第17話:交差する刃
夜の路地裏に響くのは、剣を抜く音だけだった。
アキトは双竜を手に、目の前の“影”と対峙している。
「ミナ、ディノ、援護頼む。」
アキトの声に、ミナは槍を構え、ディノは重圧の領域を強める。
「アキト、影がゆっくり近づいてくる。」
ゼロが肩の上で囁いた。
「わかってる。」
影はぼんやりと人の形をしていたが、目や口はなく、黒いシルエットが揺らぐたび、形を変える。
それはまるで、見る者の恐怖を映し出しているかのようだった。
「何か……嫌な感じね。」
ミナが槍の柄を強く握りしめる。
「ただの失踪事件が、こんなことになるとは思わなかったぜ。」
ディノが苦笑しつつ、額の汗をぬぐう。
──その瞬間。
影が疾風のごとくアキトに襲いかかった。
「来た!」
アキトは瞬時に反応し、双竜を横に払う。
鋼の刃が影を斬り裂くが、黒い霧のように霧散し、すぐに再び集まり形を成す。
「斬れねえのかよ。」
ディノが眉をひそめる。
「実体がないのか……。」
「いや、そうでもない。」
アキトは斬った感触がかすかに残っていることに気づいた。
「確かに、何かがいる。」
「試してみるか。」
ミナが前に出て、雷槍に電流を流す。
「雷槍・貫通!」
青白い稲妻が影を貫いた。
激しい雷光が路地を照らし、一瞬だけ影の輪郭がくっきりと浮かび上がる。
「やっぱり……人間?」
ミナの槍が影を貫いた瞬間、影は後ろに飛び退き、歪んだ声を響かせた。
「お前ら……アビリティパーソンズか。」
アキトたちは影の正体を見据える。
それは黒いローブをまとった青年だった。
「何者だい?」
アキトが低く問いかける。
「……名はない。」
「ヴォイドハウルか?」
青年は黙り込むが、わずかに口元が歪む。
「ヴォイドハウルではない。」
「じゃあ何者だ?」
青年は再び霧のように姿を消した。
「逃がすかよ。」
ディノが重圧を広げるが、影は重圧をものともせずに闇へと消えていく。
「……逃げられた。」
ミナが槍を下ろす。
「奴、何者だったんだ?」
ディノが苛立った様子で周囲を見渡すが、もう姿はない。
「普通の人間じゃないのは確かね。」
ミナは槍の電流を切り、ため息をついた。
──その時、遠くから足音が近づく。
「……アキト!」
レオが数人のフロントコード隊員を連れて駆け寄ってきた。
「レオ?」
「報告を受けて応援に来たが……遅かったか。」
「逃げられた。」
アキトが短く答えると、レオは静かに頷いた。
「これで二件目だ。」
「……?」
「この数日で、同じ影の報告が二件上がっている。」
「どういうことだ?」
「まだわからん。ただ、フロントコードの拠点周辺にも現れたらしい。」
「俺たちを探ってる……ってことか?」
ゼロがレオの肩に乗り移りながら呟く。
「可能性はある。」
レオの表情は険しい。
「いずれにせよ、これ以上好きにさせるわけにはいかない。」
アキトはレオの言葉に無言で頷いた。
「アキト。」
「なんだ?」
「次の任務は俺と行動してもらう。」
「は?」
アキトが驚いた顔を向ける。
「レオと?」
ミナが少し驚いた声を漏らす。
「不満か?」
レオがアキトを真っ直ぐに見つめる。
「いや……別に。」
アキトは一瞬だけゼロと視線を交わし、再び前を向いた。
「わかった。次の任務はお前と行くよ。」
「決まりだな。」
レオは満足そうに頷くと、アキトの背中を叩いた。
「……気がおもいなー。」
アキトはため息をつきながら夜の空を見上げた。




