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蝶の舞 ー濃姫ー  作者: 麗 未生(うるう みお)
一.蝮
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蝮ー⑦:酒を酌み交わし、夢を語り合う――祖父、南陽坊との再会

野望の継承—法蓮坊から長井新左衛門、そして道三へ

 南陽坊は、祖父が法蓮坊であった頃に妙覚寺にいた際、特に親しくしていた人物であり、2人して悪さも働いた仲であったそうな。南陽坊は、祖父が豪商に婿入りしたと聞いていたため、武士の姿で現れたことに大いに驚いた。しかし、その来訪を心から喜び、旧交を温め合った。その夜は更けるまで酒を酌み交わした。

 

 祖父は、実は武士に戻り、一旗揚げることを考えていると南陽坊に打ち明けた。南陽坊は妙覚寺にいた頃から祖父の才覚を高く評価していた。ゆえに、祖父が商家に婿入りしたと聞いた際には少なからず驚いた。しかし、その婿入り先が相当な豪商であることから、いずれ当主となればとんでもない大豪商になるであろうと予測していた。それがまさか武士としての野望を抱いていたとは思いもしなかったが、あの法蓮坊ならば、それくらいのことは考えかねぬと納得したようだ。


 当時、土岐家では相続争いが長引いていた。南陽坊は「なんなら兄の長井利陸に引き合わせよう。武士になりたいのであれば、そこから土岐家に仕えるのはどうか」と提案した。


 当時の美濃守護である土岐家は、十数年前に終息した応仁の乱の影響で京都の足利将軍家と疎遠になっており、そのことに頭を悩ませていた。そこへ、日蓮宗の常在寺を拠点とする祖父が伝える京都の情報は、土岐家にとって得難いものであった。また、祖父の後ろ盾である山崎屋の莫大な財も、土岐家にとって魅力的であったのであろう。この頃、山崎屋は店を任せた番頭の仙蔵と妻が担っていたが、経営は至極順当であった。さらに、祖父には天賦の才である、人の懐に入り込む不思議な魅力が備わっていた。これらが祖父の野望を手助けしていた。


 こうして祖父は、長井藤左衛門(ながいとうざえもん)秀弘(ひでひろ)に仕官し、武士として返り咲いた。秀弘は、優れた才と武芸に秀でた祖父を気に入り、いつも適切な意見を聞かせてくれることから、すっかり信頼し、何かと頼るようになった。祖父もまた、自らの野心を隠し、平身低頭して秀弘のために尽くした。秀弘は祖父の内なる野望など知る由もなかった。


 やがて秀弘は、長井家の家老であった西村三郎左衛門の名跡を祖父に継がせた。このとき、祖父は西村勘九郎と名を改めた。勘九郎となった祖父は、秀弘の家臣として粉骨砕身し、奔走した。合戦にも真っ先に馳せ参じ、武功を重ねたが、1496年(明応5年)の近江六角攻めにおいて主君・秀弘を失った。


 祖父にはその2年前に息子が生まれていた。この息子にいずれは自らの野心を継がせるつもりであった。いずれは自分の野心を継がせるつもりだ。約束通り、妻の元へもちょくちょく帰っていたのだ、野心だ、何だと言いながらも祖父も妻を愛でていたのであろう。祖父は秀弘の死後、「ここで倒れるわけにはいかぬ」と覚悟を決め、秀弘の嫡子・長弘(ながひろ)を擁立し、その後も功績を上げ続けた。そして1518年(永正15年)、長井姓を賜り、長井新左衛門(ながいしんざえもん)(のじょう)となった。主君・長弘と同格の、守護代・斎藤氏の重臣となったのである。


 このとき祖父は、妙覚寺に預けていた24歳の息子を自らのもとに呼び寄せた。この息子こそ、私の父・斎藤道三である。


 祖父は、自分が野望を成し遂げられなかった暁には、息子がその志を継いでくれることを願っていた。そのためには学問を身につけさせねばならなかった。当時、学校というものはなく、教養を身につける場として寺が重要な役割を果たしていた。そこで父・峯丸(道三の幼名)が11歳になると、祖父は自らと同じように妙覚寺に預けたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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