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行方知れずを望んだ王子と、その結末 〜王子、なぜ溺愛をするのですか!?〜  作者: 長岡更紗


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27/39

27.十八日目。真剣な瞳の王子様

ブクマ112件、ありがとうございます!

 空を飛ぶような浮遊感。

 嵐は過ぎ去ったのだろうか。

 ほんの少しだけ眠るつもりだったのに、ゆっくり眠ってしまった気がする。


「ん……んん……」

「ああ、起こしてしまったか、クラリス」


 目を開けると、そこにはイライジャ様のお顔が。頬と頬を寄せていたはずなのに、一体なぜ?


「すまないが、おろすぞ」

「え?」


 そう言われて初めて、私は宙に浮いていることに気づいた。

 って、まさかのお姫様抱っこをしていたのですか!? どうして!

 丁寧に床に下ろされると、その理由がわかった。床が濡れている。


「まさか、ずっと私を抱き上げてくれていたのですか!?」

「いいや、一時間ほどだ」


 一時間も!!

 私は小柄でもありませんし、結構体重はあるのです!!


「起こしてくだされば良かったのですよ!?」

「よく眠っていたようだったのでな」

「重かったでしょうに……」

「いいや? ちっとも重くなどなかったが?」


 いつも通りの爽やかな笑顔。けれどこのクラリスにはお見通しですよ!

 腕がぷるぷるしていらっしゃいますから!!

