身体女性化病
身体女性化病は、100万人に一人の確率で発生すると言われている病気で、
毎年日本でも100人ほどがこの病気で女性になっている。
これの逆は発症例がなく、つまり女性が男性になることはない。
発症する年齢は20歳~30歳くらいが多いが、
いまだに理由や原因などは明確になっていない。
ちょうど結婚適齢期にも被るということもあり、
この病気にかかっても、法律では夫婦とみなされるようになっている。
また、本人が希望すれば性別も名前も変更することができる。
それと、この病気を理由に会社は解雇できないようにもなっている。
つまり、啓介は女性になっても真子とは夫婦でいられるし、会社を解雇されることもない。
ただ、そうはいっても結局は女同士ということもあり、離婚するケースも半分以上なのが現実で、なおかつ、この病気がキッカケで離婚した場合はバツが付かないという特別措置が取られている。
それと、会社が気まずくて本人が自ら退職し、
戸籍や名前を変更して女性として一からやり直す人も少なくない。
だが、とりあえず啓介は女性になっても今の生活を続けようと決心していた。
俺には真子がいるから!
その気持ちだけが唯一の心の支えになっていた。
翌日会社に連絡し、とりあえず落ち着くまでは休みとなった。
そして3日後、怠さが引いてきたと同時に全身が激痛に襲われ始めた。
「あ…あああ…」
痛がる啓介を真子が心配そうにしている。
「大丈夫!?」
「があぁぁ…痛い…だがそれ以上に眠くて…真子…」
「眠っていいよ!寝れば楽になるんだから」
「でも寝たらもう…男じゃなくな…」
そこまで言いかけて啓介は眠りについてしまった。
唸り声をあげながらも、顔は穏やかだった。
真子は男の啓介を見納めになるので、しっかりと目に焼き付けるように眺めていた。
さよなら…男の啓介
すると、真子は冷静な表情に変わり、すぐさま部屋を出ていった。
頭がボーっとする。
それに身体も怠い…
一度目を開けてから再び閉じて寝ようとして寝返りを打った。
ムニュッ…
ん?なんだこの感触…
「あっ!」
啓介は声を上げ、身体を起こすと同時に胸が揺れて何が起こったかを思い出した。
「そうだ、俺女に…ってなんだこの声…」
自分の知っている声じゃないのに驚いた。
急いで鏡を見ようとベッドから出ると、胸にずっしりとした重みを感じた。
恐る恐る胸元をパジャマの隙間から覗き込んでみると、
そこには大きな膨らみが2つあった。
「これ真子より大きいんじゃ…ってそんなことより鏡!」
気を取り直して鏡で自分の顔を見る。
そこに映っているのは、間違いなく女になった自分自身だった。
かわいいというより大人っぽい感じだ。
髪も少し伸びていて多少ばらつきがあるが、そこそこ自然なショートになっている。
胸も大きいしどうやらグラマラスな雰囲気の女になったらしい。
「俺が最初から女だったらこういう感じだったのか…」
なぜか啓介は不思議と取り乱さなかった。
顔を見たことで冷静になり、現実を受け入れたのかもしれない。
「ところで何日経ったんだ?今何時だ?真子は?」
キョロキョロしながら時計を見ると夕方の6時だった。
続いてスマホを見ると眠ってから8日が経過していた。
「一週間以上も寝ていたのか…」
とりあえずリビングに向かって歩き出したら、少しパジャマが大きいことに気づいた。
多少背が縮んだらしい。
そのままリビングに行くと、やはり真子はいなかった。
「そうだよな、仕事行くよな」
でも、もう少しで帰宅する時間だ。
とりあえずこのまま待つことにしよう。
そう思い、ソファーに座ってテレビを付けるためにリモコンを掴んだ。
すると、以前より指が細くて長いことに気づき、まじまじと自分の手を眺めていた。
「女の手だな…それに肌もきれいな気がする」
まあいいや、考えても仕方ない。
今度こそテレビを付けたら、それと同時に鍵が開く音がした。
どうやら真子が帰ってきたらしい。
リビングに来た真子が啓介を見て一瞬驚いた。
「目…覚めたんだ」
「うん、おかえり…俺、こんな感じになった…」
「うん…変化してる過程、見てたから…」
「そっか…」
「そんな感じの声なんだね…」
「そうみたい…」
どことなくたどたどしい会話が続く。
