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憎しみの果てに  作者:
18/34

心配する聖菜

「おはようございます」

「おはよう。今日は早いね」

「早く目が覚めちゃったので」

聖菜はいつもより30分も早く出社していた。

昨日の有紗のことが気になって早く来てしまったのだ。

ただ、それよりも早く部長の羽田がきていたことに少し驚いた。

部長っていつも一番に来てるんだよね、真面目だなぁ。

席に座り、そわそわしながら仕事を始める。

次にきたのは新井、恵とポツポツと人が増えていく。

まだ来ない…

栞がきて、残りは一人だけ、そして9時ちょうどに慌ただしく有紗が入ってきた。

「おはようございます!ギリギリ間に合った」

その様子を見てみんなが笑っている。

有紗は苦笑いをしながらペコリと頭を下げてから席に座った。

「寝坊ですか?」

「うん、ちょっとね。危なかった」

寝坊ねぇ、ってことは遅くまで一緒にいたのかな?

聞きたいけどまわりには他の人たちがいるので今は我慢する。

そのかわり、表情などからいろんな予想をして楽しむことにした。

なんかいつもより明るい雰囲気、こういうのっていいことがあったってことだよね。

メイクのノリが少し悪いな、寝不足で肌がお疲れかな。

「ちょっと、さっきからなに?ジロジロ見て」

「なんでもないよ」

そういいながらニヤニヤしてみる。

昨日の話が聞きたいの、早く察して!

有紗がため息をついて立ち上がった。

「トイレ、行ってくる」

どうやら察してくれたらしい。

「わたしも」と行って有紗と一緒にトイレに向かった。

中には誰もいないので聞くには絶好のチャンス。

洗面所の前に立って、有紗に向かいあう。

「どうだったの?」

「何が?」

しらばっくれようとしている、もしくは勿体ぶってるかだ。

これはいいことがあったに決まってる。

こうなると意地でも言わせたい。

「別に席で聞いてもいいんだよ。昨日のデートどうだった?って」

「それはやめて!みんなに聞かれたら面倒なことになる」

聖菜は両手を腰に当てた。

「じゃあ白状しなさい」

「わかったよ…でもなんか恥ずかしくて」

そう言いながら顔が赤くなっているのが初々しくてかわいい。

ホントに中学生とか高校生みたい。ちょっとからかってみようかな。

「なに、エッチでもしちゃった?」

すると有紗が無言で小さく頷いた。

「え?マジで??」

冗談で言ったのにまさか…でもそれって大丈夫なの?

聖菜は不安になってしまった。

「だって会ったの2回目なんだよね?しかも1回目はお店だし…実質1回目みたいなものじゃない。それ身体目的だったってことだよ!なんでそんな男としちゃったの?」

「違うの!英明はそういうんじゃないの」

有紗は必死になって昨日のことを説明していた。

英明は違う、遊びとかヤリ目じゃない、心が通じ合っている、と。

この話が事実ならば、元男だというのを気にせず、

有紗は女だというのを証明するために抱いた、というのはカッコいいかもしれない。

でもなぁ…ヤレれば元男でも関係ないと思う男も絶対いるしなぁ。

一概によかったね、とはどうしても言えない。

聖菜は一目惚れとか短期間で人を好きになったことがないので、

どうしても理解ができなかった。

けどあまり否定的なことを言ってもかわいそうかな。

有紗ちゃん、本気で好きっぽいし。

「そっか。でも一応警戒はしておいたほうがいいよ。警戒しておいて損はないから」

今の聖菜はそれしか言えなかった。


どうも相原は英明のことを信じていないみたい。

英明の想いは絶対に偽りじゃない。

わたしだって男の頃は恋もしたし、なんなら結婚だってしたんだからそれくらいはわかる。

きっとわたしのことを中学生の初恋みたいにしか思ってないんだ。

そんな子供じゃないって、まったく。

トイレから戻ってもそんなことばかり考えていて、仕事があまり進んでいなかった。

「有紗さん?」

「ん?」

栞に呼ばれて顔を横に向ける。

「なんかありました?ムスッとした顔して」

「そ、そんなことないよ。いつも通りいつも通り。だよね、相原?」

聖菜と気まずくなりたくなかったので、振ってみた。

「うん。でもちょっと肌が荒れてる」

「うるさいなー。寝不足だったんだから仕方ないでしょ」

「有紗さんが寝不足って珍しい。何してたんですか?」

「何って…いろいろだよ。わたしだってたまには夜更かしくらいするよ」

それに金曜と土曜は明け方までキャバクラでバイトしてるんだし。

「えー、いろいろって気になる。教えてくださいよ」

なんでそんなに突っ込んでくるの?面倒くさいな…

「ちょっといいかな?」

「はい?」

声のほうに顔を向けると羽田が立っていた。

「あっ…」

「君たち仲がいいのはいいことだけど、今は勤務中なんだから小さな声でね」

3人して「すいません」と謝って頭を下げた。

総務は基本静かなので、長々と話していると目立ってしまう。

怒られたのでさすがに栞も聞いてこない。

聖菜も仕事に戻っている。

わたしも…ちゃんとやろう。

有紗も同じように仕事に集中しようと思ったが、やはり頭の中は長谷川のことで

いっぱいだった。


やっと定時。

しかし今日は金曜日、有紗も聖菜もここから別の仕事が待っている。

電車に揺られながらバイト先のキャバクラへ向かう。

「キャバクラやってて大丈夫なの?」

「うん。友達が紹介してくれたのに1か月とかで辞めちゃったら悪いって話をしたら「続けていいよ」って。でも土曜は出ないようにする。そうすれば土曜の夜から日曜の夜までは一緒にいられるから」

