第3話:フロントコード
夜明け前の静寂を破るように、街の片隅で轟音が響いた。
アキトは廃ビルの屋上に立ち、下の様子を見下ろしていた。
「また暴れてるな……。」
ゼロが横でふわふわと浮きながら、欠伸をする。
「最近、多いよな。ヴォイドハウル。」
「増えてるってことか。」
アキトが静かに地面を蹴り、ビルの端から飛び降りる。
その着地地点では、既に戦いが始まっていた。
ヴォイドハウルを囲むように、二人の人影が立つ。
一人は黒髪を後ろで束ねた女性。手には細身の槍を持っている。
もう一人は金髪の青年。両手をポケットに突っ込んだまま、気怠そうな表情を浮かべていた。
「おいおい、こんな時間に散歩か?」
金髪の青年がアキトを見るなり声をかけてきた。
「……フロントコードか。」
「そうだよ。」
女性が槍を構えたまま、ヴォイドハウルの様子を窺っている。
「レオって奴も前にあったけど.....」
「レオのこと知ってるってことは……君がアキト?」
アキトは無言で双竜を呼び出し、手に取る。
「へぇ。噂通り、面白い力だな。」
金髪の青年が軽く口笛を吹いた。
「セリカが呼んでるんだろ?」
アキトの言葉に、女性が槍を肩に担いで歩み寄る。
「そう。綾峰博士が『連れてこい』ってさ。」
「お前らは?」
「俺はディノ。」金髪の青年が手をひらひらと振る。
「槍の彼女はミナ。」
「よく動くのは彼女の方さ。俺は後ろで見てるだけ。」
「そういうの、戦いの場で言うか?」ミナがジト目でディノを睨む。
「まぁまぁ。」
アキトは双竜を構え直し、ヴォイドハウルに視線を移した。
「こいつを片付けてから話をしようか。」
「手伝う?」ディノが軽い調子で言う。
「大丈夫だよ。」
アキトは笑顔で言葉を切ると同時に、双竜を振るった。
一閃。ヴォイドハウルの一部が断ち切られ、黒い霧となって消える。
「いい腕だ。」ディノが口元を緩める。「じゃあ、俺たちは見学しとくよ。」
***
ヴォイドハウルを片付けた後、アキトはミナとディノと並んで歩いていた。
「で、セリカはどこに?」
「すぐそこ。」ミナが指差した先には、古びたビルの一室があった。
扉を開けると、そこには長い白衣を纏った女性――綾峰セリカがいた。
「やぁ、アキト。」セリカが微笑む。
「……久しぶりだな。」
「君のことはずっと見てたわ。さぁ、フロントコードへようこそ。」
セリカの目が怪しく光る。
アキトの物語は、ここから大きく動き出すのだった。