第13話「神城家の影」
フロントコード本部の応接室。
重厚な空気が室内を包む中、一人の男がゆったりと椅子に腰掛けていた。
黒のスーツに身を包み、冷たい眼差しで全てを見透かすような視線を送る神城征司。
彼はフロントコード最大のスポンサーであり、国の政財界にも強い影響力を持つ人物だった。
「ここの雰囲気は変わらんな。」
神城は机の上に指を滑らせ、何かを思い出すように呟く。
「あなたが関わってくれるからこそ、我々もこの場に立てているのです。」
フロントコードの幹部がそう言って深く頭を下げる。
その光景を、壁際で腕を組んで見ていたアキトは小さくため息をついた。
「なぁレオ。」
「何だ?」
「スポンサーってのは、あんなに偉そうなもんなのか?」
レオはアキトの隣で静かに佇みながら答える。
「偉そうにしていいだけの立場だよ。あの人が金を出さなきゃ、フロントコードは半年前に解散してた。」
「……それはそうかもだけど。」
アキトは再び神城を見た。
「神城征司。国の政治にも関わってる大物だ。」
「なんでそんな奴がわざわざフロントコードに?」
「それは……。」
レオが言葉を濁した瞬間、応接室の扉が静かに開いた。
現れたのは、10歳ほどの少女だった。
長い黒髪が顔を覆うように垂れ下がり、彼女は無言で古びた人形を抱きしめている。
少女は神城の隣に立ち、父親を見上げた。
「娘のイリスだ。」神城が淡々と言う。
「彼女もアビリティパーソンズだ。」
「子供……?」
アキトがイリスを一瞥するが、彼女はまるで存在感を消すように静かだった。
「イリスはA級だ。」
アキトの目が僅かに細められる。
「A級って……こんな子供がか?」
レオが答える。
「見た目で判断するな。能力の格は、年齢とは関係ない。」
イリスは父の前から一歩進み、アキトに向かってモニタを差し出した。
薄く反射する画面の中で、フロントコード本部の一角が映し出される。
「……これが?」
イリスは静かに口を開いた。
「“ゲート”。場所と場所を繋ぐの。」
次の瞬間、モニタに映っていた場所が応接室の扉と繋がり、画面越しの風景が現実に広がった。
「……!?」
アキトは驚きの表情を隠せなかった。
「ゲート能力……か。」レオが呟く。
「イリスはモニタを使って空間を繋げる。戦闘では直接攻撃こそできないが、戦略面では最強の一角だ。」
「マジで……。」アキトがイリスを見つめる。
だがイリスは反応せず、人形を抱きしめるだけだった。
「イリスの能力は軍でも注目されている。」神城が静かに言った。
「だが、私は彼女を道具にするつもりはない。」
神城はイリスの頭に手を置き、優しく撫でる。
「彼女は、フロントコードの未来の一員だ。」
イリスは父の手を受け入れながら、ただじっとアキトを見つめ返した。
アキトは何も言わず、その視線を受け止める。
「君も彼女のことを理解する日が来る。」神城は立ち上がり、イリスの肩を抱いた。
「今日は顔見せだけだ。失礼する。」
神城とイリスは扉を通り、静かに部屋を後にした。
アキトは扉が閉まる音を聞きながら、しばらく沈黙していたが──
「なぁレオ。」
「どうした?」
「……やっぱり偉そうだな。」
レオは思わず苦笑した。




