさ。」
「おい!迎えが来たぞ!」
「ありがてぇ。」
少数兵士が外に出て自分達の居場所を地球政府の人間に知らせる、戦艦が一隻にAD輸送用のヘリが四機みられる。
輸送用ヘリは地球政府ADが全部で三機収納出来るようで吊るされた人形のように機体が露出している。
「随分と厳重だな。」
「俺たちは敵だろ?警戒してんじゃないか?」
「輸送ヘリと戦艦に何体か居るとして全部で二十機はくだらないな。」
そんな会話をしていると戦艦から音声が流れる。
『聞こえるか?こちらは地球政府軍の者だ。お前らを回収するように言われている、抵抗せず言われた通りにしろ。』
地球政府軍の指示ではまずクルーを収容したいので全員外へ出るように言われた武器になる物は全て外し敵意を見せない事だった。ガイアリンクも同様仲間間での通信も許されない。
戦艦が着陸し女性と怪我人を優先して収納する、地球政府のADはアルテミス・クエルから取り外したビーム砲を回収しようとしている。
そんな動きを観察する機体が一機存在する。
「こちら、『エルノア・カルティス』。目標を発見した。通信を願う。」
『プロキシサーバーをグレイス・レイス財団本部と接続……なお、シークレットモードのためガイア・システムによる記録は取られません。』
ガイア・システムのアナウンスが流れると本命から連絡が出てくる。
『グレイス・レイス財団、雇用担当の『マーガレット・スミス』です。これは主人である『ミスター・ローデッド』様から私達『護衛メイドAD部隊』『クリーナーズ』による依頼です。』
「それで?天下のグレイス・レイス財団の使用人が俺みたいな自由傭兵に委託したのは足をつかせないためか?」
『おっしゃる通りです。もちろん不足の事態を見越して部下である『エマ・キトラス』『ハク・ミョン』を待機させてます。』
「大丈夫だ、ヘマはしない。お前らの乗る『浅葱社』の新型なんざ出る幕はねぇ。」
『流石ですね。大金を叩いた事はあります。』
「それで?内容をさっさと説明しろ。」
『内容は単純明快です、地球政府軍の機体を全て破壊してください。』
「それだけか?要人保護もなく?」
『はい、ただ戦闘を開始する前にジャミング装置を投下させたいのです。地球政府側にこの事を知られる訳には参りません。』
「通信の遮断……装置は幾つある?」
『全部で六つといった所でしょうか、一つでも残っていれば大丈夫ですので。』
「承知した。」
『準備はよろしいですね?』
通信が切れ操縦桿を握る。
——「おい!あれ見てみろ!」
アルテミス・クエルの外したビーム砲を点検する地球政府の兵士が空に指を刺す。
「なんだあの機体?見た事ないぞ……」
上空には二機のADが飛んでおり従来のAD-3とは規格自体違う、最近出た新型と少し似ているがハンソンドロイドの機体とは思えなかった。
「ASG……浅葱社の機体か?日本の機体がなんでここに居んだよ!」
双眼鏡で肩のエンブレムを見ると会社のロゴを見つける。その機体は『BD-ASG.C-3』という型番であり高性能で知られる。
「上に連絡するぞ!」
通信機で連絡を取ろうとした瞬間、浅葱社の機体が撃ったのか地面に円柱状の何かが突き刺さる。
スピーカーからはノイズが発生し通信はできなくなる。
「ダメだ!ジャミング機器だ、破壊するしかない!」
身振り手振りで近くの護衛ADに伝えると銃を構えジャミング機器に照準を合わせる。
「素人か?」
エレノアは装甲貫通砲を持ち銃を構えたADに撃つと当たる。
破壊を確認し残りの機体に近づく。
「異変に気づいたか……忙しくなる前に片をつけよう。」
周辺に散っていた地球政府のADはエレノアの方に近づく。
「おい!もう一機識別不明機体だ!」
「連絡はまだか!」
地球政府側は混乱を極めており動揺していた。
「AD-3か?違う……」
「ボーッとすんな!動け!」
