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さあ逃げよう
遠くでサイレンの音がした。パトカーか。おかげで我に返ることができた。寝っころがっていた内山の頬を引っ叩いて起こした。ただただオロオロするばかりの内山に事の顛末を詳細に話している暇はないし、心ここにあらずでそれを聞く余裕なんてなかっただろう。となれば、できることは一つである。ここから逃げるのだ。夜の神社から全力で走って去る。さっきと違って具体的かつ簡明な策を取れる。そもそもよく考えなくても、まともな生物でなくてもあれだけバトルをしていれば、その騒音やそうでなくとも火とか炎とかの目立つ色が、住宅街から少しばかり外れているとはいえ、このご時世人っ子一人から視認されてないと断言するのは難しい。「○○大学の学生、夜の境内で放火疑惑」の新聞の見出しが頭によぎった。いや、ネットニュースの方が速い。内山を強引に引っ張って走った。鳥居から出る時、境内を一度振り返ってみた。やはり、どこにも炎上した形跡はなかった。
――あれ? あの火の獣……
ふとした既視感を検証しているよりも、その場から一目散することが優先された。