1.始まり
時は平安
ある貴族のお屋敷に二人の女の子が産まれました
二人の顔は不気味なほど双子のように似ており、周りはそのどちらかを神の子とし、神様にお返ししようと考えた
しかし、その家の当主がそれを止めたのでした
「これは何かの不吉な知らせやもしれぬ。神の祟りかそれとも呪いか…我らがしっかりと育てあげ、神に献上することが一番の最善ではないか?」
「…本当にそれでよろしいのですか?」
「…ああ」
当主様が止めてくれたおかげで、二人はすくすくと育ち背丈も顔も同じまま成長した
「失礼致します。お嬢様からお話があるそうです」
「そうか…入れ」
「失礼致します。父上、妾は舞を習いとうございます」
「…舞は貴族がするものではない、あれは穢らわしい輩がするものじゃ」
「…お上にお見せすることもございましょう。妾はお上に仕え、お上が楽しめるようなものを一つ持っておきたいのです」
「…少し考える時間をくれ」
そして、当主様は考えた末、舞を習わせることを許可したが、条件として神が認めるであろう人身御供の舞でなければならないと当主様は告げた
「…桜、父上から舞をすることを許されたぞ。完璧に舞を披露し、必ずや約束を果たす...分かったな?」
「...はい。梅姉様」
「その呼び方は人がいる時でいいと言ったはずじゃ。妾と同じ顔で気味が悪い、名前を呼ぶでない」
「...はい。承知いたしました」
そこから、顔のそっくりな姉妹は舞の稽古をし、数年後には舞を完璧に踊れるようになった
「失礼致します。父上、お話とは一体...」
「...少し前からお主達をお上に仕わせようかと思っておったのじゃ。舞も完璧に踊れるようになったことだ。そろそろお上に仕えさせても問題なかろう」
父上からの報告から数日、大量の着物とお上の屋敷での作法を教えこまれ、使いの牛車に乗り、お上のお屋敷に行くことになった
「...私の部屋はここか」
10畳ほどの部屋が2部屋ほどあり、その部屋には1人の同じ歳くらいの女性が襖の辺りで座っていた
「…桜姫様に仕えさせていただくことになった楓と申する者です。私はここで姫様にお仕えさせていただくと決まった日からずっとお待ちしておりました。姫様がお困りにならないようお仕えさせていただきますので覚悟なさってくださいね」
私を見た彼女は固く自己紹介をした後、冗談交じりに言葉を投げかけ、私は仕えてくれる喜びに微笑みを浮かべた
「ふふっ、ありがとう」
私には秘密がある
それは姉上様と容姿が似ていることにも関係しているのかもしれない
容姿が似ているというのはもしかすると悪魔の末裔なのではという意見もあるそうだが…実際にそうなのだ
私と姉上様は天照大御神の遣い
そして、ある命を受けてここまでやってきている
その命とは...国の破滅
何故そのようなことを望むのか?
お上が罰を受けるようなことをしたわけではない
ただ、我が主の声が聞こえなくなってしまった
それだけなのだ
その声が聞こえないというだけで国の繁栄は終わり、神への侮辱として罰せられることになるのだ
その行為からこの国の神様であるお上を殺し、倭国の破滅を促すという命を全うするべく、今まで生きてきた
しかし…こんな目的がある中で私はある罪を犯したのだ
「桜!こんなところでなにしておる?」
「...少し、休憩をしておりました」
「そうか、そうか、私の部屋に美味しいお菓子がある。食べに来ぬか?」
「......親王様、私をなんだと思っているのですか...」
「食べぬのか?」
「…はあ…使いの者をよこしますので、その者に渡してください」
「......そう言うと思って、懐に持ってきておるのだ。一緒に食べよう」
「......親王様がそう仰るなら」
いつも気分を落ち着かせる時に屋敷の隅にある、端だけれど庭が満遍なく見える縁側に座り、仕事の合間に心を鎮めていた
そんな時に親王様と話す時間があり、その時間が自分の中で楽しみになってきた頃…
「梅姫様からの文でございます」
「...ありがとう」
"夜、お上の部屋で待っておる”
ただ、それだけが書かれた文
これは何かを実行するという合図なのだろうか
そう思い、夜お上の部屋に行くと…
「待っておったぞ」
「...!失礼致します!」
「表を上げよ...」
「...桜、降り行って話があったのじゃ...妾はお上の元へ嫁ぐことになった...それの祝いとして舞を披露することを許されたゆえ桜に話をしようと思うてな」
「…!!梅姉様が…嫁ぐ......!おめでとうございます...!」
「周りの者にはまだ言っておらぬゆえ、お主も口には気をつけるようにな」
「......はい」
これは...舞を披露する日に殺すという合図…
いや...もしかするともっと早い段階で終わらせてしまうかもしれない
またの連絡を待つのみか...
そして数日が経ったある日
「...梅姫様から文が届いております」
「…ありがとう」
"一か月後、祝いが開催される”
また短い文、これだけで察しろということなのだろう...
