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憎しみの果てに  作者:
20/34

恋する気持ち

最近妙に有紗と聖菜の仲がいい。

いや、それだと語弊があるかもしれない。

やたら2人でコソコソしている気がしている。

今も2人でトイレに行っているので、きっと何か話をしているんだろう。

人には秘密があるものだが、そこに自分も加わりたい、のけ者にされたくない、

栞はずっとそう思っていた。

それに気のせいか、有紗が前よりもキレイになったというか、

より女性らしくなったようにも感じる。

あー気になる!

聞いてみようかな…

こういうのは、LINEや電話で聞くよりも直接聞いたほうがいい。

もしはぐらかしても隠し事はボロを出す場合があるから。

午後になり、有紗がトイレに行ってから1分ほどずらして

栞も席を立ってトイレに向かった。

一つ個室が閉まっている。

ここに有紗が入っているということになる。

栞は鏡の前でメイクを直しているふりをしながら有紗が出てくるのを待った。

少しすると扉が開き、予想通り有紗が出てきた。

「あれ、いたんだ」

「ちょっとリップ塗りなおそうと思って」

有紗が横に並んで、手を洗っている。

さりげなく聞いてみよう。

「そういえば有紗さん、最近前よりもキレイになりましたね」

「ホントに?ありがとう」

この受け答え、余裕がある感じだ。

きっといいことがあったに違いない。

女のいいことといえば、大抵は恋に決まっている。

「好きな人でもできました?」

「へ?あ…いや、そんな人いないよ」

わかりやすい。

有紗さんってこういうの隠すのがヘタなんだよね。

そっか、恋バナをするために聖菜さんとコソコソしてたんだ。

こうなると相手がどんな人か知りたくなる。

「どんな人なんですか?」

「だからいないって!」

「もう…そういう見え見えの嘘はやめましょうよ。年上ですか?」

「だから…」

「別に言いふらさないからだ丈夫ですって。それに聖菜さんには教えてるじゃないですか。だったらわたしにも教えてくださいよ」

「なんで相原は知ってるって…まさか相原から聞いたの??」

単純…カマかけたら引っかかった。

もうここまでくれば聞き出せる。

でも念のために最善の策を取ろう。

ニヤリとしてから有紗に向き合う。

「有紗さんが好きな人のことを教えてくれたら、わたしも教えます」

「そんな…ずるいよ!だって好きな人なんて…」

有紗はなんて答えていいか迷っている様子だ。

もうワンプッシュ。

「そうですか、じゃあいいです。恵さんとか美穂さんに、有紗さんに好きな人できたみたいだけど知ってます?って聞くから」

「やめて…それだけはやめて!」

「有紗さんが話してくれればやめます。どうしますか?」

言っていて脅迫になってるかも、と思ったがもうやめられない。

有紗が観念したかのように、ボソッと言う。

「好きな人…できた」


言ってしまった。

栞は楽しそうに笑みを浮かべてきいてくる。

「キャー!どんな人なんですか??」

そりゃ聞いてくるよね。

なんて説明したらいいんだ…キャバクラでバイトしてることは内緒だから言えないし。

考えているうちに、完全に栞のペースになっていることに気づいた。

そうだ、これは交換条件だったはず。

「その前に、誰から聞いたの?相原?」

その問いに栞はあっけらかんと答える。

「誰からも聞いてないですよ」

「じゃあなんで…」

どういうことなんだ?

ひょっとして目撃されてたとか?

有紗は手に変な汗をかきはじめていた。

「勘です。だって有紗さんと聖菜さんがコソコソしてるから、きっと何かあるんだろうなって思って。それにさっき言いましたよね、最近有紗さんキレイになったって。そうなるともう恋しかないじゃないですか」

ああ…やってしまった。それにまんまと引っかかったのか。

自分自身に嫌気がさして、思わず額に手を当てていた。

「やられた…」

「勝手に有紗さんが勘違いしただけですよ。そもそも隠し事をするからです」

「だって言いふらすことじゃないし…」

「でも聖菜さんには言ってるじゃないですか。有紗さんと聖菜さんが同期で友達みたいに仲がいいのは知ってます。じゃあわたしには教えてくれないんですか?単なる後輩ですか?有紗さんたちのことを尊敬しているし年上の友達みたいに思ってたのに聖菜さんにしか話してないのは結構ショックだったんですよ」

