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憎しみの果てに  作者:
14/34

キャバ嬢に

翌日、仕事を終えてから聖菜と一緒にお店へ行った。

時間は夜の8時。

聖菜の話だと9時から明け方の4時までが出勤らしい。

聖菜と一緒に入店し、店長に有紗のことを紹介する。

「ゆいかちゃんの友達なら大歓迎だよ。でも一応簡単な面接だけするから、ちょっとだけいい?」

「あ、はい。…ところでゆいかちゃんって?」

「ああ、わたしの源氏名。ここではゆいかって名前なの」

そうだ、キャバクラは源氏名があるんだった。

ということは、有紗ではない別の名前が必要ということか。

店長と一緒に奥の部屋へ入り、店長と対面になるような形で椅子に座った。

「店長の岩田です。まずは身分証を見せてもらえるかな?」

財布から保険証を取り出し、岩田に手渡す。

目が悪いのか、少し近づけてから名前などを確認していた。

「鈴木有紗さんね。どれくらい入れる?」

「えーと…」

相原と言おうと思ったが、一応ゆいかと呼んでおこう。

「ゆいかと同じ職場なので、同じように金曜と祝日…あ、土曜も大丈夫です」

聖菜は土曜の出勤はしない。

日曜は友達と遊んだり買い物をしたりするので、土曜も出勤すると明け方まで

働くことになり、睡眠不足のまま出かけることになってしまうからだ。

しかし有紗は日曜も予定はないし、買い物なら夕方に行けばいいので

やるなら土曜も出勤しようと思った。

最近ハマっているヨガは平日に行けばいい。

「いいね、こっちも少しでも出勤が多いほうが助かるからさ。ちなみに未経験?」

「はい、まったく」

性別が完全に女性になっているから、元男なので、とか余計なことは

言わなくてもいいだろう。

「じゃあ今日は未経験の体入ってことだから時給は2000円になるけどいい?これで正式にキャストになれば時給は4000円になるから」

時給2000円でも多いくらいだと思った。

しかもキャストになれば倍の額がもらえる。

「問題ありません」

「よし、じゃあ今日は体入ということで。ドレスとかはあるの?」

「一式ゆいかが貸してくれました」

「そう、だったらヘアメイク代だけだね。これは1000円給料から引くことになるから」

これは致し方ないだろう。

「わかりました」と返事をして、面接はあっさりと終わってしまった。

「あ、源氏名はどうする?自分で決めてもいいしこっちが決めてもいいけど」

正直なんでもいい。

お店でしか呼ばれない名前なんだから好きに呼べばいいと思っていた。

「ではこっちで決めさせてもらうよ」

岩田は紙を取り出し、ジッと眺めている。

どうやら源氏名の候補を書き溜めているらしい。

マメな男だなと思った。

「よし、ナミにしよう」

ピンとこないが、何でもいいと言った手前、文句は言えない。

「じゃあ早速支度して入ってもらうからね」

よろしくお願いします、とお辞儀をしてから更衣室へ案内された。

中に入ると、着替え終わった聖菜が待っていた。

他にも3人着替えている。

その子たちに向かって聖菜が話し始めた。

「あ、紹介しておくね。わたしの友達で…」

「ナミです。よろしくお願いします」

「よろしくー」と一言返されただけで終わってしまった。

まあ、深く付き合うつもりもないので、これでいい。

「ナミって名前にしたんだ」

「別に源氏名なんてなんでもいいからね」

有紗も着替えないといけないので、

服を脱ぎ始めると着替えていた一人が「デカっ」と言ってきた。

「何カップ?」

ああ…胸か。

「Gだけど…」

「Gってでかすぎ!でもその割に垂れてないよね。羨ましいわ」

女になってまだ数か月しか経っていないので垂れていない。

いくらちゃんとブラをしても重力には逆らえないので、いずれは垂れてくるだろう。

「はは…どうも」

苦笑いをしながら着替え終え、今度はヘアメイクだった。

緩く巻いてもらい、鏡に映るその姿はキャバ嬢そのものだ。

「完璧だね。あとは実践あるのみ!」

聖菜に押されるようにお店に出ると早速ボーイに呼ばれた。

「ゆいかさん、ナミさん。3番テーブルです」

いきなり接客か…でも相原と一緒だからまだマシかな。

テーブルには30代後半くらいのスーツを着た2人が座っていた。

「失礼します」

それぞれ男の隣に座ってから挨拶をする。

「はじめまして、ゆいかです」

「ナミです」

基礎は聖菜に教えてもらっている。

「どこかで飲んでいたんですか?」

話しかけながら水割りを作った。

「そうなんだよ、さっきまで飲んでて、女の子と話をしたかったからキャバクラに来たんだ」

「そうだったんですね。どれくらい飲んだんですか?」

「5杯くらいかな」

そういいながら男は作った水割りを飲み始めた。

「それにしても胸大きいね。なあ」

一緒に来ている仲間に声をかけ、「すげーでかい」と言っていた。

男ならそうなるよな、ましてやこういうお店じゃ。

「でも大きいと大変なんですよ。肩凝るし太って見えるし、ね」

聖菜に同意を求めてみた。