エレノアの機体は中国企業『リージン(力勁先进的重工业)』のADである『LJN-147-02』を操縦しており規格はAD-3と大差は無い。ただ各パーツの購入が安価である反面、当たりハズレの存在が懸念される。また、技術盗用の疑いもあるがジェネレーター部分は独自開発で機体の負荷を考えない高出力で定評がある。
銃を構えるADを確認しビーム砲周辺をウロウロしていると彼らは撃っては来なかった。
「なるほど……傷はつけたくないようだ。」
撃てない事を利用し敵ADを彼は蹂躙して行った。
——そんな事が起きているとも知らずエイジ達は無事にアメリカ中西部に到着する。
ブリーフィング室ではノア艦長が話をしており、各代表が話を聞く。
「これよりアルテミス・クエルはハンソン・ドロイド社に着陸後、整備士以外は宿舎へ移動してください。」
ハンソンドロイド本社は地球政府と密接な関わりがある。そのため近くに軍基地が存在し工場内には護衛兵士用の施設も存在するとか。
「艦長、アルテミス・クエルの修理が終わるまでかなりの時間を要するでしょう。その間仕事がないクルーは如何しますか?」
リーが話すと艦長が深く考え込む。
「うーん……休みを取らせますか……ここの所皆さん馬車馬のように働いてましたし。」
「俺は賛成だ。うちの部下達は皆んな疲弊している。」
「私もだよ。エンジンの修理もそうだが維持メンテナンスで皆んなおかしくなってる。」
ジーンもマルテラも休ませるように進言している。確かにここの所マルコスはずっと動きっぱなしだし、少し心配していた。
「分かりました、修理は全面的にハンソンドロイド社の社員に任せます。ただ引っこ抜かれる可能性もあるので外出を検討する際は連絡をお願いします。」
ブリーフィングも終わり各々が解散する。
自室に戻り荷物をまとめると艦内放送が流れる。
『本艦はこれより完全修理に移行します、準備が出来次第下船をお願いします。』
「急がないと……」
『エイジさん』
「どうした?」
『私街に行ってみたいのですが可能ですか?』
「許可さえ取れば可能だろうけど……なんで急に?」
『地球の人たちはどのような生活をしているのかが気になるのです。』
「気になるって……あんまり変わんないよ。それにローラだったら直に見なくてもある程度予想はつくだろ?」
『いいえ、直接肌で触れてこそ意義があります。』
「なんかこだわるな……」
肌とか言ってるけど存在しないだろ……。
準備を終え舷門を目指すとノア艦長を見つける。
「エイジさん、ちょっと良いですか?」
「どうしました?」
「先ほど政府のお偉いさん方から連絡がありました。エイジさんと話がしたいようです。」
「もう拷問は勘弁ですよ。」
「いえ、その心配はしなくても大丈夫です。あなたは新型のパイロットですので下手に傷はつけられませんよ。」
「なら良かったです。それで日時は?」
「今からです。」
「そんな急な……」
「少しで終わるそうですよ。私も同行しますし、行きましょう。」
艦長と共に外へ出ると中々に広い敷地で工場が幾つも建っていた、その周りには護衛用のADが複数体存在し厳重さを見て取れる。
その圧巻した景色を見ていると軍用ジープがこちらに接近する。
ブレーキを掛け一人の男性が下車するとこちらに敬礼する。
「ようこそいらっしゃいました。私は『ジョー・エバンス』大佐です。上官がお呼びです、お乗りください。」
丁寧な人という印象を受ける、言い方も品があり誠実そうな感じだ。
彼のいう通り後部座席に艦長と共に乗り目的地を目指す。
「そういえば、リーさんは?」
いつも一緒のリーの姿が見えない、艦長は所々抜けてるし少し心配ではある。
「リーさんは別行動です。クルーの管理で忙しいので私に構ってはられないでしょう。」
会話をしていると工場群を抜け続いてビルがポツポツと建つエリアへ移動する。
「この先に見えますビルが目的地です。」
