表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蝶の舞 ー濃姫ー  作者: 麗 未生(うるう みお)
一.蝮
3/40

蝮ー②:父の策謀に散る夫――そして私は、“ウツケ”のもとへ

蝮の娘、3度目の輿入れ

 天文15年(1546年)9月に、2度目の輿入れ.。2度2度目の夫は、土岐頼武(ときよりたけ)の息子・頼純(よりずみ)である。この頼武様は、頼芸様とご兄弟に当たるお方だ。


 夫が、何故父のせいで命を落とすことになったかと言うと――選りにも選って、父が今も合戦を繰り返しておる織田信秀に、「父を討ってくれ」と頼んだのだ。それが父の知るところとなり、怒りを買うことになった。


 まったく、本当に愚かなることこの上なし。頼純など、父と比べればまるで小物。だいたい、人に頼むこと自体がそれを証明しておる。討ちたければ、自ら討てばよいものを……もし、私に相談していたら協力していたかも……いや、ないな。この男では無理だわ。 


 父の怒りは、さぞや凄まじかったであろう。和議のために娘を嫁に出したのに、何ということか、というところだ――とはいえ、父自身も散々人を裏切ってのし上がってきた男ではあるが。元を質せば、父が美濃の守護であった頼純殿の叔父・頼芸様を追い出し、美濃の実権を手中にしたのだ。とは言え、夫もそれを承知で私を(めと)ったのだから、そこは辛抱すべきであろう。さすれば、もう少し長く生きられたかもしれぬものを……誠に残念なお人だ。


 まあ、人の世の常で、人は自らの行いは振り返らぬくせに、人の裏切りは決して許さぬという、なんとも身勝手な生き物。妻の父を亡き者にしようなどと、愚かしいことを頼んだ夫は、24歳という若さでこの世を去った。


ただし、こちらは自死ではない。ある日、突然、頓死したのだ。茶席で茶を一服したところ、急に苦しみだしたということで、毒を盛られたのではないかと囁かれたが、定かではない……でも、父ならそれくらいのことをする間者(かんじゃ)を忍び込ませるなど、何ほどのこともなかったであろう。


 というわけで、またしても、たった1年で夫を失った私は、早々に父のもとに返された。これでもう、当分は嫁入りの話などないだろうと思っていたのに――懲りもせず、またも勝手に決めてきた、このクソ親父。さすがは「(まむし)」と呼ばれた男。腹黒いことこの上ない。


「で、今度はどこに?」

「尾張のウツケよ」


と、父はニヤッと笑った。


(ウツケ、とな……?)


そんな男に、可愛い娘を嫁に出すのか、この腹黒親父め。


「信秀めが、平手政秀を使いに寄越して、倅の嫁にと申し出てきよった。和睦ではなく、いきなり縁者になろうというんだ。これを断っては、わしも心の狭い大将と思われかねぬ」


などと尤もらしいことを言っておるが、腹積もりはそうではあるまい。あわよくば尾張も手中に、という目論見であることは明白。どこまでも欲深きことよ。


「だが、信秀の倅が、お前の夫に相応しからぬと思ったら――お前自身の手で、寝首を掻き切っても構わぬぞ」


そう言って、父は私に小刀を差し出した。もしかして今度は、娘を間者に使う気か……。繰り返すが、まったくもって腹黒い男だわ。


「ただし、その場合はお前もその場で斬られるやもしれぬ。だが、武家の女が嫁に出るということは、死を覚悟して当然のこと。それなのに、お前は夫を亡くしても2度も無事に生還しておる。なんと運の良いことか」


――それって、本当に「運が良い」って言えるのか?夫に2度も死なれてるんだぞ?


「それが“運の良さ”と言えましょうや?」


と言い返すと、父は鼻で笑った。


「フフン。もはや“拾った命”も同然であろうが。そう思えば、捨て身で嫁に行くのも(やぶさ)かではあるまい」


どこまでも非常な親父殿だ。な〜にが「吝かではない」だ。先夫たちも、この父が手をかけたも同然だというのに――白々しいにもほどがある。本当に食えぬ男だ。ただ、残念なことに、私はこの腹黒い父が好きなのだ。野心丸出しで、家族さえ平気で見殺す冷血な「蝮の道三」と呼ばれたこの男は、私の尊敬すべき理想の男性像でもある。


 この乱世の世――野心のない男など、クソの役にも立たぬ。そんな男と添うことこそ、不幸の極み。


「相手が噂通り“大ウツケ”でありましたら――仰せの通りに」


そう言って私は、静かに(こうべ)を垂れた。すると父は、さも満足そうに頷いた。

 

お読みいただきありがとうございます。

いいね・評価・ブックマーク&感想コメントなど頂けましたら大変嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