第7話:共鳴する刃
ヴォイドハウルは倒しても倒しても再生する。
黒い靄が何度も形を変えながら、アキトとレオに襲いかかる。
「……キリがないなー。」
アキトが双竜を振り払い、ヴォイドハウルを両断する。
──ズバッ!
切られた影はしばらくうごめいた後、再び集まって元の姿に戻った。
「このままじゃ埒が明かない。」
「そうだな。」
レオが冷静に返すが、眉間には僅かな皺が刻まれていた。
ゼロがアキトの肩に舞い戻り、小声で囁く。
「なぁアキト、そろそろアレ使えばいいんじゃねぇの?」
「アレ?」
「双竜を纏うんだよ。お前、やれるだろ?」
「……いや、ここで使うのは――」
「アキト。」
レオが静かにアキトを見つめる。
「お前、何か隠してるな。」
その言葉に、アキトは無意識に視線をそらした。
「気のせいだ。」
「……そうか。」
レオはそれ以上何も言わず、再びヴォイドハウルに向き直る。
「だが、俺はお前を信用していない。」
「それはお互い様だよ。」
アキトが苦笑しながら双竜を構える。
「まぁいいさ。証明してやる。」
ゼロがにやりと笑う。
「やる気出てきたみたいだな。」
アキトは深呼吸し、両手で双竜を握り直す。
「……双竜、纏え。」
次の瞬間、双竜が刀から黒い龍の姿へと変わり、アキトの腕に巻き付いた。
龍の紋様がアキトの腕を走り、黒い炎のようなオーラが立ち上がる。
「おいおい、すげぇじゃねぇか。」
ゼロが感心したように肩をすくめる。
レオは一瞬だけ目を細めたが、すぐに無表情に戻る。
「その力、どこで手に入れた。」
「さぁね。」
アキトは肩をすくめるが、ゼロがすかさず茶々を入れる。
「こいつが生み出した龍だよ。」
「ゼロ!」
「はは、悪ぃ悪ぃ。」
レオは目を伏せ、思案するように呟いた。
「龍を生み出す能力か……。セリカも見逃していたわけだ。」
「……お前、気づいてたのか。」
「最初からな。」
アキトは少しの間、レオの顔をじっと見つめた。
「言わなかったのは?」
「セリカが探ろうとしているなら、俺が言う必要はない。」
「お前、意外と優しいな。」
「違う。」レオは淡々と答える。「俺は、ただお前が敵になるなら先に倒すだけだ。」
「……お前、本当にそういう奴だよな。」
アキトは苦笑しつつも、どこか安心していた。
「さぁ、終わらせるぞ。」
ヴォイドハウルが再び襲いかかってくる。
アキトの腕に巻き付いた双竜が、まるで意思を持つかのように飛び出し、影を引き裂く。
同時にレオの刃がヴォイドハウルを四方八方から切り刻む。
──ヴォイドハウルは断末魔のような声を上げながら、ついに霧散した。
静寂が戻る。
アキトは息を吐き、双竜を刀の形に戻して鞘に納めた。
「終わったか。」
「いや。」
レオが通りの奥を見据えた。
そこには、影がじっと二人を見つめている。
「ヴォイドハウルが再生し続けた理由が分かった。」
レオが静かに呟く。
「“核”があそこにいる。」
アキトは視線をそちらに向けた。
「核……?」
「ヴォイドハウルの本体だ。」
影は形を変え、人の姿を模していた。
「人型……か。」
ゼロが低く唸る。
「そいつが黒幕か?」
「いや。」
レオが剣を構え直した。
「こいつはただの使者だ。」
影の中から、不気味な笑い声が響く。
「……戦いは、これからだな。」
アキトは再び双竜を抜き、レオと並んで影を見つめた。