ジョーが話す所を見ると180m程のビルが立っており入り口門の名札に『Earth Government Force』と書かれている、略してE.G.Fだ。
ビルの扉前に着き降りてジョーの後についていく。
扉が開き中に入ると豪勢なビルだと素人目でも分かる程だった。
一緒にエレベータへ乗り階数を見ると60階とその規模を改めて認知する。
ジョーはボタンを操作し54階に設定すると話始める。
「我々はあなた方の帰還を待っていました。ただでさえ月政府の人間がここに潜伏している可能性がありますので警戒を強化しないといけない。」
ジョーは俺たちにホログラムを見せる。
「これを見てください。肌の色素の薄い人間が二人……昨日監視カメラによって抑えました。」
「ん?」
なんか見たことのある人間がいた、映像には二人の男が写っており肩を並べて歩いている。
「エイジさん、お気づきでしょうか?左の男はバルトン・シミラス。そして右の男はキッカー・エルと言われる人物です。」
確か初号機を強奪しようとしたルナティック・ブラックナイツのメンバーだ。
「二人は強力な人間です。高い戦闘力を持っています。ただでさえ新型を強奪された挙句地球にまで足を伸ばし何かよからぬ事を企んでいては我々の勝機は無くなるでしょう。」
「彼らの目的は一体?」
「分かりません。彼らは数日と我々の周辺を嗅ぎつけています、何かを狙っているように。」
話はまだ終わりたくなかったが目的の階へ到着してしまう。
「詳しい内容は私の上官がするでしょう。さぁ、こちらです。」
再び案内され、手動の扉に行き着く。
「ジョー・エバンス大佐、両名をお連れしました。」
この時インターフォンはなく情報の記録や防衛性に欠ける場所だと勘繰ってしまった。
『入ってくれ。』
「はっ失礼します。」
ジョーが扉を開けると俺たちを先に入れる。
目の前には位の高い将校達の姿があった、それだけではないスーツを着た人間はよく見るとハンソンドロイド社の人間にCSDP、ガイア・コネクト社の人間だっている。俺とマヤの乗る新型に密接に関わりがある人間達だ。
「エイジ・スガワラ軍曹であります。」
「ノア・G・ニブルス大佐です。」
「あー良い良い。時間がない、話を進めるぞ。」
敬礼をしたが跳ね除けられてしまった。
「では、『スレン・カークランド』防衛事務官。資料を頼む。」
「ん……ん……?」
「どうしました?エイジさん。」
ノア艦長がエイジの異変に気づく。
いや、まさかねー。
そんな事を心の中で思っても現実とは数奇なものだ。上官の後ろから秘書のようにスーツを着た女性が現れるが見覚えしかない。
スレンと言われた人物は俺を見るなりウィンクをするが、彼女は俺の元カノである。
てか、なんでここにいんだよ……ただただ困惑した。
放心状態だが、説明が始まる。ホログラムではなくプロジェクターを用いている、この部屋は他と比べて時代が一つ遅れていないか?
「今回はお越しいただきまして、誠にありがとうございます。さて、今回の資料ですがホログラムではなくプロジェクターによる開示で失礼します。」
さっさく画面が映るがそこには五号機の姿があった。
「この機体は『AD.E-5』設計をCSDP様が行い、開発をハンソン・ドロイド社で行いました。最新型の機体になります、差し詰め『第三世代型AD』となります。以降AD.E-1をベースにした量産機『AD.E-MP』も第三世代の扱いになります。」
その話がどうしたのだろう?取り分け招集させる話でもないはずだ。
設計図を見てCSDP社員が口を開く。
「この『エディシリーズ』は我が社の最高傑作だ。エイジ軍曹には特に世話になってるよ。今日もらう予定の戦闘データがあれば多少なりとも実践投入が早まりそうだ。」
この口ぶりからして俺の乗る機体は『エディワン』とでも言うのだろう。AD.E-5の設計図の機体名が『エディファイブ』になっている、新型の宇宙用機体の名前はどうなっているのだろうか?
