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憎しみの果てに  作者:
31/34

打ち明けられた真実

真子になんて言って離婚を切り出そうか。

生まれてくる子供の養育費は全額負担しないと。

仕事中、そんなことばかり考えていたら、携帯電話が鳴りだした。

ディスプレイには鈴木有紗と出ている。

有紗は今日休みだ。

部屋の片づけが終わったのかな?

少し嬉しい気持で通話を押す。

「もしもし」

「真子が、真子が大変なの!どうしたらいいかわかんなくて…」

いきなり言われて状況がつかめない。

そもそも、なんで有紗と真子が一緒にいるんだ?

「有紗、とにかく落ち着いて!何があったんだ?」

「真子がお腹を押さえて苦しみだして…わたしのせいで…」

電話越しでも有紗が泣いているのがわかる。

それよりも気になるのはお腹という言葉だ。

真子のお腹には小さな命が宿っている。

俺と真子の子供だ。

万が一のことがあったら…

「救急車を呼んで!搬送された病院決まったらすぐ連絡するんだ。俺も今から行く」

真子…しっかりしろよ!


有紗は病院の待合室でうなだれていた。

全部わたしのせいだ。

なんでこんなことをしてしまったんだろう。

あれほど相原が止めてくれたのに…

あれほど英明が愛してくれたのに…

復讐なんてやめることいくらでもできたのに。

歩く音に反応して顔を上げる。

すると、三ツ屋がまっすぐ向かってきて、有紗の前で立ち止った。

「真子は…」

「大丈夫。今は眠っているけど、もう心配ないって先生が」

「よかった…本当によかった」

無意識に涙がこみあげてくる。

そんな有紗に三ツ屋が聞いてきた。

「有紗、君は一体何者なんだ。なんで真子と呼ぶんだ?なんで真子と一緒にいたんだ?」

もう隠し事はできない。

こんなことをしてしまった今、どんな罰でも受けるつもりだ。

例え許されないとしても。

有紗は俯いたまま、話しはじめた。

「わたしは…真子の元夫」

「夫って…有紗は女じゃないか」

ここまで言って、三ツ屋が気づく。

「身体女性化病…」

有紗は無言で頷いてから続けた。

「わたしは真子を愛していた。女になっても真子がそばにいてくれれば大丈夫、そう思っていたの。けど真子はわたしを捨てた。知らないところで三ツ屋亮という恋人を作って。許せなかった。真子の幸せをぶち壊して復讐してやる。そう誓ったの」


