親友の心配とお節介
晴れやかなる青空のなか、不健全にも、授業なんぞ受けている私はチラリと左隣の席を見た。
ツヤツヤしている綺麗な黒髪、白い肌、かわいい目付き、プリッとした程良い色合いの唇、最後にキュッとしたウエストを始めとした幼い感じのモデルスタイル(まあ、胸は私が勝っているな)。このまさしく美少女と言える少女は、何を隠そう私の親友である。
今、彼女は真剣な眼差しで前の黒板と先生を見ている。よく集中力が続くなと私は改めて感心した。
彼女とは小学校からの仲で、クラスもずっと一緒だったのだが、実は席が隣になるのは初めてのことだ。
彼女はなんだかんだ言っても、近くにいると手を貸してくれるので、つい、私は気を抜いて眠ってしまって、たびたび起こしてもらってしまう。だって、近くにいると澪のありがたさが分かってしまうもん。
まあ、今、考えているのはそういうことではない。というのは、最近、彼女の様子がおかしい。
いつもの様に振る舞って見えるが、長い付き合いの私には分かる。
彼女は何かを気にしている。
初めは何かを恐れているのか、心配したのだけど、よく見ているとそんな感じは全くない。
むしろ、彼女自身が何かを焦がれているように感じ・・・・・・ん?
・・・・焦がれている?ん~、まさか、いやなあ~
あっ、彼女がこちらを向いて、少し焦っている。私が見ているから、驚いたのかなあ?
私は気にしないで、と手を振って現した。そしたら、小さな声で彼女は言った。
「紗枝、前、前!!」
ん?私は徐に前を向いた。
「あ~ん~ど~う~!」
私の席の前に、スラリとした青のスーツを着て、髪をバレッタで止め、赤い色のシャープな形をした眼鏡を掛けた女性が体を震わせて立っていた。
「あっ!せっ、先生」
彼女の名前は野々村 都。内の学校の英語担当の先生だ。
若い先生で容姿もそこそこに人気があるらしいのだが、いかんせん、真面目すぎる所があるので、少し煙たがられている所もあるのだ。いや、私は基本的にいい先生だから、好きだけど。
「お前が澪と仲がとてもいいのは、知っている。だが、そういうことは休み時間して、ちゃんと、授業を聞かんか!」
「は、は~い」
クスクス、と周りが私と野々村の様子を見て笑っている。澪も呆れた顔で見ている。
うっ、うっ、居たたまれない~~
*
やっと分かった。
私はグラウンドで陸上部の柔軟体操をしながら、この数日間で分かったことをまとめていた。
最近は、体育祭が近付いているので、副生徒会長である澪は、上へ下へと大忙しだ。私の方も、部活対抗リレーで万が一にも陸上部が負けてはならないので、練習時間が長くなっている。
まず、彼女が気にしているは隣のクラスというのが最初に分かった。思えば、おかしな様子を見せ始めたのは、澪が猫を追いかけた日からだ。その時、隣のクラスの近くにいた。
もちろん、それだけじゃない。感じるのだ、意識がそちらに向いているのを。
生徒会関係で何かあるのかな、と思ったが、それなら、いつものようにテキパキと対応するだろう。
では何なのだろうと、私はそれまでは、分からなかった。
が、今日、ハッキリした。HR終了後のことだ。
澪と私が廊下を出たとき、私達が知っている彼がすれ違った時、明らかに澪はいつもと違う顔を見せて狼狽していた。あんな姿を一瞬だが、小学校以来、久方ぶりに見た。
もう、野暮なことは言わない。
澪は恋しているのだ。
澪は北山中学のアイドルと言われるほど、色々な分野で目立つほど優秀なのだ。
ただ、浮いた話は全く聞かないし、感じない。
となると、納得が行く。
澪はどうやって思いを伝えたらいいのか、分からないのだ。
全くもう、告白したら大抵の男子は落ちないだろうに。
まあ、告白慣れしていても、自分からは全くないことを知っているからよくわかるが。
としたら、協力したい。
いつも、勉強を助けてくれているからというのもあるが、親友なのだ。
できない事は手伝ってあげたい。
私はパッと同じく柔軟体操をしている陸上部男子の方をみた。
幸い隣のクラスには信頼できるヒロがいる。
心地よく協力してくれるだろう。
*
陸上部終了後
「えっ、彼を呼び出して欲しいって?」
ヒロが驚いた顔でこちらを向いた。
「そう。お願いできないかな?」
私は少し上目づかいで言った。
「誰もいない所に呼び出しって、まさか、お前!?」
ヒロは私が告白すると勘違いしているらしいので、即座に否定する。
「違うよ。私じゃない」
ヒロは何故か安心した顔でため息を吐いた。そして、今度は疑問を持った顔で言った
「私じゃないって?じゃあ、誰なんだ?」
今、言おうかと思ったが、結果が分かってないので、一応、際し控える。
「まあ、それは報告を待ってよ。」
まあ、大丈夫だろう。
私は含めたその他の女子はわからないが、何を隠そう北山中学のアイドルと言われている白柳 澪なのだ。確率は0に等しいだろう
ヒロはまあいいか、という顔をした。
「それで、出来るの?」
納得させた私は改めて聞いた
「まあ、たまに話したりするから、大丈夫だと思うぜ」
安心しろと手の平を向けた。
「じゃあ、お願い!」
ちょうど、お互いの分かれ道に来たので、一応、釘をさした。
「おう!」
ヒロはこちらに手をあげて、返事を返して帰った。
後は、明日、澪に教えてあげれば、完璧だ。
余計なことだと、怒るかもしれないが、彼女はそうしないとしばらく悶々と過ごしてしまうだろう。
これぐらいのお膳立ては必要だろう。
私は頬っぺたを叩いて気合を入れて、ダッシュで帰路に向かった。