 私がジト目で見上げると、イライジャ様は苦笑いをされた。


「好きな女の前では、格好つけさせてくれ」

「無茶は厳禁でございます! でも……」


 まだぷるぷるしているイライジャ様の手を取ると、私は微笑んで見せた。


「ありがとうございます。イライジャ様のおかげで眠れました」

「そなたを守ると約束したからな」


 どうやら私の安眠を守ってくれたようです。

 ちょっと得意げなお顔が可愛らしい。


 外の雨は続いていて、風もまだ吹いている。

 私たちは雨漏りのする小屋で、嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。



 昼が過ぎた頃に、ようやく雨と風が消えて外に出る。

 黒い雲は、青空に追い立てられるように逃げていくのが見えた。


「ようやく去ったな」

「長く続かなくて良かったですね」


 朝までの大雨が嘘のように、太陽の光が辺りを照らしていた。

 しかし、小屋の中は雨漏りでひどい有り様だ。マットも濡れてしまっていて、今晩は使えそうにない。

 小屋を掃除し、水を含んだ重いマットを二人がかりで外に出す。

 家を乾かさなければまともに住めず、私たちは仕方なく町までやってきた。


「ジョージもこんなことがあったのであろうな……だのに俺は、我慢もせず町に泊まろうとしている」


 やはりイライジャ様はジョージ様と比べてしまっている。


「イライジャ様も同じ状況に置かれていれば小屋で過ごしたでしょうし、それだけのことでございます」


 それに町に来ると決めたのは、私のためもあったのだとわかっている。

 本当に大切にしてくれているのが伝わってくるのだ。おそらく、イライジャ様お一人だけなら、あのまま小屋で泊まっていたことだろう。


 朝からまともに食べていなかった私たちは、大衆食堂に入り早めの夕食をとる。

 町はしっかりした建物が多く、大した被害はなかったようだ。


「いやあ、建国祭にこの嵐がぶつからなくて良かったなぁ!」


 イライジャ様と食事をとっていると、隣からそんな声が聞こえてきた。


「まったくだ! 年に一度のお祭りに嵐なんざ、目も当てられねぇからなぁ!」


 建国祭はもう三日後に迫っている。

 国を挙げてのお祭りは、誰も彼もがが楽しみにしているのだ。

 イライジャ様は食事をとりつつも、耳はそちらに集中しているようだった。


「イライジャ様のご病気も良くなっているという話だし、無事に建国祭を迎えられそうだな」

「だから言っただろ! イライジャ様は光の子なんだから、絶対に大丈夫だってな!」


 イライジャ様のご病気が、良くなっている。その言葉を聞いて、私は王子に視線を送る。イライジャ様は微かに首肯し、ほっと息を吐いておられた。

 どうやらジョージ様は順調に回復しているようだ。きっと建国祭までに間に合うだろう。


 食事を終えると目立たぬようにそっと出て、近くの宿で一室を取った。


「ジョージは無事のようだな。建国祭も通常通り行われるだろう。ジョージを俺の代役に立ててな」

「はい。ジョージ様が民衆の前に出られた時、イライジャ様もご登場なされば、双子であることを知らしめられましょう」

「そうだな、まずはそこからだ」


 イライジャ様の演説であれば、誰もが耳を傾けてくれる。

 実際に双子を目にした民衆たちに、ジョージ様がどれほどの理不尽さを強いられていたかを知ってもらうのだ。

 因習を断ち切るチャンスはそこにある。イライジャ様ならば、きっとうまくやってくれる。

 その時、私はそばにはいないけれど。


「どうした、クラリス。悲しそうな顔をして」

「……いいえ。うまくいくのかと思うと、少し不安になっただけでございます」

「そなたらしくもない。俺を信じていないのか? うまくやってみせる」

「もちろん、信じておりますとも」


 心からの言葉を伝えると、イライジャ様は光り輝くように笑った。


「うまくいった時には、クラリス。そなたを娶る準備を始めるから、そのつもりでな」


 嬉しそうなイライジャ様を見ると、胸が痛む。

 たとえ私が消えずとも、王子を拐かした私を陛下は許さないだろう。それにイライジャ様には、もっと相応しい素敵な女性がいるのだから。


 一緒にいたいだなんてわがままは……許されない。


「どうした? 嬉しいのか?」


 勝手に目が潤み、イライジャ様が私の頬に手を当ててくれる。

 嬉し涙だと思っていらっしゃるのか。


「はい……イライジャ様が、真の王になる日も近いのだと思うと……」

「ははっ、気が早いな。俺が王になれば、そなたは王妃だ」

「そんな、私などが」

「そなたにしか、務まらぬ」


 悩みや不安など一切見当たらない、真っ直ぐなエメラルド色の瞳。

 どうしてそんなに私を信じてくださっているのか。


 嬉しい。


 けれど私は、その期待を裏切ろうとしているのだ。

 イライジャ様を信じている。イライジャ様ならば、きっと素晴らしい国にしてくださると。

 だからこそ、隣でいるのは私ではいけない。

 身分の低い女を娶ることのデメリットが大き過ぎるのだ。

 反対派を生み出すような婚姻をしてはいけない。理想とする国家を造りたいならば、私は不要な存在でしかない。


「イライジャ様のお気持ち、本当に嬉しく思っております」

「これからもよろしく頼む」


 気持ちを伝えた私の顎は、イライジャ様に上に向けられて。


「愛している」


 いつもの言葉を口にしながら、くちびるを優しく落としてくれた。




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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
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政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
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最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
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異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
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婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
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急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
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婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
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大事な人との、約束だから……!
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当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

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キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
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神盾列伝
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 しかし彼はひとつの所に留まれず、アリシアの元を去ってしまう。
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 ロクロウがいなくなっても気丈に振る舞うアリシアに、一人の男性が惹かれて行く。
 彼は筆頭大将となったアリシアの直属の部下で、弟のような存在でもあった。
 アリシアはある日、己に向けられた彼の熱い想いに気づく。
 彼の視線は優しく、けれどどこか悲しそうに。

「あなたの心はロクロウにあることを知ってて……それでもなお、ずっとあなたを奪いたかった」

 抱き寄せられる体。高鳴る胸。
 けれどもアリシアは、ロクロウを待ちたい気持ちを捨てきれず、心は激しく揺れる。

 継承争いや国家間の問題が頻発する中で、二人を待ち受けるのは、幸せなのか?
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 これは、一人の女性に惚れた二人の男と、アリシアの物語。

 何にも変えられぬ深い愛情と、底なしの切なさを求めるあなたに。
キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
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サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
[良い点] こんだけ雨漏りして、この小屋よく保ったな〜(笑) 一時間も抱っこ(*´艸`*)♡
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