第9話:才能の種
フロントコードの施設内、広々とした白い部屋。
中央にはセリカが腰掛け、孤児たち6人を前にしていた。
「さぁ、授業の時間だよ。」
セリカは楽しげに杖をくるくる回しながら、彼らを見渡す。
「今日のテーマはね、“想像力が世界を変える”ってお話。」
子供たちは真剣な顔でセリカの言葉に耳を傾けている。
彼らは皆、セリカが“マザー”を通して能力を授けた選ばれし者たちだった。
「15人集めてマザーに力を通したけどね、結局アビリティポイントが一定まで達したのは──」
セリカが片手を挙げ、指を立てる。
「たった6人だけだった。」
セリカの声に、8歳の少女が口を開く。
「他の子たちは?」
「失敗しちゃったってこと。」
セリカは軽く肩をすくめてみせた。
「でもね、君たちは違う。君たちには“才能の種”がちゃんと育ってるの。」
15歳の少年が腕を組み、口を尖らせる。
「才能ねぇ……そんなの、ただの偶然だろ。」
「そう思う? でもね、それは間違い。」
セリカは彼の目をじっと見つめた。
「才能っていうのは、好きなことや得意なことをどれだけ自分の中で膨らませられるか。要は“想像力”なの。」
少年は視線を逸らすが、他の子供たちは興味津々だ。
「この世界にはね、“アビリティパーソンズ”と呼ばれる特別な人たちがいるの。」
セリカが杖を床にトンッと打ちつけると、壁の一部がスクリーンになり、ランク別の表が浮かび上がった。
S級:AP 1000以上
A級:AP 999〜700
B級:AP 699〜400
C級:AP 399以下
「これがアビリティパーソンズのランク。もちろんS級は最強。でも……最初はみんなC級からスタートするの。」
セリカが小さく笑う。
「そして、今日は君たちに見てもらいたい子がいるわ。」
セリカが手をひらりと動かすと、部屋の扉が開いた。
そこに現れたのは、一人の青年。
「こいつが今日の“見本”だよ。」
セリカの言葉に合わせ、青年は軽く会釈する。
「B級のアビリティパーソンズ、ユウマくん。」
「よろしく。」
ユウマは無表情で子供たちを見渡すと、すぐにその場に膝をついた。
「彼の能力は“創造”。つまり、彼が想像したものが具現化する。」
セリカが言い終えるや否や、ユウマは手をかざす。
──ゴゴゴッ
その手のひらから、真っ白な鳥がふわりと舞い上がった。
「おぉ……!」
子供たちは目を輝かせてユウマの能力を見つめる。
「これがB級の力。」
セリカが満足そうに頷く。
「でも、これをS級にまで引き上げるにはどうするか分かる?」
子供たちは顔を見合わせるが、誰も答えられない。
「“もっと大きく、自由に想像する”こと。」
セリカはそう言って微笑んだ。
「想像力は制限を超えた瞬間に、現実を変える力になるの。」
「でも、S級なんて遠いでしょ。」
15歳の少年がぶっきらぼうに言う。
「そんなことない。」
セリカは杖を持ち上げ、先端で彼の額をコツンと軽く突いた。
「君たちはすでに、普通の人間じゃなくなってるの。あとは、その力をどれだけ伸ばすか。それだけよ。」
──ユウマの鳥が天井近くで羽ばたき、消えるように霧散した。
「今日の授業はこれでおしまい。次は、君たち自身が想像を形にする番。」
セリカは立ち上がり、子供たちに背を向ける。
「さぁ、次は誰が一番先に“想像”を形にできるかな?」
セリカの声が響く中、子供たちは自分の手をじっと見つめていた。