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憎しみの果てに  作者:
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復讐計画

出勤すると同時に、啓介が話しかけてきた。

「なあ、仕事終わってから時間あるか?相談したいことがあるんだ」

「鈴木くんが相談なんて珍しい。んー…予定あったけどキャンセルするよ」

申し訳ないと思ったのか、啓介は「すまん」と謝ってきた。

「ううん。気にしないで。何度も言ってるけど力になれることなら協力するし」

聖菜は過去に啓介から受けた恩をいまだに感謝している。

少しでも恩を返したかったから、相談に乗るのは大歓迎だ。

仕事が終わり、2人で出ていこうとすると栞が話しかけてくる。

「あれ、2人でどこか行くんですか?」

「ああ、ちょっとね」

「飲みとかなら私も行きたいです」

多分、啓介は断るだろう。

「ごめん、飲みじゃなくて同期としての相談なんだ。飲みのときは誘うからさ」

そういって、案の定断った。

栞は少し残念そうだったが、「わかりました」と渋々承諾して一人で帰っていった。

さて、相談ということは人に聞かれたくない感じだよね。

だったら、あのお店がいいかな。

聖菜は、たまに使うオシャレな居酒屋に啓介を連れていった。

「ここね、完全個室があるの。そういうほうが話しやすいと思って」

「相原は本当に気が利くな。やっぱり相原を頼って正解だったよ」

「そう?ありがとう。それで相談って?」

すると、啓介は真顔になって口を開いた。

「俺、離婚することになったんだ」

「えっ…」

突然の告白に聖菜も驚くしかなかった。

「どうしてそうなったの?聞いてる話だといい奥さんだと思ったのに…」

「俺も最初はそう思ってたよ。けど、どんどん素っ気なくなっていって、帰りも遅かったり休みの日も出かけたり、そしたら別に男を作ってたんだよ。それでいて、女同士は夫婦じゃないから不倫じゃないとか言いやがって」

ここまで言って啓介は思わずテーブルをドンっと叩いていた。

その行動で啓介の怒りは聖菜にも伝わった。

「それはひどいよ…鈴木くんかわいそう。好きで女になったわけじゃないのに…」

「ありがとう、相原。でももういいんだ。問題はそこじゃない、あいつの付き合ってる相手、IT企業の社長なんだよ。まるで玉の輿だよな。でも、あいつだけ幸せになんてさせない。俺は真子の幸せをぶち壊してやるんだ」

聖菜はなんて答えていいかわからなかった。

啓介の気持ちもわかるが、それが正しいとはどうしても思えないのだ。

「わたし、鈴木くんは同僚だし味方したいけど…そういうのは…」

「いや、別に相原を巻き込もうと思っているんじゃない。けど手を貸してほしいんだ」

「手を貸すってやっぱり協力するってことでしょ?」

もう後戻りはできない。

啓介は意を決して言った。

「俺、完全な女になる。戸籍も変えるし名前も変える」

予想していなかった言葉に聖菜はキョトンとなったが、それでも啓介は続けた。

「見た目とか仕草っていうのか?あと言葉遣いとかも含めて…それをアドバイスしてほしいんだ。相原は前に宣言した通り自分磨きを頑張ってるから美意識高し、いろいろアドバイスとかしてほしいんだ。頼むよ!」

啓介の目は本気だった。

そりゃ、多少は美意識高いかもしれないけど…そんなにアドバイスできることあるかな?

「わたしがやってるのは、ごく普通なことにプラスαしてるだけだから、きっと鈴木くんだって知ってるようなことだよ」

「いや、俺そういうのまったく興味ないからわかんないよ」

そう言われて啓介の顔の肌を見てみると、カサカサに乾燥していた。

確かにスッピンだけど…保湿とかまったくしてないのかな?

