第10話:能力者たちの日常任務
フロントコードの作戦室。
薄暗い部屋には数人のアビリティパーソンズが集まっていた。
「……で、依頼内容は?」
B級アビリティパーソンズのユウマが、壁に映し出された資料を見ながら淡々と尋ねた。
「依頼は警察からだ。」
説明を続けたのは、A級アビリティパーソンズのレンジ。
20代半ばの男で、黒髪を後ろに束ねた長身の人物だ。
白いコートの下には、無数の小さな刃物を仕込んでいるのが特徴的だった。
「最近、このエリアで暴走族が度々問題を起こしてる。破壊行為や窃盗が相次いでるらしい。」
「警察だけで対応できるんじゃないのか?」
ユウマが小さく溜息をつく。
「表向きはそうだが、暴走族のリーダーが小規模な能力を持っているらしい。」
そう答えたのはカナデ。19歳の女性で、肩までのピンクの髪を後ろでまとめている。
フロントコードではB級だが、サポート能力に長けており、情報収集を担当することが多い。
「警察じゃ手に負えないってことね。」
カナデは頬杖をつきながらニヤリと笑う。
「まぁ、私たちの腕の見せどころってわけ。」
「チームはこの3人でいいか?」
レンジが周囲を見渡すと、セリカが画面越しに姿を見せた。
「えぇ、大丈夫よ。頼んだわ。」
「了解。」
ユウマは立ち上がり、無言で部屋を後にする。
「相変わらずノリが悪いわね、ユウマ。」
カナデが小声で呟くと、レンジが肩をすくめた。
「まぁ、アイツはいつもああだからな。」
3人は警察との合流地点へと向かった。
市街地:夜
繁華街の一角でバイクのエンジン音が響き渡る。
ヘルメットを被った暴走族の集団が、店舗のシャッターを蹴りながら騒ぎ立てていた。
「おらぁ! こっちもやっちまえ!」
暴走族のリーダーらしき男が叫ぶと、手をかざし、周囲に小さな火花を飛ばす。
軽度の発火能力を持っているらしい。
「しょぼい能力ね。」
ビルの影から様子を見ていたカナデがあくび混じりに呟いた。
「だが野放しにするわけにはいかん。」
レンジが腰のナイフを手に取る。
「行くぞ。」
──3人は音もなく暴走族に近づいていった。
「おい、お前ら。」
ユウマが足を止め、リーダーに声をかける。
「はぁ? なんだお前。」
リーダーがユウマを見て嘲笑する。
「こんな時間に喧嘩売りに来たのか?」
「いや。」
ユウマは淡々と答える。
「お前たちを止めに来た。」
「ははっ! こいつ面白ぇな!」
リーダーが手を振り上げると、バイクの男たちが次々に飛びかかった。
「カナデ。」
レンジが短く指示を出す。
「了解。」
カナデは手をかざし、周囲の街灯を一斉に点滅させた。
その瞬間、暴走族たちは目を眩まされ、動きを止める。
「……やっぱり地味な能力ね。」
カナデが軽く舌打ちする。
「地味でも使えるさ。」
レンジがその隙に数人をナイフの柄で殴り倒した。
残るはリーダー一人。
「くそっ……!」
リーダーは手から火花を放つが──
「無駄だ。」
ユウマが静かに手を前に出し、小さな水の鳥を生み出した。
鳥は火花に触れると同時に水蒸気を上げて消え、リーダーの能力は無効化された。
「終わりだ。」
ユウマが近づき、リーダーの胸倉を掴む。
「てめぇ……何者だ……?」
リーダーが悔しげに呟く。
「ただのアビリティパーソンズだ。」
ユウマがリーダーを地面に突き飛ばした瞬間、背後でサイレンが鳴り響いた。
「警察が来たか。」
レンジが腕時計を確認する。
「じゃあ、後は任せるわ。」
カナデがひらりと手を振り、3人はその場を立ち去った。
翌日:フロントコード施設内
「ふぅ……。」
報告を終えたユウマは一息つき、作戦室のソファに腰を下ろす。
「お疲れさん。」
レンジが隣に座り、ナイフを拭きながら言った。
「ねぇ、次の任務っていつ?」
カナデが興味津々で尋ねると、レンジは苦笑する。
「次はお前が主役の仕事でもいいんじゃないか?」
「ま、それもアリね。」
ユウマは二人のやり取りを聞きながら、天井を見上げた。
「この平和な時間が、長く続けばいいけどな……。」
彼の呟きは、誰にも聞こえなかった。




