4.姉上様の命令
翌日、旦那様は姉上様を気に入られたのか帰り支度をしている私達を部屋に呼び付けた
「お主たちは我を充分に楽しませてくれた…これが昨夜のみというのは哀しく思う。そこで、我の提案なのだが、お主たち一条家の専属にならないか?」
その提案に姉上様は喜びの表情を旦那様に向けて喋り出す
「誠にございますか!私達のような…芸のみを得意とする者たちを雇ってくださるのですか…!ありがたき幸せにございます!」
本当に心から感謝を述べているように見えた…
私も計画のことなど忘れ、姉上様の喜びに嬉しく思ったのだが…
感謝と共に頭を下げた姉上様のその顔は、思惑のある含みを持った笑いで少しでも姉上様の喜びに騙された私は冷ややかに感情が落ちていくような気がした
旦那様からのお伝え後、私達は専属の部屋を与えられ、毎夜、毎夜、余興が始まるのであった
旦那様は高いお酒を片手に持ち、程よい酔いを顔に表しながら、姉上様の舞を見て微笑んでいる
その様子が約1ヶ月ほど続いたある日…
「桜、妾は舞の稽古をしてくる。お主は先に戻るのじゃ」
その日は何故か私一人だけ部屋に戻り、早々に寝支度を済ませ床に入った
ただ、察しただけ…それだけ…
次の日、お昼頃に旦那様からお呼び出しが伝えられた
何を伝えられるのか、勝手に想像しつつ部屋の前まで行く
少しの緊張を落ち着かせて旦那様の部屋に入ると…
「旦那様、桜です」
「部屋に入れ」
「……」
部屋の中には旦那様と姉上様がいた
この風景はあの日…お上と姉上様の結婚が決まった時のような雰囲気だ
いや、それを狙っていたのだろう
そう私が察したのを見計らってなのか、姉上様が口を開いた
「桜、わたくしは旦那様を支えたいと思ったのです」
姉上様の言葉に続けて旦那様が口を開く
「…桜、我は梅を側室に迎えようと思う」
やはり…前と同じ繰り返しか…
「それは…おめでとうございます」
私の言葉に旦那様は嬉しそうに笑い、優しく言葉を紡ぐ
「桜…お主は梅の専属の侍女となってもらう。良いな?」
「はい」
旦那様から命令されたその夜…
姉上様の部屋を整え、静まり返った部屋で姉上様が訪れるのを待つ
数刻の後、廊下を歩く音が聞こえ、部屋の襖がゆっくりと開かれた
寝巻きの格好で現れたその人は私の目の前に座り、静かに話し始める
「桜、妾はこのまま…ここに留まるつもりじゃ。お主は3日後に行われる宴で舞を披露し、そこで、有力な貴族に買ってもらえ。そして、数年はそこに留まるのじゃ」
「はい…」