「そうそう、わたしはEなんだけどそれでも邪魔と思うときあるし」

「でも俺は大きいおっぱい好きだけどな」

そう言いながら有紗の谷間を凝視していた。

男って本当にバカだな。

といっても、こんな谷間を見せていればそうなるのも当たり前だろう。

見せているのは自分だし、見るのはタダだから好きに見ればいい。

このあと、仕事は何してる?家はどこ?結婚してる?などたわいもない話をしていたら、

ボーイから呼ばれてしまった。

指名じゃないので20分くらいで次のテーブルへ移動する。

「呼ばれちゃったので失礼します。楽しんでいってくださいね」

ここからは聖菜と別のテーブルになる。

さっきは聖菜がいたおかげで何とかこなせたが、

ここからは自分で頑張らなければいけない。

若干緊張しながら指定されたテーブルに行く。

今度は50歳くらいと40歳半ばくらい、あとは20代後半くらいの男性3人組だった。

みんなスーツなので会社の上司と部下といったところだろう。

付いている女の子2人に面識はない。

隣が空いているのは50代くらいの男性だった。

頭が少し薄くなっていて、お腹も出ている。

わかりやすく言えば典型的なオヤジだ。

別に誰でもいいけど、どうせならあの若いやつのほうがよかったな。

そのほうが話が合いそうだったのに。

しかしわがままは言えない。

「失礼します。ナミです」

軽く会釈をしながらオヤジの隣に座った。

「おお、こりゃすごい巨乳がきたな。わははは」

相当酔っぱらっているのか、オヤジは上機嫌だった。

他の男も、知らないキャバ嬢も「ホントだ」と言いながら有紗の胸を凝視している。

「そんな見ないでくださいよ。恥ずかしいじゃないですか」

自分で見せといてよく言うなと、自分自身で思ってしまった。

オヤジのグラスについている水滴をおしばりで拭いてから、氷を入れ、焼酎と水で割って

「はい、どうぞ」と差し出してあげる。

オヤジはそれを飲みながら年齢を聞いてきた。

「27です。もうすぐ30ですよ」

「まだまだ全然若いじゃないか。俺なんかいくつだと思う?」

正直に言っていいものなのだろうか?

かといって若く言うと嘘にしか聞こえない。

「50くらいですか?」

正直に言ってみる。

「残念、55だよ。5歳も若く見られちゃったよ」

わははと笑っている。

それを聞いた部下たちも「よかったですね」と機嫌を取っていた。

真面目な部下たちだな、と思った。

見てみると、ほかのキャバ嬢たちは飲み物を飲んでいる。

客に出してもらうドリンクと指名料は自分に返ってくると

事前に聖菜から聞いていたのを思い出した。

このオヤジならいけそうだな。

「わたしも何か飲んでいいですか?」

「いいよ、好きなの飲みな」

思った通りだ。

なるほどね、こういう酔っぱらって上機嫌な男は簡単なんだな。

一杯2000円するカクテルを頼む。

ぼったくりだな、この値段。

でも自分の収入になるからありがたくいただく。

乾杯をして、オヤジの話を聞きながら「そうなんですね」「すごーい」など

適当に相槌を打っていたら、あっという間に20分が過ぎていた。

「呼ばれちゃったので…」

「もう?俺ナミちゃんのこと気に入ったから指名するよ」

2人目で指名されるとは思っていなかったので、ラッキー。

「ホントですか?ありがとうございます」

適当に相槌を打っていたが、話しはどんどん下系へと移っていく。

「ナミちゃんはどんな体位が好きなの?」

女になってから経験のない有紗は言葉に詰まってしまった。

正直に答える必要なんてないが、未経験とも言えない。

「あっえーと…」

すると相席していたキャバ嬢のはづきという子が会話に割り込んできた。

「わたしはバックが好き!後ろからって気持ちいいんだよね」

「おお、俺もバック好きだよ。仲間だな、わははは」

はづきが話題を持っていってくれたおかげで、有紗に下ネタがくることはなかった。

助かった…

心の中で安どのため息をつく。

そうか、こういう話もでてくるよな…

この3人組は延長して計1時間半くらいで帰っていった。

下ネタのせいで疲れがドッとでた気分だ。

入り口までお見送りし、「ありがとうございました」と手を振ってから

すぐ別のテーブルへ移動する。

金曜ということもあり、客はひっきりなしに来る。

落ち着いたのは深夜の1時くらいになってからだった。

客が減ってきたので、待機所で待つことになった。

聖菜はまだ接客中。

座っていると先ほど助けてくれたはづきがやってきた。

よく見ると有紗より少し若い感じで、可愛らしい顔立ちだった。

髪はロングでツヤツヤ、背も小柄で華奢なタイプだ。

「おつかれさま。ナミさんだっけ?体入なんだね」

「あ、はい。さっきはありがとうございました」

「さっき…ああ、あれね。っていうか敬語じゃなくていいよ。わたしのほうが年下だし。27だっけ?わたし24」

3つ下か、まあタメ語でいいならタメ語で話そう。

だが、有紗が話すより先に、はづきが耳に顔を近づけて言ってきた。

「ナミさん、身体女性化病でしょ?」

全身に冷たい何かが駆け巡った。

何でバレた?