「話を続けますよ?ここまでは月政府に漏れている情報だと言う事です。まだ、新型が残っています。」
するとプロジェクターが投影している画像が変わる。
「こちらはAD.E-5の兄弟機『ADQ.E-5/S.A』になります。」
名前が長すぎる……見た目は脚部が四脚になったぐらいだろうか?AD.E-5には特徴的な右手をしていたがこの機体にはないようだ。
「月政府の狙いは新型にあります。彼らはなぜか必要に新型を狙うので標的は明らかにこのAD.E-5でしょう……。」
CSDP社員が再び口を開く。
「このADQは残念ながら失敗作だ、なので政府軍と相談した結果この機体を破棄することにした。ただ、これ以上敵に渡るのも阻止したい。そこで囮に使えないかと言う事だ。」
「ええ、この機体にはガイア・システムを搭載させず。AD.E-5と無理やり戦闘させるデータを入れさせます。彼らも既に地球内で使える通信システムを獲得していると考えるのが妥当でしょう。手強い以上彼らを誘い出し、両機に搭乗させ同志撃ちをさせるのです。その間に彼らを包囲しAD.E-5を無力化させるのが狙いです。」
画像に倉庫が映るその中にAD.E-5がいるのだろう。
「エイジ軍曹率いるアルテミス・クエルAD部隊は新たに入隊するPMCリンダ・クールーを加えた計4名でその倉庫へ向かってください。もちろん本作戦は敵が実行してこない限り情報を秘匿してください。よろしいですね?」
「了解であります。」
「ご協力感謝します。エイジ軍曹への連絡は以上になります。」
ジョーが扉を開き退出を促す。
「失礼します。」と一声かけてその場を後にすると扉は閉ざされてしまった、中で何を話しているのだろう……。防音か……話の内容は何一つとして聞こえなかった。
——エイジがその扉を見つめる中、企業と政府は話を始める。
「さて、ノア大佐。調子はいかがかな?」
「ええ、何も問題はないです。」
「私達ガイア・コネクト社が生んだ……いいや、正確には『産んだ』が正解か……。」
「我々ハンソンドロイドは一切関わらんぞ。こんな非人道的な……。」
「悪いが、お前も片足を突っ込んでいる。逃げられんぞ。」
政府の人間はいつもこのような顔をする、これが悪意なのだろうか?私にはまだ分からない。
「今しがた、クリーナーズから暗号通信が入りました。任務は無事成功のようです。」
「いいぞ……政府のお偉い方も支持率が低下する事はまずないだろう……これは予防策だ犠牲は致し方ない。」
「本気ですか?上手い事進んでいるとは言え現在は月政府に押されている状況、挙句には突貫的な隠蔽工作が上手くいくと思いますか!?」
「声がでかいぞ!静かにしろ!」
「この計画にはエディワンとエイジ・スガワラの利用が必要不可欠。『アタマ』さえ守れば良いのです。」
「と言う事だ。月に着くまで頼むぞ?『ガイア・システムかじり』。」
「我が製品に難癖つけるのはやめていただきたい。これでも優秀なのですよ?」
「確か第四世代強化人間の試作型だったか?ニューラル・インターフェイス・システムの負荷を無効化する。今まで何人犠牲になった?」
「ポッドに入った人数も無限ではない……母体から取り出しても命尽きるのが殆ど……仮に成功したとして成長速度は人間と変わらん……。我々は今すぐにでも実践投入するしかない!」
「だから、エイジ・スガワラと言う人間がいるのだろう?アルテミス・クエルの部隊は強力だ。なんと言っても全員切り捨てられる程のポテンシャルを秘めている。」
「仮に生き残れたとしたら?」
「ははははははは!!あーおかしい!へへへへへへへ……」
私でも分かるほどの嫌悪感、これが気持ち悪いと言う事か。
「その時は誰か一人に罪を着せれば良いさ。後は総出で潰しに掛かるのみよ。」
私は彼らに協力するようインプットされた、人間に近づくのも目標のうちだが。彼らから学べそうなモノはあるでしょうか?
「そのためには。ガイア……失礼、ノア艦長とスレンの協力がいるだろう。スレンは上手い事エイジに寄り添い悟られるな、艦長は当初の目的通り月へ向かえ。」
「了解です。」
私は扉を出て、任務に戻る。人の意思はこんなにも破綻しているとは……エイジさん……ごめんなさい……。
——再びグリーンランドはエルノアが任務を終えた所だった、彼の周りには残骸が多く残っており彼の機体は傷一つ付いてなかった。
「悪いな……ガキがいる以上仕事は選んでられない……だが、少しこれはきな臭いな……。」
EP.16へ続く……。
読んで頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




