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蝶の舞 ー濃姫ー  作者: 麗 未生(うるう みお)
十一.石山合戦
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石山合戦ー⑱:別所の反旗と尼子再興の夢――三木合戦

別所の反旗と尼子再興の儚い悲願

 信長は秀吉を重宝しておったが、あれはどうにも虫の好かぬ男であった。だいたい、人の容姿をとやかく申す割には、身の程を弁えず市殿に懸想していたのも、気色の悪い話というものだ。あの美しい姫に、見合う顔をしておるとでも思うていたのか、笑止千万も甚だしい。ま、市殿のほうが、私などよりもなお一層、秀吉を嫌っておられた。


  市殿は、何というか、心の底から忌み嫌っておられた。顔を見るのも、言葉を交わすのも、触れられるのも虫唾が走るといった様子であった。確かに、秀吉の市殿を見る目ときたら、蛇のごとく這い回るようで、実に気味が悪かった。


 信長の妹御でなければ、あやつは力にものを言わせて、わがものにしていたやもしれぬ。絶対に手の届かぬ❞高嶺の花❝、というものであるからこそ、執着したのかもしれぬ。私は毛嫌いはしておらなんだ。秀吉が、私を女として見られておらなんだ、ということが幸いしていたのかも知れぬ。


 まあ、主君の妻を女としてみたら、それはそれでただではすまぬが。相容れぬ関係ではあったが、お互い信長にとって必要な存在であると分かっていたゆえ、妙な衝突はせず、嫌味を交わす程度で済ませておったのだ。そしてその嫌味の応酬も楽しんでおる部分もあったように思う。それにあやつが今日の信長を支える要のひとりであることは否めぬ。そこは、私も認めておる。


 さて、その秀吉は勢いそのまま但馬に進出し、さらに播磨へ引き返して福原城、上月城を攻略した。ここで上月城に迎え入れたのが三木城の別所長治のもとにいた別所の反旗と尼子再興の夢である。尼子はかつて山陰の雄であったが、毛利に滅ぼされ浪々の身。


 鹿之助などは「七難八苦を与え給え」と三日月に祈った剛の者で、忠義の鑑と語り継がれておる。彼らにとって、秀吉の軍門に入ることは再興の望みを託す最後の手段であったのだ。


 だが、その希望も束の間であった。天正6年(2月)、三木城主・別所長治が突如として毛利に通じ、信長に背いた。若き長治は21歳、播磨東八郡を治める名門であり、秀吉など来たばかりの新参に過ぎぬと見下していた。長治は信長とも秀吉とも何の縁もゆかりもない。


 プライドも高く、当然のように信長に与するよう言ってくる秀吉の態度も気に入らなかった。叔父の賀相(よしすけ)が信長を大層嫌っていて、毛利寄りであったことも決定打となり、反旗を翻したのである。「信長は人を圧して支配する」と、長治は常々反発を抱いていた。若さゆえの矜持もあったろう。彼にすれば、毛利に与したほうが一族の存続につながると考えたに違いない。


 安土にいた秀吉は、急ぎ播磨へと引き返し、三木城を囲んだ。あれは、まさに寝耳に水であったに違いない。何と言うても、信長ならともかく、人たらしとまで謳われた己に刃向かう者が現れるなど、夢にも思わなんだろう。少し調子に乗りすぎていたのかも知れぬ。あやつのたらし方にも、限界があったということだ。


 長治は毛利のみならず本願寺とも密に通じていた。毛利方は輝元を総大将とし、小早川隆景、吉川元春(きっかわもとはる)ら両川を中心に三万の兵を動かし、まずは上月城を攻めた。


 信長は光秀や滝川一益、筒井順慶らに援軍を命じたが、それぞれの持ち場で手一杯。大軍を差し向ける余裕はなく、秀吉は孤立無援に近い形で戦うほかなかった。


 3万の毛利軍に対し、秀吉の兵は1万ほど。まことに心許ない戦であった。それでも尼子勝久と山中鹿之助は、再興の夢を胸に上月城を死守した。だが、情勢は非情である。ついに秀吉は「小を捨てて大を取る」決断を下し、上月城を見捨て、三木へと兵を移した。苦渋の選択と申せよう。

お読みいただきありがとうございます。

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