「ふーん」

本当に大丈夫なのかな…やっぱり不安。

危なそうだったらすぐに止めないと。

駅から徒歩5分でお店に着いた。

着替えて準備をしていたら、はづきがニコニコしながら有紗に近づいていく。

「ナミちゃん、あれからどうなった?」

「えへへ。実はね…」

有紗は嬉しそうにはづきへ説明していた。

「すごい!やるじゃん。なんか運命の赤い糸で繋がってるんじゃないの?」

「わたしもそれ思った!すごい惹かれあってるもん」

聖菜はメイクを直してながら、横でその会話を聞いていた。

運命の赤い糸って…ホント恋する乙女。男だったなんて信じられないくらいだよ。

でもそれに関してはよかったと思っている。

女として生きるなら本当に女にならないと楽しくないもんね。

問題は長谷川英明が信用していい男かどうかだ。

聞いている感じだと、はづきは長谷川を知っている感じがする。

というか、お店に来たときに目撃したというのが正しいかもしれない。

タイミングを見て聞いてみよう。

そのチャンスは深夜の1時くらいに訪れた。

なんとなく落ち着いてきて、聖菜が待合所に行くとはづきがスマホをいじっていた。

有紗はまだ接客中。今しかない。

「ねぇ、はづきちゃん。ナミちゃんの相手の男の人ってどんな人だった?」

聖菜もお店では有紗のことはナミと呼ぶ。

それを聞いてスマホから手を放し、はづきは左手を顎に当てて考えていた。

「んー…背が高かった気がする」

それはどうでもいい。

「そういうんじゃなくて雰囲気とか」

「遠くから見ただけだからよくわかんないけど、オシャレな感じだったよ」

それもどうでもいいんだよ…

けど、遠くから見ただけではこの程度しか言えないのもわかる。

「ゆいかちゃん心配してるの?」

「そりゃするよ!友達だし…」

元男と言いそうになったが、ギリギリのところで言いとどまった。

これはみんな知らないことだ。危なかった。

ところが、はづきは平然と言ってくる。

「元男だもんね、ナミちゃん」

え?

「はづきちゃん知ってたの…?」

「うん。だってわたしもだから」

衝撃的な告白。

まさかはづきちゃんも身体女性化病だったなんて。

「入店したての頃のナミちゃん見てたら、昔のわたしに似てたから、そうじゃないかなって思って聞いてみたの。そしたら予想通りだった。あ、誰にも言ってないからね。それにわたしが元男って知ってるのもナミちゃんとゆいかちゃんだけだから内緒だよ」

そういって人差し指を立てて唇に当てていた。

今のはづきだけを見れば、誰も気づかないだろう。

有紗も同じだ。

きっと言われても信じられないかもしれない。

それと、有紗とはづきは共通の過去があったから仲がいいというのも理解できた。

「もちろん誰にも言わないよ。でもさ、それを知ってるなら心配にならない?せっかく心まで女になってきているのに変な男に引っかかったりしたら…」

一瞬キョトンとしてから、はづきが笑い出した。

「ゆいかちゃん真面目すぎ!わたしたちそんなデリケートじゃないよ」

わたし…真面目なのかな?

そこまで真面目ぶってるつもりはないけど…

そう思いながら首を傾げた。

それにね、とはづきが言葉を続ける。

「あの人は大丈夫だと思う。見た人間にしかわからないと思うけど、なんか不思議な感じだったんだよね。傍から見たら恋人同士にしか見えなかったの。初対面なのにだよ。ナミちゃんが言うように惹かれあったんだよ、きっと」

はづきも言ってる。

「その惹かれあうっていうのわかんないよ。一目惚れとは違うの?」

「違うよ。なんか初めて会ったのに、お互いが昔から知っているような恋人同士のような感覚になって、ずっと一緒にいたい、離れたくないって思っちゃうような。ゆいかちゃんはそういうのない?」

残念ながらないので首を縦に振る。

「はづきちゃんはあるの?」

「今の彼氏がそうだよ」

おっと、そうですか。

有紗もはづきも同じ思いをしている。

これって…

「言っておくけど、わたしたちが元男だからっていうことじゃないからね」

聞くより先に言われてしまった。

そこでボーイが入ってくる。

「ゆいかさん、1番テーブル」

「あ、はい。行きます」

立ち上がるとはづきが言ってきた。

「とにかく心配しないでいいと思うよ。そんなに心配なら一度会ってみたらどう?ナミちゃんと3人で」

なるほど、それが一番早いかもしれない。

「ナミちゃんに聞いてみる」

「うん。でもなんか羨ましいな」

「なにが?」

「ナミちゃん。そこまで友達が心配してくれるなんて。大事な友達なんだね」

聖菜も実はそれが不思議だった。

ただの同僚だったはずなのに、今ではプライベートも含めて有紗が一番仲がよかった。

でも、だからこそ心配だった。

有紗ちゃんに聞いてみよう。

「うん」と笑顔で答えて待合室を後にした。

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