5.御屋敷へ
3日後…
旦那様のお知り合いの方々が集まり、いつもよりも賑やかな宴が始まった
「皆の者、我のために集まってくれて嬉しく思う。今宵は楽しもうぞ!」
皆が乾杯を始め、1杯目をグイッと飲み終わるのを見計らい、姉上様が口を開く
「皆様、今宵の宴に参加していただきありがとうございます。わたくしから一興皆様を楽しませたいと思うております。さて、あちらをご覧くださいませ」
その言葉に皆が姉上様の指した方向を向く
「あちらの舞台にて、わたくしの妹が舞を披露いたします。どうぞ楽しんでくださいませ」
私は姉上様に言われたとおり、舞を披露するため準備を始める
今回は和楽器を扱える者達も加わり、私の舞をより映えるようにしてくれるようだ
「ふう…」
深呼吸をして、舞台へと上がる
小さな音色から始まり、その音色に合わせてゆったりと踊る
私の持っている扇がはらはらと散っていく桜のように儚さと美しさを表してくれる
その私の舞をじっと見つめている殿方が一人いた
その他の方々は皆、舞の最中に眠ってしまったというのに…
「ありがとうございます」
舞が終わり、お辞儀をしてその場を去る
そして、最後まで舞を見ていた殿方にお声をかけに行った
「…今宵は私の舞をご覧いただきましてありがとうございます…」
「…君の名前は?」
「…桜と申します」
最後まで舞を見届けた殿方は、真剣な眼差しで私に話しかける
「…桜、君は結婚している相手などはいるか?」
「……今はおりませぬ」
「…そうか…では、私の嫁にならぬか?」
その言葉に私は何を答えて良いのか分からなくなった
ちらっと姉上様の顔を見ると、にこやかに笑みを浮かべており、顔にはその殿方と縁を結べと書いてある
「……私のような舞のみを披露する者が貴族様のお目にかかるなど…そんな…よろしいのですか?」
「…ああ、私はそなたを待っていた」
その言葉は本心だったようで、夜が明けてすぐ迎えを寄越したのであった
そのまま、迎えと共に貴族様のお屋敷へ向かい、立派な建物に圧倒されながらも中へと入ると…
屋敷の中には使いの者が何人かおり、私を主人の元へ案内した
「…桜様がお着きになりました」
使いの者が声をかけると中にいる主人が中に入るよう促す
「…失礼いたします」
「待っていたぞ」
「…このような身分の私ですが…お力になれるよう尽力を尽くしますゆえ、よろしくお願いいたします」
「…そう、硬くなることはない。私はな…お上の遠い親戚筋にあたるものなのだ。その血筋ゆえ…良いお家から正妻を貰うこともあるやもしれぬ…が、そうならぬよう…私は策を考えようと思う」
「何故…そこまで…」
「私は待っていたのだよ、お主と会える日を…」