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憎しみの果てに  作者:
6/34

女として生きるための準備

さてと行くか。

有紗は家を出る前に服装を確認する。

黒いパンツに白のシャツ、それに仕事でも使っているトートバッグ。

全部真子が買ってきた服だ。

すべて無難なものしかないし、出勤のような感じの服装になってしまったが、

さほど気にせず家を出て、待ち合わせ場所に向かった。

すると、すでに聖菜が待っていたので声をかける。

「お待たせ。なんか仕事とは雰囲気が違うね」

聖菜はティアードのワンピースにカーディガンを羽織っていた。

「だって仕事じゃないもん。逆に有紗ちゃん、それじゃ仕事の格好だよ」

「そう言われてもこういうのしかないし…」

「じゃあ…服も買おう。プライベートと出勤用のをね」

「出勤用はあるからいいよ」

「だっていつもシンプルなパンツスタイルじゃない。女を意識するためにもスカートにしたほうがいいよ。まあいいや、とりあえず予定のコスメから行こう」

そう言って聖菜が歩き出したので、とりあえず有紗も横に並んで歩き出す。

コスメ売り場に着くまでに、簡単な説明をしてくれた。

「コスメってピンからキリまであるの。スキンケア用品からメイクアップアイテム、ブラシとか。ドラッグストアとかで買えるプチプラもあれば、百貨店とかでしか買えないデパコスとかね。プチプラは安いんだけどデパコスは高い。じゃあ高いぶんデパコスのほうがいいのかって言われるとそうでもない場合もあるの。物によってはプチプラでも優秀なものはたくさんあるし」

「ふーん、まあ俺…じゃない、わたし的にはどっちでもいいけど。わかんないから相原に任せるよ」

「うん、本当はね、初心者はプチプラでいいんだけど、個人的にはデパコスを勧めたいの。デパコス使ってるとテンション上がるし、いいものはやっぱりプチプラより全然いいから。でもお金大丈夫?厳しかったらプチプラのお店に行くけど」

どれくらいの値段なのかわからないが、お金の問題はない。

なぜならマイホームを買うための貯金を使うから。

もはやこのお金に意味はない。

だったら全額復讐に費やそうと決めていた。

「全然かまわないよ。だからデパコス買おう」

「わかった。じゃあまず下地からね」

そう言って着いたのは、ONEという聞いたことのないお店だった。

売り場には同い年くらいの女性が何人もいて、手に取ったり説明を受けたりしている。

「これこれ、この下地がすごくいいの」

「あの…下地って?」

無知なので聞くと、ファンデーションの前に塗るものだと教えてくれた。

それを使うことで肌ムラを整えて、ファンデーションのノリをよくしてくれるらしい。

値段を見てみると3800円と書かれてる。

「コスメって高いんだね」

「さっきも言ったけどデパコスはね。プチプラなら安いのだったら700円とかで買えるよ」

そんな会話をしていたら、店員が声をかけてきた。

「よかったらお試しになりますか?」

すると、有紗が答えるよりも先に聖菜が答える。

「あ、わたしじゃなくてこの子なんです。やってもらってもいいですか?この子身体女性化病で、今後は女性として生きていくって決めたんです。だから一緒に初のコスメを買いにきて」

