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憎しみの果てに  作者:
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今との決別

1か月間、有紗は長谷川と連絡を一切取らなかった。

向こうから電話をしてきても無視し、LINEも未読でスルーした。

理由は、もう会うつもりはないから。

復讐計画はスタートしていた。

しかし、1人にだけはちゃんと伝えなければいけない。

有紗は仕事帰りに、その人物を食事に誘った。


「有紗ちゃん、最近元気ないよね?長谷川さんと何かあった?」

そっか、元気がないことを相原にも気づかれていたか。

わたしは、これから相原のことも悲しませることになる。

ここまで女になれたのは、間違いなく聖菜のおかげだ。

胸が痛む。

わたしは英明だけじゃなく、相原も失うことになる。

「会社、辞めるの」

「え、なんで?」

何も答えない有紗をみて、聖菜は察した。

「本気…なの?」

有紗が無言で頷く。

「もう後戻りできない」

「なんで!今さらそんなことしたって意味ないよ!だって有紗ちゃん幸せでしょ、それを捨ててまで復讐なんてする必要ないじゃない!」

聖菜のいうことはもっともだ。

そんなことわかってる。

「わかってるけど…わたしはこのために女になったの」

「違う!そんなの間違ってる!わたしは、有紗ちゃんが幸せになれるように協力したんだよ、友達になったんだよ、親友になったんだよ!」

聖菜の言葉が胸に刺さる。

特に親友という言葉が。

そっか、そんな風にわたしのこと想ってくれていたんだ。

でも…

「お願いだから考え直して…有紗…」

聖菜は泣きながら、初めて「有紗」と呼び捨てで呼んだ。

わたしは、こんなに親身になってくれる大事な人を失うのか。

本物のバカだね。

「ごめん…聖菜」

有紗も初めて相原じゃなく「聖菜」と呼んだ。

そして言葉を続ける。

「もう後戻りできないの。今までありがとう。聖菜が親友って言ってくれて、本当に嬉しかったよ…さよなら」

そういって、有紗は席を離れた。


わたしは止めることができなかった…

有紗のバカな復讐を。

立ち上がることができず、聖菜はそのまま泣き続けた。


これでいい、これでいいんだ。

涙を拭いながら有紗は家に帰った。

これで今をすべて切り離した。

そう無理矢理自分に言い聞かせた。


嫌な予感は的中した。

あれから有紗と一切連絡が取れない。

電話をしても、家に行っても。

なんであのとき、普通に帰してしまったんだ。

抱きしめてあげなかったんだ。

後悔と、有紗への想いで気が狂いそうになっていた。

もう1か月…

一目だけでも会いたい。

有紗の笑顔が見たい、声が聞きたい、温もりを感じたい。

気がつくと車を走らせていた。

有紗の家に着く。

やはり電気はついておらず、人がいる気配もない。

一体どこに行ってしまったんだ。

車のドアにもたれるように寄りかかり、天を仰ぐ。

すると、顔に冷たいものが当たった。

雨か…

小ぶりだった雨は本降りに変わる。

それでも英明は動こうとせず、気がついたらずぶ濡れになっていた。

俺は何をしているんだ…

それでもここから動けない。

動くことができない。

なんとなく道を見ていたら、同じようにずぶ濡れになりながら

歩いている人物が視界に入った。

あれは…間違いない!

「有紗!」

英明が叫ぶと、歩いていた人物が足を止めた。

「なんで…いるの?」

答えるより先に足が動く。

走りかけた瞬間、今度は有紗が叫んだ。

「来ないで!」

その言葉に、思わず足を止めてしまう。

「もう終わったの!だから帰って!」

終わった…?なにが…

「何が終わったんだよ!理由も言わず勝手に」

「話す必要なんてない。わたしはもう英明と付き合えないの!」

「そんなんで…納得できるか!」

今度こそ走り出し、無我夢中で有紗を抱きしめた。

「俺は有紗がいなきゃダメなんだ、有紗じゃなきゃダメなんだよ!」

英明は本音で訴えた。

有紗の心に届くように。

ところが。

「放…して」

有紗がそう言いながら、力づくで離れようとしている。

「嫌だ!絶対に離さない!」

力は英明のほうが上だ。

それなのに、本気で離れようとする有紗の力に押されて、腕を離してしまった。

「さよなら…英明」

そういうと、有紗は駆け出して家に入っていった。

俺は…また離してしまった。

抱きしめた感触だけが腕に残り、それを呆然と見つめていた。

そして、その感触がなくなってきたとき、

本当に終わったことを悟った。


有紗は家に入るなり、崩れるように座り込んで泣いた。

「なんで…なんで来るの…英明」

嗚咽が混じりながらそれだけを連呼する。

大好き…大好きなのに…

有紗はこの日、聖菜という親友と、英明という恋人、大事な2人を同時に失った。

すべては復讐のために。

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