「田島…」

そんなふうに思ってくれていたのか。

確かに聖菜ほど仲良くはないが、それでもその次は?と聞かれれば栞を思い浮かべる。

ある意味年が近くて3人組みたいなイメージがついているのも事実だ。

現にこないだは3人で話していてうるさいと怒られたばかりだし。

でもなぁ…やっぱり全部は言えない。言うと相原にも迷惑がかかる。

「ゴメンね、もう少し具体的になったら田島にも話そうと思ってたんだよ。だからもうちょっとだけ見守っていてよ」

栞はちょっとだけ考えてから「わかりました」と言って言葉を続ける。

「その人の写真見せてくれたらいいですよ」

「写真?写真なんて…ないよ」

ダメだ…絶対に持っているのをバレた。

なんで即答で嘘がつけないんだろう。

「早く見せてください」

嘘だとも言わないで栞は思いっきりニヤニヤと期待した顔をしている。

これ、見せてもいいんだろうか…

先日温泉に行ったとき、自撮りで撮ったツーショットが1枚だけある。

ただ、顔の距離がとても近く、普通に見ればカップルにしか見えないだろう。

でも他にはないし…

観念してスマホを取り出して画像を開く。

ため息をついてから画面を見せた。

栞はその画面をのぞき込むように見ている。

「わー、いいなぁ。普通に相手の人かっこいいし」

カッコいいと言われるのは嬉しい。

嬉しさついでに余計なことまで言ってしまう。

「性格もね、すごく紳士でスマートなんだよ。行動の一つひとつがカッコいいのに嫌味とかカッコつけてるっていうのがないの。もう彼に付いていけば間違いない、みたいな」

「へー…有紗さん、この人のこと大好きなんですね」

「あ、いや…」

ヤバい、顔が火照ってきた。

チラッと栞の顔を見る。

これでもかというくらいニヤニヤと笑みを浮かべていた。

あー…最悪。


思った以上に有紗ちゃんって単純。

カマかけられてまさか栞ちゃんに話すとは思わなかった。

ヨガ帰り、聖菜の家に泊まっている有紗は、しょんぼりして肩を落としてる。

「だってあの言い方だと相原が話したのかなとか…」

聖菜はため息をつく。

「あのね、わたしがペラペラ話すと思う?ましてや内緒にしてるバイト先で知り合った人なのに」

「いや、だからおかしいとは思ったんだけど…」

もういい、今さら何を言っても変わることはない。

「それよりも本当に黙っていてくれるかな?栞ちゃん」

栞はちょっと口が軽い節がある。

極論で言えば、別に有紗に彼氏ができたことがバレるのは構わない。

問題はキャバクラでバイトしていることがバレること。

最近では副業OKの会社も増えてきているが、それがキャバクラというのはさすがに言えない。

他に広まると、どこで知り合ったの?

必ずこうなる。

そのための策を考えておかなければならない。

今日、有紗が泊まるのはそれが一番の理由だった。

普通なら知り合った口実などいくらでもあるが、有紗は特殊だ。

元男というのもあるし、離婚したことも、

現在は交友関係が職場の人たちしかないこともみんな知っている。

だから友達の紹介とかもないし、ナンパとかも現実的ではない。

「ヨガで出会った…違和感あるよね」

「うん」

「よく行くバーで知り合った…無理だ、ほぼ飲みに行かないもんね」

「うん」

さっきから有紗は自分で案を出してこない。

それに対して聖菜はイライラしていた。

「ちょっと、有紗ちゃんのせいなんだよ。相槌うってるだけじゃなくて考えてよ」

「ご、ごめん…」

なんかキャラ変わったな。恋したらただの女の子になっちゃったよ。

まぁ、おかげでバカな復讐のことなんか頭からなくなったみたいだから、

それはそれでいいけど。

そんなことより理由、理由…

チラッと有紗を見ると、指を組んで一応考えてはいる様子だった。

最近変えたばかりのネイルが指を可愛く見せている。

ん………あ!

「そうだ!川合さんに紹介されたって言えばいいんだ!」

川合は、聖菜も有紗も行っているネイルサロンのネイリスト。

2人しか知らない知人だし、違和感もない。

「川合さんかぁ…」

有紗はネイルを眺めながら首を傾げている。

もう、何なの!

「何が不満なの?ほかにいい案あるの?」

怒鳴り気味に言うと、有紗が慌てて首を横に振る。

「違う違う!こないだこのネイル可愛いねって英明が言ってくれたから」

そっちか…なんかバカらしくなってきた。

また大きくため息をつく。

「ホント頭の中はその人でいっぱいだよね」

「そんなこと…ないよ…」

そんなことあるから。

「はいはい。で、川合さんがいい人がいるけど会ってみないって紹介されて、会うだけならいいかなって思って会ってみたんだけど、すごく紳士でいい人だった。この人ならまた会ってもいいなって思えて、それから何度か会って…みたいなね。で、共通の知り合いでもあるわたしには話した。こういうことにするよ」

「うん」

なんか心配…

「一回練習しよう。今の人とどうやって知り合ったの?」

「えーと、川合さんが紹介してくれて…会ったらいい感じで…そんな感じ」

「そんな感じ、じゃない!そもそも川合さんの説明しなきゃ誰?ってなるでしょ。しかも省きすぎ。もうちょっとさ、リアル感を出そうよ。女子って恋バナするときはこれでもかってくらい詳しく説明したがるんだよ」

頭痛くなってきた、これは先が思いやられる。

これだけやってもし相手が遊びだったら、本当にバカみたいだ。

それは今度の日曜にわかるけど。

聖菜は次の日曜に3人で会うことになっている。

まだ半信半疑だが、今は考えてもしかたない。

できることは、この危機的状況を打開することだけ。

このあと猛特訓したことは言うまでもない。

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