そのうちまた連絡が来るだろう
その日を待つか
連絡を待っているうちに私も連絡のことを忘れ、仕事の合間を縫っては舞の稽古をし、息抜きに縁側で静かに庭を眺める
そんな時間を過ごしていると祝いの日が近づいてきた
そして、祝いの前日...
いつも通り、縁側に座っていると親王様が私に声をかけてきた
「何を考えておる」
「…え?」
「...ここ最近のお主は心ここに在らずじゃよ」
「......はい」
「…注意しておるのではない、何があったのか聞きたいのじゃ」
「…明日行われる祝いに緊張しているだけでございます」
「......本当にそれだけか?」
「......はい」
そして当日が訪れた
貴族が舞をするというのは今までにもあったが、お上のお嫁さんが舞をするというのがあまりにも衝撃だったのか....皆がざわついていた
しかし...そんな衝撃など無かったかのように舞をして少し経った頃周りの声など無くなってしまった
いつの間にやら皆眠ってしまい、私と姉上様だけが舞っている
そう…これが、私達の舞の力
催眠の力を持っているようで人前で使うのは初めてだったが、本当に使えたようだった
そして、舞で使われる扇は特別なもので願えば短刀になる作りになっている
姉上様と目を合わせ、お上の元へと向かう
そして、短刀でお上の胸を刺した…
「…」
初めて人を殺してしまった…怖い…怖い…
いくら使命であったとしても、人を殺すなんて…
その後、私と姉上様は舞っていた場に戻り、周りと同じように眠る
違和感など誰1人感じなかったように…
“人を殺めてしまった”という事実に耐えられなかった私はあの縁側で刺し殺した感覚と向き合っていた
「どうかしたのか?」
隣から声をかけられ、声のするほうを向く
私がどんな顔で縁側に居たのか、私は知りよしもしないが親王様は心配そうに私を見つめている
「......親王様」
親王様は私の隣に座り、庭の方を向きながら話を続ける
「もうずっとそこで暗い顔をしておる」
「...私は...過ちを犯してしまいました」
「......人は過ちを犯す生き物じゃ...それに今はお上が亡くなったばかりじゃ...そう自分を責めることはない」
「…!」
「......桜、その過ちとやらを償いたい気持ちがあるのであれば私の元へ嫁ぐが良い。私の元で精一杯生き、償うのじゃ。良いな?」
「…!…誠によろしいのですか?」
「...ああ」
「...ありがたき幸せにございます」
そして、私は親王様と結婚した
親王様はこんな私を愛してくれて、これほど幸せな日々を送っていいのだろうかと思えるほどの日々だった
そして、ある日幸せな日々が壊れる前触れのように、梅姉様から文が届いた
"東宮様から求婚されました。東宮様と結婚します。これで世の中は安泰ですね。そちらも良き日々をお過ごしでしょうか?私からの伝言と致しましては、うまく事を済ませなさいとだけ伝えます。また後ほど親王様の元へ行きますゆえ、そこで話しましょう”
「………これは…姉上様はいつ来られる予定なのですか?」
「…明日には来られるかと…」
「……」
私と仕える者の会話を聞いた親王様が着物を擦りながら私の元へ来られ、心配そうに声をかける
「桜どうしたのじゃ?」
「…姉上様がここに来られるようで」
「そうか。そうか。私と結婚して以来会ってないのじゃ。話したいこともあろう、案内するのじゃ」
「……ありがとうございます」
親王様は優しい…こんなに優しい方が他にもいらっしゃるのだろうか…
そして…こんなに優しくされて良いのだろうか
この日常がずっと続けば良いのに…
そう思いながら次の日を迎えた
「桜、久しぶりじゃのう?」
「…お元気そうでなによりです。そして、ご結婚おめでとうございます」
「そう…これは私の考えなのだが、元々の使命を忘れてはならぬ。この結婚は良き方向だと思うておる。お主もそれを忘れてはならぬぞ。私の結婚の祝いの日、そなたの行動を見ておる」
そう言って姉上様は帰ってしまった
…これは…親王様を…旦那様を…殺せということ…
もう…嫌だ…殺したくない…
しかし…これは使命だ…殺さねばならない…
殺さなければならない気持ちと殺したくない気持ちが交互して気持ちが決められないまま祝いの日を迎えた
「親王様…出発する前に少し二人でお話ししたいのですが…」
「人払いをするほどなのか?」
「…ええ…二人きりになりとうございまして」
「…良いぞ」
「…親王様…申し訳ございません…私…私…お上を殺しました…」
私は命令を選んだ
神からの命を…神を裏切ってはならぬ…
この…私の短刀でケジメを…!
「………つ…」
「親王様…ごめんなさい………」
私の手には真っ赤な血が溢れ、私は大粒の涙を流した
人を殺す感覚…柔らかい…そして変に温かみを感じる気味の悪さを感じながら人を殺す
何度も体験したくないこの感覚をずっと忘れないのであろう
私は愛する人を殺してしまった罪悪感、失った悲しさ…から叫び泣きそして自死した
私の叫び声を聞き使いの者が入るとそこには真っ赤な血の中で死ぬ私と親王様がそこにいた
これはその後現在に至るまで何度も人を殺すことになる人生の1ページ目である