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行方知れずを望んだ王子と、その結末 〜王子、なぜ溺愛をするのですか!?〜  作者: 長岡更紗


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21.十一日目。鉄の意志を持つ私

ブクマ109件、ありがとうございます!

 イライジャ様の真剣なお顔。

 この国の常識を変えていきたいというお気持ちは、痛いほどよくわかった。


 けれどもイライジャ様が王となり、国を変えようとしている時に、私はそばにはいられない。


 ── 俺の隣にいてほしい──


 その言葉は、涙が溢れそうなほど、嬉しくはあるのですけれども……。

 建国祭でイライジャ様が姿を現し、ジョージ様と双子であったことを明かすのが目的。

 そこでこの国の闇を露呈させ、因習を断ち切り、ジョージ様を認めさせなければならないのだから。


 どちらにしろ、私はイライジャ様を(かどわ)かした身であり、もう共には歩めない。

 ずっとお側で仕えていたかったのは山々だけれど。建国祭を境に、私とイライジャ様は今生の別れとなるだろう。


「クラリス?」


 返事ができずにいると、イライジャ様は不思議そうな顔をして私を覗き込んだ。

 いけない、このままでは不審に思われてしまう。

 イライジャ様は、建国祭で私が消えるつもりでいるなどとは露ほどにも思っておられないようだ。

 無事に建国祭を迎えられるよう、やり過ごさなければと私は微笑みを作る。


「そうでございますね。どうか、王となりこの国を変えていくイライジャ様を、見せてくださいまし」


 実際にこの目でイライジャ様を見ることはなくなっても。

 変わっていく国を見ることはできるはず。

 私の言葉に、イライジャ様は目を細めて嬉しそうに笑った。


「ああ。そなたがいれば百人力だ。必ずいい国にしてみせる」


 胸にちくりと走る罪悪感。

 けれどイライジャ様は、私などがおらずとも、立派な王となるに違いない。

 そしてどなたかと結婚し、お子を()して、幸せに暮らしていかれるのだ。

 涙が出そうになるのは、嬉しいからに違いない。

 願わくば、そんなイライジャ様を近くでお見守りしていたかった。


「嬉し泣きか?」

「……はい」


 肯定してみせると、イライジャ様のエメラルド色の瞳は嬉しそうに光った。

 どうしてこんなに胸が苦しいというのか。

 イライジャ様と離れる覚悟は、とうにできているはずなのに。


「クラリス……」


 温かい手が、私の頬に触れた。

 なにをされるかは、もうわかっている。

 私がそっと目を閉じると、ふわりと空気が動いた。

 ゆっくりと味わうようにくちびるを吸われて、それだけで私の体は溶けていきそうになる。


「今晩こそは、良いか?」

「ダメでございます」

「……」


 拒否すると、ちょっとイライジャ様の頬が膨れてしまった。お可愛らしい。


「いつになったら良いのだ」

「まだしばらくは、お許しくださいませ」

「まぁ、そなたの心が決まるまでは待つが……待てなくなることも、ある」


 射抜かれそうな視線を浴びて、私の心はばくんと大きく揺れ動く。

 こんなにまで求めてくださっていることに喜びを感じている私は、なんだというのか。

 喜びの心のまま、体を委ねたらどんなことになるのだろう。

 いや、耳年増だから知識だけはあるのだけれども。

 これはきっと、興味本位というやつだ。そんな興味だけで、イライジャ様のお体を私などで穢させるわけにはいかない。


 たとえ、どれだけ求められても。

 私は! 鉄の意志で! 断らなければならない!!


「愛している、クラリス……早くそなたとひとつになりたい……」


 そんな甘い顔をして言わないでくださいまし!


「この手に抱いて、一晩中そなたを鳴かせ続けたい」


 なにをなさるおつもりですか!!


「そなたの上げる声は、どんなに愛らしいだろうと毎夜想像してしまうのだ」


 勝手に私の声を想像しないでくださいませー!?


「ははっ、そんなに嫌そうな顔をするな、クラリス! なにもしはしない」


 っく! 私で遊んでいらしたのですね!!? まったく、この王子は──


「今はまだ、な」


 するつもりですかーー!!

 もう、私の情緒が振り切れてしまいそうなのですが!!


「本当にかわいいな、そなたは」

「からかわないでくださいませ。こんな年増を捕まえて」

「たったの四歳差だ。すぐに追いつく」

「ふふっ、イライジャ様が二十七歳になった時、私は三十一歳でございますよ?」

「それもすぐに追いつく」


 年齢が追いつくことなど一生ないというのに、イライジャ様は当然のようにそう言って笑った。

 だけれど、私は現実に引き戻される。

 イライジャ様が二十七歳になれば、私はもう三十一歳なのだと。

 埋められない年齢差と身分差。

 愛していると言ってくれるのは単純に嬉しい。

 けれど、だからこそ、イライジャ様の気持ちを受け入れるわけにはいかないのだ。

 私は鉄の意志をさらに固めて、くちびるを噛み締めた。


「そなたの不安がわからない俺だと思うか?」

「え……?」


 手を頭に回されたかと思うと、そのままくちびるをほぐされていく。

 あああ、私の鉄の意志はどこへ……!


「んん、イライ、ジャ、様……っ」

「なにも案ずることはない。俺にすべてを任せてくれれば、それで良い」


 それは一体、なんの話をしてらっしゃるのですか?!


「俺にすべてを任せると言ってくれ、クラリス……」

「んんん〜〜っ!」


 言 い ま せ ん か ら っ !!



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ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
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異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
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婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
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▼あなたはまだ本当の切なさを知らない▼

神盾列伝
表紙/楠 結衣さん
あなたを忘れるべきかしら?
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 しかし彼はひとつの所に留まれず、アリシアの元を去ってしまう。
 そのお腹に、ひとつの種を残したままで──。

 ロクロウがいなくなっても気丈に振る舞うアリシアに、一人の男性が惹かれて行く。
 彼は筆頭大将となったアリシアの直属の部下で、弟のような存在でもあった。
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 彼の視線は優しく、けれどどこか悲しそうに。

「あなたの心はロクロウにあることを知ってて……それでもなお、ずっとあなたを奪いたかった」

 抱き寄せられる体。高鳴る胸。
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 これは、一人の女性に惚れた二人の男と、アリシアの物語。

 何にも変えられぬ深い愛情と、底なしの切なさを求めるあなたに。
キーワード: R15 残酷な描写あり 魔法 日常 年の差 悲恋 騎士 じれじれ もだもだ 両思い 戦争 継承争い 熟女 生きる指針 メリーバッドエンド


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

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バナー/秋の桜子さん




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― 新着の感想 ―
[良い点] ええええ♡(๑ÒωÓ๑ 三 ๑ÒωÓ๑) 王子とうとう押し切るの? いやもう押し切れ(笑)
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