「例えばお風呂から出たら化粧水とか付けてる?」

「いや、なにも」

「髪は乾かしてる?」

「そのまま」

聖菜は思わずため息をついた。

そこからか…これくらいなら男性でもやってる人が多いのに。

「あのね、お風呂上りや朝顔洗ったあとは必ず化粧水を付けないとダメだよ!それに乳液とかクリームも。あと髪も乾かさないとダメ!」

「そんなこと言われても知らないんだよ。真子がなんかやってても興味なかったし。だから一から教えてほしいんだ」

これは本当に教えてあげないとダメかな。

最低限のこととして…

「いいよ、わたしでよければ。でもね、一つ聞きたいの。完全な女性になって、それからどうするの?」

聖菜にはそれがどういう復讐につながるのかまったくわからなかった。

「その先は…」

啓介は秘めている計画を全部聖菜に説明してくれた。

とても賛同できるものではなかったが、

啓介が見た目も含めて完全な女性になるのは協力したいと思った。

啓介を憐れんでいるわけではないが、この病気で苦しんでいる、いわば被害者だ。

同期だし、同じ部署でも働いているし、何よりも大きな恩があるので、

できることはしてあげたい。

それに、身体が女性なのに男性として生きていくよりは女性として生き、

新しい人生を歩んだほうがいい。

そこで女性としての楽しさを知ることができれば、きっと復讐も考えなくなるはず。

「復讐については、絶対に賛同できない。けど、女になるっていう部分だけは力になるよ」

その言葉を聞いた啓介の顔が明るくなった。

「本当か?ありがとう!」

「ただ、こういうのって毎日の積み重ねだから「今日はいいや」みたいなのはダメだよ。あとメイクもするように」

「わかってる。俺は目標に向けてならいくらでも努力するから」

確かにあの怒りの執念は並大抵のものじゃない。

きっとやれるだろう。

そして、とりあえずは本人が望む女性になるだろう。

聖菜はそんな予感がしていた。

「まず何からやればいいんだ?」

真っ先にやらないといけないこと…うーん、あ!

「言葉遣い!俺なんて言っちゃダメだよ。まずはそこからだね。もっと女の子みたいに話さないと」

「うっ…わ、わかった…よ」

「あとはさっき話したスキンケアやメイクでしょ、それに食生活もだね。あとは運動とか。鈴木くんもう少し痩せたほうが魅力的になると思う。それに痩せれば胸も少し小さくなるし」

「そうなのか?」

「言葉遣い!」

「あっ…そ、そうなの?」

「そうだよ、痩せるのは最初胸からなんだから。まずはそういう当たり前のことをやるようにしよう」

すると啓介は素直に「うん」と返事をしたあと、すぐに「でも」と言い出した。

「化粧品って何を買えばいいの?」

そっか…全部教えないとダメだよね…でも教えてわかるかな?あーもういいや!

「鈴木くん、明後日の土曜空いてる?そしたら一緒に買いに行くよ」

「ホント?助かるよ。サンキュー!」

「そのかわり夕方からね。昼間はちょっとダメだから」

「一日暇してるから夕方からで構わないよ。それでメイクして、出勤する月曜に会社に言う。戸籍や名前変えることを」

そのほうが説得力もあるし賛成だ。

ただそこで気づいたことがあった。

「名前!もう考えてるの?」

「ううん、サッパリ…なんかいいのあるかな?」

そんなノリで決めていいもんなのかな?

そう思いながらも、名前を考えるのは楽しそうだと思ったので

聖菜は啓介に合いそうな名前を考えてみることにした。

いろんな名前を言いながら2人で相談する。

しかしなかなかピンとくるものが出てこなかった。

「雰囲気的にかわいい系よりキレイ系だしなぁ…由依、違うな…愛…も違う、愛菜…杏奈…有紗…有紗…有紗ってよくない?」

聖菜は今の啓介にピッタリだと思った。

有紗という名前を啓介も呟くように連呼している。

「鈴木有紗…悪くないかも」

「よかった、じゃあ有紗にしよう」

勢いではあったが名前は決まった。

あとは少しずつ変わっていけばいい。

方向性も決まり、今日はこれで帰ることになった。

そして別れ際、聖菜はあえて言うことにした。

「有紗ちゃん、また明日ね」

「う、うん…」

少し恥ずかしそうに返事をしているのがかわいい。

思わずクスっと笑ってしまった。

「あっ、会社に言うまでは鈴木くんって呼ぶから安心して。じゃあね」

聖菜は手を振り、啓介…いや、有紗と別れた。

これからの有紗ちゃんがどんなふうに変わるのか楽しみだな。

そして、バカな復讐のことを忘れてくれれば…

そればかり考えていた。

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