「あっ、ご飯作るね」
そういって真子は部屋に行って着替えてから料理を始めた。
そういえばお腹減ったかも…8日も食べてなかったんだもんな。
少しすると部屋にいい匂いが漂ってきた。
どうやら今日はパスタらしい。
「啓介がいつ起きるかわかんなかったから簡単なものになっちゃった」
「いいよ、作ってくれただけありがたい」
テーブルに座り、パスタを食べながら真子が今後のことについて話をしてきた。
「仕事、いつから行けそう?」
「明日会社に電話して相談するよ。気まずいけど」
「それは気にしなくていいんじゃない?病気なんだし」
「そうだな…」
でもまわりの反応は少し怖い。
今まで通り接してくれればいいけど…
「あと服とか下着だよね。わたしのじゃサイズ合わないだろうし」
「ああ、そういえば…」
別に女物の服で出勤しなくてもいいが、多少小さくなったので
今まで着ていたものはサイズが合わないだろう。
それに下着もそうだ。
胸のサイズはわからないが、これだけ大きいとノーブラというわけにはいかないのは
理解していた。
真子は150ちょいの身長で胸も標準のCカップだ。
背もバストも啓介のほうが大きいので、真子のを借りることもできない。
「明日帰りに買ってくるよ。あとでサイズ測らせて」
「うん…悪いな」
「いいよ気にしないで。そのかわりそれなりに金額かかるから貯金おろすよ」
「任せる…」
せっかくマイホームのために貯めているお金がこういった形で使うことになるのは
悔しいが、仕方ない。
むしろ貯金を使ってしまうことが、真子に申し訳なかった。
食べ終わったあと、真子がサイズを測るから裸になるように言ってきた。
そういえば自分の裸見るの初めてだな…
恥ずかしい気分と女の身体を妻に見せる悔しさが入り混じりながらも
啓介はパジャマを脱いで全裸になった。
全体的に肌が白くなっていて、ムダ毛もほとんどなかった。
そして胸は予想以上に大きく、乳輪や乳首も男の頃とは違う大きさになっていた。
ウエストもそこそこくびれている。
「なんかわたしよりスタイルいいね」
真子がいたずらっぽくいいながらメジャーなどでサイズを測ってくれた。
その結果、今の啓介のサイズはスリーサイズが96、68、88で
胸はGカップもあるということだった。
身長は164cmで男の頃より7cmほど縮んでいる。
「んー…胸が大きいから服はLかLLかな」
真子はそんなことをブツブツ言いながら考え込んでいた。
レディースのものなんてかわからないから真子に任せることにする。
「なんでもいいけど女らしいのは勘弁してくれよ」
「わかってるって。本当は実際に試着とかしたほうがいいけど嫌だろうから」
さすが妻、その辺は言わなくてもわかってくれるのでありがたい。
「せっかくだからそのままお風呂入ってきたら?ずっと入ってなかったんだし」
それもそうだ、8日間寝ていたんだからサッパリしたい気持ちもある。
「そうさせてもらう…」
とはいえ、女の身体でお風呂はどんな感じなんだろうか…
実際に浴室に入り、シャワーを出す。
シャワーのお湯がとても心地よく感じた。
「ふー…気持ちいいな」
思わず声に出してしますほどだった。
それにしても…ホントに胸がでかいな。
こんな巨乳、生で見たことないぞ…
なんとなく触ってみると、想像以上に柔らかくてびっくりした。
胸ってこんな感じなんだ…下はどうなんだろう?
触ってみようと思ったが、そこまでの勇気はなかった。
気を取り直して頭や身体を洗い、さっぱりしてお風呂から上がった。
再びブカブカのパジャマを着てリビングに戻る。
「湯船入らなかったんだ?」
「いつも入らないだろ」
啓介は湯船に入らず、いつもシャワーだけで済ませているので
同じように今日も入っていない。
真子は「そうだったね」と言ってから着替えを持って浴室へ向かっていった。
なんか違和感がある…
それは真子についてだった。
病気とはいえ、夫が女になったのに冷静すぎる。
というか少し素っ気ないような気もする。
変化していく過程を見ていたからだろうか?
ただサイズを測ってくれたり、明日服を買ってきてくれるなど、
以前のような優しさもある。
きっと気のせいだろう。
そう思い、あまり深く考えないようにした。