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小さな希望を胸に

作者: 羽森未来

『小さな希望を胸に』を読みに来てくださりありがとうございます。

今回は泣ける話を題材にしようと思って書き上げた作品です。

どうぞお楽しみください!

 僕はとにかく不運だ。

 おみくじを引けば必ず凶を引き当てたり、50%で当たるくじ引きを10回連続で外したり……。なんなら1%の確率で悪いことが起こるなんてことがあれば当然のようにその1%を引いてしまう残念な男だ。

 それくらいのただ不運なだけならまだいい。が、僕の場合はこんなものでは済まない。

 昔10年付き合ってた彼女はずっと別の彼氏がいたとか言っていきなり振ってくるし、どこの会社に入社しても1年経たずに次々倒産するし、あげくのはてに人助けのつもりで車に轢かれそうな女の子を助けたら誘拐と勘違いされて通報されそうになる始末──。


「はあ……」


 新しい職場を探す日々の中、面接を終え大きなため息をつきながら帰路につく。

 なんとなく分かる。今回も駄目そうだ……。

 どうしてやることなすことこうも上手くいかないんだ……。こんな感じだから幸せには程遠いし、ならせめて他人にはと人助けをしてもだめだし……。このまま生きていて楽しいことなんてあるのだろうか……。

 そのようなことを考えながらとぼとぼ歩いているうちに大通りの交差点に差し掛かる。

 この先もずっと辛いことしか起きないなら──。


「だめー!」


 赤信号の交差点に足を踏み入れようとしたとき、突如見知らぬ女性に服を引っ張られて尻もちをついた。


「何してるんですか!!」


 そこで我に返り、尻もちをついたまま見上げる。彼女は女子高生だったようで心配そうにこちらを見ている。

 

「今、信号見ていたのに飛び出しましたよね? いったい何を考えてるんですか!?」


 そう言われて初めて自分が何をしようとしていたのか理解した。この人が助けてくれなかったらどうなってたか考えただけでもぞっとして冷や汗が溢れ出す。


「何があったのかは知りませんが投げ出したら何もかも終わってしまうんですよ?」

「それも悪くないかもしれないな……」


 苦笑いを浮かべながらそう呟く。なぜそんなことを見知らぬ人に向かって言ったのか分からかい。普段の僕なら無難な言葉を返してすぐその場を去っただろうに、なぜかこのときは本音が溢れてしまった。


「ふざけないで!!」


 すると彼女は両手で僕の胸ぐらを掴み大声で叫んだ。


「何もかも終わりにしていい? そんなはずないでしょ?? 世の中生きたくても生きられない人だって沢山いるのにちょっと嫌なことがあったくらいで簡単に命を投げ出さないで!!」


 その言葉に珍しく僕はカッとなった。


「ちょっと嫌なこと? 君が僕の何を知ってるって言うんだ? 何があったかも知らないくせに知ったような口を聞くな!」

「ええ、知らないわよ? あなたに何があって、なぜそんな行動に出ようと思ったのか何一つ知らないし知ろうとも思わない」


 両者睨み合いが続きながら更に彼女が言葉を連ねる。


「でもね、命の重みは誰よりも知ってるし、あなたもそれを知っているはず」


 一体何の話をしているんだ? まさか僕の方が長く生きてる分そんなもの知ってて当然だとでも言いたいのだろうか?


「忘れたなんて言わせないわよ? あなたはあのときこう言った。

 兄は生きたくても生きられないんだって。だったら兄の分まで長く生きてみせろって」


 その言葉に僕はハッとした。


「まさか君はあのときの?」


 その言葉には確かに覚えがある。

 3年くらい前だっただろうか。ちょうどこの場所で今の僕と同じように命を投げ出そうとしていた少女を助けた。

 そうだ、確かあのときその少女は兄を病気で喪い、そのあとを追うと言っていたのを僕が止めたんだ。


「思い出しました? そう、3年前ここであなたに命を救われた者です」

「そっか、君があのときの……」


 正直驚いた。あのときの彼女は見るからにやつれていて生きながらも心はすでに死んでいる、そんか感じの印象だった。

 しかし今やそのときの面影はなく、どこにでもいる普通の女子高生に見える。

 あれからきっと辛いこと、苦しいこと沢山あっただろう。でも彼女は生き抜いて再び僕の前に現れた。一方僕はどうだろうか、他人に偉そうな事を言っておきながらこの行動……。時を遡れるならあのときの僕にそんなこと言いながらお前は3年後に死のうとするけどなと直接言ってやりたいくらいだ。


