2.鎌倉の世
私の手には真っ赤な血が溢れ、私は大粒の涙を流した
人を殺す感覚…柔らかい…そして変に温かみを感じる気味の悪さを感じながら人を殺す
何度も体験したくないこの感覚をずっと忘れないのであろう
私は愛する人を殺してしまった罪悪感、失った悲しさ…から叫び泣きそして自死した
私の叫び声を聞き使いの者が入るとそこには真っ赤な血の中で死ぬ私と親王様がそこにいた
これはその後現在に至るまで何度も人を殺すことになる人生の1ページ目である
「…!」
目を覚ますとそこは知らない屋敷のある1部の部屋だった
簡素な畳上に絵なども描かれていない押し入れと襖があり、私は冷たい布団に寝かされていた
何の温かみもないその布団は濡れ、光をも入らぬ目からは枯れ果てぬ涙が顔を埋めた
「目覚めたのじゃな」
襖の奥から聞き慣れた声が聞こえ、静かに襖が開かれる
その人物は私の顔とよく似た姉
相変わらずの冷たい表情で私を見つめ、ため息をつきながら話を始めた
「そのように目を腫れさせ、いつまで床に居続けるのじゃ」
「……私は…もう…生きてはいけませぬ…どうして…私は…」
「…お主が自死してから100年の時が経ったのじゃぞ。世も変わり、鎌倉の時代がやってきてしまったのじゃ。お主が想った相手なんぞは生きていたとしても、死んでいる年齢になっておろう。もう、良いではないか…まだ妾達の命は終わっていないのじゃぞ?そのままお主が命を全うせぬのでは、妾の命も危ういのじゃぞ。分かるか?」
100年…
鎌倉…
死…
命令…
また…この惨劇を繰り返すのか…
まだ日ノ本の終わりを私の手でやらなければならないのか…
天照大御神…貴方が作り出したこの国でどうして破滅を願うのでしょう…
この国はそこまで罪深いことをしたのでしょうか…
姉上様からの説得から、無理やりに体を動かし部屋の外へと出ると、そこは緑生い茂り外の様子が見えない場所であった
「姉上様…ここは…?」
「ここは…妾が東宮様にお願いして建てて貰った屋敷じゃ…屋敷とはあまり言えぬがな…」
「…誰も居ぬのですか?」
「…ああ、妾がここに行きたいと申した時に使いの者を連れて、ここに来て過ごしていたのじゃ…今はそれも無いがな…」
姉上様はもしもの為にこの屋敷を所望したのだろう
この時代まで生きるとは思ってもいなかっただろうが、残りの余生を静かに住むには充分な屋敷だと思う
「姉上様は…この先も命に従い続けるのですか?」
「……それは妾を否定しておるのか?」
「…時代が変わった今…どのようにして命を全うすれば良いのです」
「…そうじゃな…妾はまた舞をしながら考えようと思う…しかしな、妾だけでは命は遂行できん…桜…お主とやらねばならぬのじゃ」
「……」
ここで姉上様の願いに頷けば、私はまたあの血を見ることになる
もう…そんなことはしたくはないのに…
しかし…命令に逆らうことも出来ない…
これを逆らうということは神への冒涜になってしまう…
やるしか…ない…