有紗と真子が夫婦だった…

思いもよらない事実に何も言葉が出てこない。

三ツ屋は、真子と出会った頃のことを思い出していた。

真子との出会いは婚活パーティーだった。

普通に話していて楽しかったから、連絡先を交換し、

何度か食事をしてから付き合うようになった。

真子の口からは、一言も結婚している・していた、という話は聞いたことがない。

何年も恋人がいないとも言っていた。

けど、実際は結婚していた。

俺は…真子に嘘をつかれていたんだ。

しかし、気になることがある。

「真子にバツはついていなかった」

思わず口にした言葉に、有紗が反応する。

「身体女性化病になった場合、離婚してもお互いバツは付かないの。やむおえない理由ということで」

そうか、それなら結婚していたと言う必要もないのかもしれない。

しかし、すぐに思い直す。

いや、やっぱり嘘には変わりない。

その真子は有紗のことを捨てた。

どのように捨てたのかは、わからない。

ただ、あれは今でも鮮明に覚えている。

「亮とずっと一緒にいたいの。ここに住んだらダメかな?」

あまりにも唐突だったのでビックリした。

しかも荷物は旅行用のバッグ1つだけ。

付き合っていた俺は、不審に思いながらも「いいよ」と答えてしまった。

普通に考えれば、飛び出してきたと容易に想像がつくはずなのに。

そのときの俺は、真子との結婚も視野にしれていたから、

詮索して別れ話とかになるのが怖かったんだと思う。

だから、そんな真子を受け入れた。

おそらく、俺と付き合っていることが有紗にバレて、ケンカして出てきたんだろう。

いろいろな考えが頭を駆け巡る。

その結果、今は真子のことより有紗のほうだと思った。

「有紗が俺に近づいたのは、復讐のため?」

頷いてから話し始めた。

「そう、真子から亮を奪って、どん底に突き落とそうと」

「俺のこと愛してるといったのは?」

「全部…嘘。真子に復讐するためだったら、どんな悪人にでもなるつもりだったから」

この嘘に、俺はまんまと引っ掛かったのか。

自分自身への情けなさと、有紗に対しての怒りがこみ上げてくる。

「亮は見事に、わたしに惚れてくれた。だからすべてを話すために真子のところに行ったの。絶望する真子の顔を見るために。それでわたしの復讐は完了する…」

そういっているのに、有紗は少しも嬉しそうじゃない。

むしろ哀しそうな顔をしている。

「絶望する真子を見て、どうだった?嬉しかった?」

有紗は横に首を振っていた。

「満足感も達成感も…思ったことは、なんでこんなバカなことしたんだろうって…復讐なんて意味ないのわかっていたはずなのに…」

再び有紗が泣き出した。

自分でもわかっていたのか、復讐というのがどれほどバカげた行為なのか。

「自分の復讐のために真子を傷つけて、亮を傷つけて、止めてくれた親友を失って、最愛の人を失って…わたしは最低な人間なの…本当にごめんなさい…ううぅっ」

有紗は両手で顔を覆って再び泣き出していた。

後悔するとわかっていたのに、復讐を選んだ有紗は、

おそらく本当に真子のことが許せなかったんだろう。

少なくともそのときは。

けど、そんな選択をした有紗は絶対に間違っていた。

しかし、三ツ屋は思った。

その原因を作ったのは真子だ。

そして、それに気づけなかった俺のせいだ、と。

あのとき、真子が荷物を持ってきたときに、ちゃんと話を聞いていれば

こんなことにはならなかったはずだ。

そう思うと、有紗を責める気はなくなっていた。

「もういいよ。有紗だけが悪いんじゃない」

その言葉を聞いた有紗が涙目のまま亮を見上げた。

「そんなことない!わたしが全部悪いの!わたしがこんなことしなければ…」

「もういいって。有紗も苦しんだんだ、真子と同じように」

もう三ツ屋は、有紗に対しての恋愛感情はなくなっていた。

それでも有紗のことを抱きしめた。

「亮…」

「もうこんなバカなことは終わりにして、これからは自分の人生を生きるんだ」

「わたしにそんな資格はない…」

「有紗、人間は誰だって幸せになる権利があるんだよ。さっき言ってただろ、最愛の人がいたって。その人とやり直せばいいんだ」

「今さらそんなことできない…だったら、だったらせめて…」


亮はこんな最低なわたしを許してくれた。

こんな優しい人を、わたしは傷つけてしまった。

真子だってそうだ。

確かにわたしは真子を恨んでいた。

けど、一度は愛して結婚までした。

そんな真子のことも傷つけ、お腹の赤ちゃんを危険な目に合わせてしまった。

そんなわたしが幸せになる権利なんてない。

それでも、今なら一つだけ幸せに思えることがある。

亮ならきっと聞いてくれるはずだ。

「真子と幸せな家庭に戻って…それがわたしの望みなの」

「有紗が望んでも、望まなくてもそのつもりだよ」

「ありがとう」

その言葉が聞けたら、もうここにいる必要はない。

有紗は三ツ屋からそっと離れた。

「亮は優しくて本当に素敵な男性だったよ。真子が目を覚ましたら、ごめんなさいって伝えてもらえる?」

「自分の口で言ったほうがいいんじゃないか?きっと真子も許してくれるよ」

横に首を振り、背を向けると、有紗は後ろを振り向かずに歩いた。

ただ歩き続けた。

そうすることしかできなかった。

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