第34話:交錯する策謀
豪華なシャンデリアが輝く一室。静寂の中で、高級なワインがグラスに注がれる音だけが響く。
フロントコードのスポンサーであり、国家の影で暗躍する男——神城征司は、重厚なソファに腰掛けながら、目の前の女性を見つめていた。
「……お前とこうして話すのは久しぶりだ。綾峰セリカ。」
セリカはワインのグラスを揺らしながら、くすっと笑った。
「貴方が私を呼び出すなんて、珍しいことね。何か焦ってる?」
征司は微かに眉を動かしたが、すぐに冷静な表情を取り戻す。
「いいや。ただ“確認”しておきたかっただけだ。」
セリカは一口ワインを飲み、征司を見つめる。
「リオのこと、かしら?」
征司の指が軽く机を叩く。
「そうだ。」
「……それとも、私たちの“昔の失敗”について?」
セリカの言葉に、部屋の温度が一気に冷え込むような感覚が広がった。
征司は静かにグラスを置き、深いため息をついた。
「お前も覚えているだろう? 俺たちは“あの時”すべてを終わらせるつもりだった。」
「ええ。だけど……終わらなかった。リオがいたから。」
リオ——かつて、セリカと征司、そして志久間武史が関わっていた最初の“失敗”。
セリカが「マザー」を開発し、能力者の可能性を引き出す実験を進めていた頃、リオという少年がいた。
彼は異常なほどの適応能力を持ち、マザーの力を誰よりも引き出してしまった。
だが、それは“能力を得る”というより——
**「力そのものと“同化”する」**という現象だった。
「……リオは、人間でありながら人間でなくなった。」
征司は低く呟く。
「あの時、俺たちは彼を止められなかった。だから——」
セリカはゆっくりとグラスを机に置いた。
「だから、ヴォイドハウルが生まれたのよ。」
マザーの力に適応しすぎたリオは、常人には理解できない存在となり、最終的に彼の意識と能力が暴走した。
それを止めるために、セリカと征司は彼を封印する方法を模索した。
志久間は反対にそれを利用しようと考えた。
だが、リオは行方をくらまし、その後——ヴォイドハウルが誕生した。
そして今まさに志久間がフロントコードに攻めようとしている。
「今さらそんな話をしてどうするの?志久間の対策の方が先じゃない?」
「リオが……“動いている”可能性がある。」
征司の言葉に、セリカの表情がわずかに険しくなる。
「リオが? ……生きてても自我はないはず。生きてるって言えるの?」
「俺はイリスの能力を使って情報を集めさせている。もしリオと言う意識がまだ存在しているのなら——」
征司は言葉を切り、静かに結論を述べる。
「“今度こそ”消さなければならない。」
セリカは目を閉じ、ゆっくりとため息をついた。
「私たちは、また同じ道を歩むのかしらね。」
「お前はどうする?」
「……決まってるわ。私は、私の責任を果たすだけよ。」
二人の視線が交錯する。
長年封じられていた“過去の亡霊”が、再び動き出そうとしていた。




