知りたい彼
「あ~あ、屋上で食べたかったな~」
綺麗なポニーテールをたなびかせて、椅子にすわっている紗枝が袋に半分入った食べかけのパンを片手に、顔を上げて、残念そうに言った
「まあ、仕方ないだろ。いくら、まだ、暖かいと言ってもな」
角刈りとがっしりとした体つきをしているヒロが紗枝を宥めた。彼も片手にパンを、また片手には野菜ジュースのパックを持っている。
「今の時期は、屋上は冷たい風が吹き始めているから、風引くわよ」
肩まで長いつやつやとした髪と落ち着いた雰囲気を漂わせている澪がひざの上に弁当を広げた状態で、箸を片手に言った。
「もう、秋なんだな~」
紗枝がしみじみとした感じで言った
*
私たち幼馴染3人は、いつも暖かい時期は屋上で、寒い時期は生徒会室の隣にある会議室で、昼ご飯を一緒に食べている。
秋に入ったばかりの今頃は、まだ、暖かいので屋上で食べるようとしていた。でも、肌寒い風が吹いていたのでやめにしたのだ。
そろそろ屋上はだめだ。
今いる会議室は、生徒がたくさん集まる人気の屋上と違い、私たち3人以外誰もいない。
それは当然である。ここは基本、入ってはいけない場所で鍵もいつも掛かっている。
では何故わたしたちが入れているかというと、これは副生徒会長である私の特権みたいなものだ。
この会議室は主に文化祭、体育祭などの行事に生徒たちが使う場所で、鍵は生徒会長が管理することになっているが、前も言ったように生徒会長に私を頼ってやっているので、自然、鍵も私が管理する羽目になっている。
「それはそうと」
ジロッ
たわいのないことを話していると、紗枝が思い出したように、こちらを睨んできた。
「何?」
私は首を傾げながら、理由を聞いた。
「何で起こしてくれなかったの?」
ああ、今日の4限の英語の時のことか
私は睨まれた理由を思い出し、こちらには全く落ち度がないことだったので、反論した。
「起こしたわよ。でも、もう限界って言って、聞く耳持たず、だったじゃない」
席が近くにいる私は紗枝が授業中に眠ってしまった場合、起こしてあげるのが、日課になっている。
今日はなんとか眠らずに1~3限を乗り越えた紗枝は、4限の英語において遂に限界を迎えたらしく、夢の国行ってしまい、そして、先生に怒られてしまった。
というか、起こしてあげようとした時点で、私は全く悪くないのでは?
「う~」
紗枝は自分の落ち度であることを理解しているのか、悔しそうにこちらを見る。
「野々村め~、小言をぐだぐだと~」
「自業自得でしょ」
野々村とは英語の先生のことである。
「そっ、そりゃ、災難だったな」
ヒロは少し呆れたように言った。
「そう災難だったの、陸上部の練習が大変じゃなかったら!」
紗枝は何かの被害者のようにしおらしく言った。
「何を言っているの」
だけど私は同調しない
「ヒロも陸上部なのに眠ったりしたことないじゃない」
今は、ヒロとはクラスが違うが、1年のときは一緒だったので、彼が寝たのは見たことない
「それについては援護できないな」
ヒロも同じ考えなのか私に同調する
「あ~、私が悪うございました~」
そう言って机においてある牛乳を引っつかんで一気に飲む
ヒロと私はそれを見て、笑った。
「そういや、うちのクラスも初っ端からめんどくさかったな」
ヒロが嫌な顔をして思い出すように言った
「あ~、数学の相沢でしょ。また、誰かに嫌がらせしたの?」
私たちも相沢の嫌がらせを授業で見たことがある。
「ああ、上代ってやつにな。高峰が解けないっていうほどの問題を突きつけてな。」
高峰隆一は成績上位者の常連で毎回、学年1位を私と争っているほどの人だ。大抵、1位は私になるが、たまに彼に1位を奪取されることがある。
「上代君って?」
初めて聞く名なので、紗枝が興味深そうに聞いた。
その名は私も聞いたことがない。まあ、知らないってことは学校で目立ってない普通の人だろう。
「ほら、結城といつも一緒にいる? 少し影が薄いやつだよ」
ヒロはわかりやすい結城を持ち出して言った。
結城君の隣にいた人ね・・・・・・・・・・・
「ッ!!」
彼のことか!
私はいきなりのことで驚いたが、何とか驚きを隠せていたので、紗枝やヒロは気にせず話を続ける。
「あ~、結城君の子分みたいな人ね」
思い出したみたいで、紗枝が感じたままのことを言った
「実際、どんな人なの?」
ナイス、紗枝!
「子分って・・・・、んっ、ん~~~~、よくわかんねえ」
ヒロは苦笑しながら、考え込んだ。
「これといって特筆するべきものがないんだけどな~。でも、あいつ1年のときから結城とつるんでいるのが不思議なんだよな、全く怖がらずに。」
「ふ~ん、1年のときからの付き合いなんだ。すごいね」
確かに、今でこそ結城君は温和な人だと周囲は認識しているが、入学した当初はえらいやつがはいってきたと、ほとんどの生徒たちから怖がられていた。私たちも当初は、正直言って怖がっていた。
「ほっ、他には?」
彼のことが少しでも知りたいので、私はヒロに聞いた。
「ん~~、知らねえや」
ヒロは首を振った。
「まあ、結城君の親友ってことだね」
紗枝が話を締めた。
ヒロの役立たず
上代君か、名前はなんていうんだろう
まあ、ここまで、わかれば後は簡単だろう。
*
と思っていたけど、なかなか彼について知ることができず。10日たってしまった。
どうしてかというと、季節は秋、体育祭まで1月である。
その準備に生徒会は追われてしまっている。
当然、副生徒会長である私が仕事をしないわけにはいかないので、放課後はそれ以外なにもできない
仕事をしている間も、何とか情報を得ようと、さり気なく彼と同じクラスである生徒会役員に聞いてみた。
しかし、結果はヒロと同じような情報しか帰ってこない
ああ、一つだけわかった。名前は葉君というらしい。
それ以外は結城君のいつも横にいる地味な人。
「はあっ」
授業が終わったHR後、私は盛大にため息を吐いた
やっぱり、きっかけがいるな。彼と自然と話してもおかしくないくらいのきっかけ。
「み~お!」
急に呼ばれた私は、振り向いた。
そこには満面の笑みをした紗枝がいた。
「何?」
私は笑みの意味がわからないので、いぶかしながら聞いた。
「澪何も言わないで、私にまかせてよ」
わけがわからない
「ちょっと来て」
紗枝は私の手を引いて、人気がない所に連れて行った。
「ちょっと!どうしたのよ」
私は少しいらいらしながら、言った。
「ふふふ」
少し笑い、どうだという顔をしながら、私を指差して、とんでもないことを言ってきた。
「私が彼と話ができるようにセッティングしてあげたから!」
はあ!?