「ずっとお礼が言いたかったんです」


 僕の胸ぐらを掴むのをやめて改めて僕の方を見つめる彼女。その目にはうっすらと涙も浮かべていた。


「あのとき大好きだった兄を喪った私は酷く絶望していました。本気で死のうと思うくらいには。

 当時私は兄の病気について詳しく分かっておらず、しばらくすれば完治して、また沢山遊べるのだと思ってました。でも、兄は亡くなった」


 悲痛な顔をする彼女は更に続ける。


「兄の死を告げられたとき、頭が真っ白になって家を飛び出して気付いたらここの交差点にいました。

 そして、躊躇することなく兄のあとを追おうとしたとき、あなたに止められたんです。覚えてますか?」


 僕は無言で頷いて続きを促す。


「泣き喚きながら兄のことを話して再度身を投げ出そうとしたときにあなたは私の両肩を強く掴んで言ってくれました。なんて言ってくれたか覚えてます?」

「うん、『兄は生きたくても生きられなかったんだろ? だったら兄の分まで長く生きてあげないでどうする!』て言った」

「そうです、あの言葉に感銘を受けて私の人生が変わったと言っても過言ではありません。

 あなたのおかげでどんなに辛いことがあってもあの言葉を思い出して今日までやってこれたんです。

 だからずっとお礼を言いたくてあなたのことを探し続けていました。そして今日ようやく言えるのですね。

 本当にありがとうございました、今の私があるのはあなたのおかげです」


 そう言って彼女は一筋の涙を流しながら破顔した。


「けれど、正直今のあなたを見て失望しました」


 彼女は涙を拭い、また話し始める。


「あのとき私に生きる希望を与えるほど力強い言葉をかけてくれたあなたがどうして……」

「それは……」


 今の自分について掻い摘んで話した。

 途中、苦しさから言葉が詰まったりもしたけれど彼女は口を挟むことなく相槌を打ちながら最後まで聞いてくれた。


「辛い思いをしてきたんですね……」


 全て話し終えて悲痛な顔をして沈黙している僕に彼女は優しく声をかけてくれた。


「私はあのときのあなたみたいに生きる希望を持てるような力強い言葉をかけてあげることはできないでしょう」


 下を向きながら悔しそうに言う彼女。でも、とそのあとに付け加える。


「あなたのやってきたことは無駄なんかじゃない。それだけは断言できます。

 少なくとも私はあのときの行動と言葉に救われましたし、今でも本当に感謝してます。そんなあなたのやってきたことが無駄だったわけがありません」


 力強く言いきったあと、微笑みながら更に続ける。


「たとえあなたが自身のことを否定したとしても私はそれを否定します。

 だって私が今ここにいることが無駄ではない何よりの証明なのですから」

「──うん、ありがとう」


 僕はお礼を言いながら大粒の涙をこぼした。

 瞼からこぼれ落ちる涙は止まることを知らず、今もなお流れ続ける。

 嬉しかった。僕の言葉で彼女が生きる決意をしてくれ、お礼を言うために再び僕の前に現れてくれるなんて。

 やること成すことすべて裏目で無駄だと思うことばかりの人生だったけど無駄ではなかった。たった1回、たかが1回だけだけど、それだけで十分だ。僕のやってきたことは無駄じゃなかった、それが分かっただけで彼女以上に僕は救われた気がした。


「少しは恩返しになったかしら?」


 ようやく落ち着きを取り戻した僕に彼女は一言かける。


「十分なくらいさ、ありがとう」


 そう言って僕は改めて頭を下げた。


 その後他愛のない話をしたあとに別れようしたとき、警察がやって来て僕らは事情聴取ということで連行された。大通りであれだけ怒鳴り合っていたんだから当然と言えば当然だけど……。


「ほんと不運だ」


 そう言いながらも憑き物が落ちたかのような清々しさを覚えながら日常へと戻っていった。

 最後まで読んでいただきありがとうございました!

 今回久しぶりに執筆したのですが、やはり読むのとはまた違う楽しさがありますね。この作品を書こうと決めたときからどんな展開にしてどんな結末にするか考えていた期間は凄くいきいきしてた気がします。(執筆中はイメージを文字にできずに悩んでたのは内緒)

 また時間ができたら次の短編小説書こうと思います、そのときはまたよろしくお願いします!


 もし、気に入ってくれた方がいれば是非他の作品も読んでみてください!

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