なにもそこまで説明しなくてもと思ったが、

それを聞くと店員はにこやかな表情に変わった。

「それは大変でしたね。でも女性って楽しいんですよ、特にメイクは。ではこちらへどうぞ」

「は、はい…」

そのまま鏡のある椅子まで案内されて座らされた。

うー…なんか緊張するな…

「肌の色だと01番かな。これくらいの量を出して、顔の高い部分に塗るんです」

そういいながら真珠くらいの大きさの下地を頬やおでこ、あごなどにちょんちょんと置き、それを伸ばすように、顔全体に塗り込んでくる。

終わった後の顔を見たら、さっきよりも明るくなったように見えた。

「どうですか?」

「変わったのがわかります。なんか…すごいですね」

「これにファンデーションを付けるともっと変わりますよ。そちらもお試しになりますか?」

これにも先に聖菜が答える。

「あ、とりあえず下地だけで大丈夫です」

「そうですか、わかりました」

店員はニコっとしてから、今度はレジに連れていかれ、会計を済ませた。

お店を出てから聖菜に聞いてみる。

「今のお店で全部まとめちゃえばいいんじゃないの?」

「ううん、ファンデはあそこよりいいのがあるの」

という感じで細かくまわり、ファンデーション、リップ、アイシャドウ、アイライナー、

チークなどコスメがどんどん揃っていく。

そしてその都度メイクをしてもらったので、

いつの間にか有紗はフルメイクした状態になっていた。

「有紗ちゃんすごくキレイになった。やっぱりメイクって大事でしょ」

今の顔を見て、その言葉には素直に頷けた。

メイクをしただけで、一気に華やかな顔になったと思ったし、

自分で言うのもなんだが、すっぴんのときよりもキレイになったとも思った。

「そうだね、自分でも驚いたよ。でもこんな風にできるかな…」

「それは練習あるのみ!動画とかでメイクの仕方あるからそういうの見てやるしかないよ。慣れれば当たり前のようにできるから」

「わかった…やってみるよ」

と答えるしかない。

ハードル高いな…

「じゃあ次はスキンケアね。何気にこれが一番大事だから」

そういえばこないだ、スキンケアがどうとか言ってたっけ。

やること山積みだな…まあ、言い出したのが自分だから仕方ないけど。

今度は化粧水、美容液、クリームなど結構高いものを買い込んでいく。

これらもプチプラがあるけど、高いほうが効果があると聖菜は言うので、

それを信じて使ってみようと思った。

「次は服かな。仕事用とプライベート用の両方買うから結構な量になるかも」

「仕事用は今のじゃダメなの?」

「ダメじゃないけど…オシャレじゃない。それに有紗ちゃんは慣れるまでスカートで出勤したほうがいいよ。そのほうがより自分が女性だっていうのを意識するから」

もうこの大きな胸で充分意識していると思ったが、口には出せなかった。

「このブランド好きなの」

そういって聖菜がお店に入っていく。

「まずは仕事用からね。有紗ちゃんは胸が大きいからゆったりしてるほうがいいかな」

そう言いながら有紗の身体に服を合わせてくる。

「V字のほうが逆に目立たなかったりするんだよ」

「詳しいんだね」

「わたしも実は大きいほうなの。Eあるからね」

「そうなの?全然見えないんだけど…」

「いろいろ工夫してるから。あと秘密兵器もあるの。それはのちほどね」

もったいぶらずに言えばいいのに…

あれもこれもと聖菜が選んでいく。

やっと買い終わったと思ったら今度は私服だった。

こっちはオフショルのものや花柄などを選んでいく。

通勤用の私服もどれもオシャレで、今まで着ていたものとは大違いだと思った。

真子が選んだのは無難なやつだったからな。

それとも着れればいいと思って選んだか…どっちでもいいや。

俺はこれで明日から生まれ変わるんだ。

「次はパンプスだね。今ってヒールないのしか持ってないでしょ?」

そしてヒールのあるパンプスを何足か買い、最後の買い物になった。

「さっき言ってた秘密兵器」

それは下着売り場だった。

「下着はあるよ」

「そりゃそうでしょ。でも胸を小さく見せるブラは持ってないでしょ?」

「そんなものあるの?」

「うん、おかげで大きく見えないんだから」

そんなのがあるならもっと早く知りたかった。

これらも買い、やっとすべての買い物が終わったので夕食を食べることにした。

「いっぱい買ったね」

「買いすぎだよ。必要なものだから別にいいけど」

と言いながらも、ざっと計算すると40万近く使っていた。

けど、このお金はマイホーム資金だったというのを途中で話したので

聖菜も有紗もさほど気にしていない。

「女って金掛かるんだね」

「そうだよ、ほかにもヘアサロンとか、ネイルサロンとか、たまにエステも行くし。あっ明日って何してる?」

「明日?予定ないけど」

「じゃあさ、ヘアサロンとネイルサロン行ってきなよ。お店紹介するから」

「うーん…」

ネイルサロンはともかく、ヘアサロンは行くべきかなと思った。

今はただ伸びただけのような感じなので、ちゃんと女らしい髪型にしたほうがいい。

「わかった。相原も一緒?」

「ううん、一人でだよ。それくらい行けるでしょ。お店予約できるか調べるね」

まあそうだよな、いい大人なんだし。

聖菜がスマホで調べると、両方とも空いていたので予約してくれた。

「月曜日、有紗ちゃんに会うの楽しみだな」

なぜか有紗よりも楽しそうな聖菜だった。

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