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憎しみの果てに  作者:
9/34

有紗としての初出勤

翌日、会社に電話し、戸籍を変えるために出社が遅れることを伝えた。

部長の羽田が最初は驚いたが、ややあってから「わかった」と言ってくれた。

しかし考えてみれば、この病気になった場合、性別はかかった本人が自由に決められるから

会社が反対などできるはずがなかった。

ブラウスにスカート、その上にジャケットを羽織る。

キッチリとメイクをし、完璧なOLだ。

この姿を見たらみんな驚くだろうな…でも俺はこうやって生きていくって決めたんだ。

気合を入れてから家を出て役所に向かう。

診断書を出せば手続きはすぐに済むと聞いていたが、

本当にあっという間に終わってしまった。

「正式な性別と名前の変更は明日からになりますが、会社とかにはもう手続きしてもらって大丈夫ですのでこの証明書を会社に提出してください」

役所の人に言われ、返事をしてから役所を後にした。

思ったより早いな、まあいっか。

会社のIDを変えなければいけないので、

証明写真を撮るように羽田に言われたのを思い出し、

移動中にあった写真機で撮影をする。

女の自分の写真を見て、これが今後のIDの写真になるのかと思いながら

有紗は歩き出し、会社へ向かった。

会社に着き、とりあえず今までのIDを首にかけてから中に入る。

すれ違う社員たちが誰だろう?というような顔をしているが、

軽く会釈をしてから自分の部署へ進んだ。

「お疲れさまです」

みんながキョトンとしている。

そんな中、聖菜だけはすぐにわかって、ニコッとしてくれた。

羽田のところまで向かう際中、小声で栞が聖菜に話しかけた。

「あの人鈴木さんですよね?」

「そうだよ」

「すごい…まるで別人!」

やっぱりみんな驚くんだな…

ちょっと面白いなと思いながら羽田の前まで行った。

「部長、遅くなりました」

「あ、ああ…鈴木君だよね?」

「そうです。もう君じゃないですけどね。はい、これ証明書と写真です。」

「あ、ありがとう」

証明書に目を通し、名前を確認する。

「有紗…という名前になったんだね」

「はい、あとはよろしくお願いします」

お辞儀をしてから自分の席に着くと、羽田はそれを持って出ていった。

手続きをしに行ったようだ。

それを確認してから栞が話しかけてくる。

「鈴木さん、あまりに変わりすぎてビックリしちゃいましたよ。メイクもそうだし髪もカラー入れて、服装もだし…ネイルまでしてる!そのデザインかわいい!」

一気に言われて思わず苦笑いしてしまった。

すると今度は聖菜が声をかけてくる。

「有紗ちゃん、髪型似合ってるよ。川合さんもいい人だったでしょ」

「ありがとう。そうだね、気さくな人だったよ」

するとそこに栞が割り込んでくる。

「聖菜さんは知ってたんですか?」

「こないだ2人で話があるって言われたときに相談を受けたの。だったら協力してあげようと思って、服とかコスメ選んであげて、ヘアサロンもネイルサロンも紹介してあげたの」

栞は有紗を見まわした。

「なるほど、どうりでセンスがいいと思った」

まあそう思うよな。

俺がこんなの選べるはずないし。

「っていうか、そういうのならわたしにも相談してくださいよ。聖菜さんほどじゃないけどアドバイスとかはできますよ」

「そんな大体的にすることじゃないからさ。でも今後は田島にも相談させてもらうよ」

「なんでも聞いてください。あ、わたしも有紗さんって呼びますね」

まだこの名前に慣れてないから違和感があるけど、

慣れるためには呼んでもらったほうがいいのかもな。

「うん、それでいいよ」

雑談はこの辺にしておいて、仕事を始める。

ネイルのしている指でパソコンを打っていると、なんか不思議な気分だった。

でも…悪くないかも。

少しだけ気分が上がった気がした有紗だった。

それにしても…みんなチラチラ見てくるな。

これだけいきなり変われば当然か。

そこへ羽田が戻ってくる。

「鈴木さん、明日新しいIDができるそうだから。ただ、今日からもう女子社員になったからね」

「あ、わかりました」

女子社員か…

返事をしてから少し仕事すると、お昼の時間になった。

「お昼だー!」

嬉しそうに立ち上がるのはもちろん栞だ。

いつも通り女性4人が集まると、一番年上の恵が有紗を呼ぶ。

「鈴木さんも一緒に行こう」

そうか、俺ももうこっち側の人間になったんだよな。

「あ、わかりました」

財布を持って5人で会社を出てランチに行く。

よく見るOLの光景に自分自身が加わったのだ。

「今日は月曜だからいつものところだね」

「はい、サラダランチです」

サラダランチか、昨日の夜も野菜中心だったのにな…

男だったころはカレーとかラーメンとか定食系のところにばかり行っていたので

ちょっと残念な気分だった。

「ねえ相原、月曜だとなんで軽いのがいいわけ?」

「ほら、日曜って遊んだりして夕食もカロリー高いの食べちゃったりするから、次の日のお昼は軽めのものにするようにしているの」

そこまで気にしてるのか…女って大変だな。

お店に入り、お目当てのサラダランチを頼む。

「こんな店あったんだ…知らなかった」

「男性はあまり来ないからね」

ランチを食べながら美穂が質問してきた。

「ねえ、どうして女性になることにしたの?」

復讐のため…とは言えないので適当に答える。

「なんか女の身体なのに男で生きてもしょうがないなって思ったんです。で、どうせなら徹底的に変わろうと思って相原に協力してもらって。相原なら同期だから頼みやすいし」

「ふーん、でもそれだけキレイになれるんだったら正解だと思うよ。相原ちゃんのアドバイスも的確そうだしね」

まさかキレイと言われると思わなかったので照れてしまった。

「ぜ、全然キレイなんかじゃ…それに相原のおかげですから」

「ううん、確かにアドバイスはしたし服とかも選んだけど、有紗ちゃんの元がよかったんだよ。これからもっとキレイになるよ。スキンケアとかもちゃんと始めたし」

「言われたからね。でも、よくちゃんとやってるのわかったね」

「肌を見ればすぐにわかるよ」

見てわかるものなのか?

自分ではよくわからなかった。

でもこのランチで今まであまり話さなかった恵や美穂とも話したことで、

仲良くなれた気がして、来て正解だった。

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