今までバレたことなかったのに。

「なんで知ってる?って顔してるね。だってわたしもだもん」

「え??」

はづきも身体女性化病?ってことは元男?

「別に言う必要ないから言ってないし、今は戸籍とかも全部女性だからいいんだけどね」

まさかここで同じ病気になった人に出くわすとは思ってもいなかった。

しかも同じキャバ嬢で。

「もう3年経つかな。ナミさんは?」

「えっと…4か月かな」

「へー、4か月でそこまで女らしくなれるのってすごい!わたし2年くらいかかったもん」

それはきっと聖菜のおかげだろう。

自分一人の力ではここまでなれてないと思う。

それと目的があるから。

「でも…なんでわかったの?同じ病気だとしても見分けられないよ」

「うん。普通にしてたらね。でもさ、さっき下ネタ振られたときにあれ?って思ったの。恥ずかしくて答えられない感じじゃなかった。困った顔していた。困る理由って一つしかないよね、未経験。でもナミさんみたいな人が未経験なんてありえない。ありえるとしたら…」

そういうことか。

元男だからそれで察したというわけだ。

「ナミさん、まだ彼氏とかいないんだよね?」

「まあ…まだ4か月だしね」

「そっかぁ。でも女として生きると決めて、こういうお店でも働くということは男の人と付き合うとかエッチとか、いずれはするとかってことだよ。だったら早いほうがいいよ。特にエッチは。それによって女ってこういう感じなんだっていうのもわかるし、より自分を女と感じることができるよ」

言っている意味はわかる。

しかも復讐を成功させるためには、それも通らないといけない。

「そうだね…」

「わたしも最初は男なんて好きになれるのかなって半信半疑だったけど、とりあえず元から付き合いのある男友達と酔った勢いでエッチしちゃったんだ。そしたらエッチって気持ちいい、抱かれるのって心地いいって思うようになって、それからほかの人ともエッチしたりしているうちに、気が付いたら男の人を好きになっていたんだ」

体験談はとても説得力があった。

でも男を好きになる必要はない。

それでも近いうちにエッチは経験しておいたほうがいいと思い始めていた。

それによってさらに自分が女ということを自覚して、

より魅力が増すかもしれないと思っていたからだ。

「いろいろありがとう。なんかすごく参考になったよ」

「ううん、同じ病気をして、女として生きてる人は仲間だから」

仲間…そうかもしれない。

これは同じ経験をした人にしかわからない。

「一つだけアドバイスしてあげる。ああいう下ネタを言われたときは、適当に答えるか、そんなの言えなーい、とかって笑顔で言えばいいんだよ。困った顔するのが一番ダメ。だって相手は単なる酔っ払いなんだから、適当なこといっても問題ないんだよ」

なるほど、これも慣れなのかもしれないが肝に銘じておこう。


このあと接客、休憩を何度か繰り返して4時、閉店でやっと上がりの時間になった。

「なんとなくこなせてたね」

「思った以上に疲れたけどね」

「それより、はづきちゃんと仲良くなったの?」

「あ、そうだね。仲良くなった…かな」

病気のことは言っていないといっていたので、聖菜にも黙っておいた。

着替え終わると店長に呼ばれた。

「問題なさそうだね、明日から正式にキャストってことでいい?」

「いいんですか?ありがとうございます」

こんなあっさりと正式採用されるのか。

少し拍子抜けしたが、ホッとした。

このあとワンボックスの車に乗せられ、順番に家まで送り届けていく。

聖菜のほうが近いので先に降りていった。

「お疲れさまでした」

軽く聖菜に手を振ると聖菜も手を振ってきた。

はづきも途中で降り、有紗は最後から2番目だった。

「ありがとうございました」と言ってからスライドドアを閉める。

時間は5時になっていた。

ドアを開け、中に入ってから鍵を閉める。

パンプスを脱ぐとそのままベッドまで行ってダイブした。

「なんか疲れたなぁ…それに眠い」

お風呂は起きてからでいいかな…

メイクだけ落とし、パジャマに着替えてからベッドの中に潜り込む。

明日も出勤か…しかも相原はいないんだよな。

聖菜は金曜と祝日前夜しか出勤しない。

少し心細かったが、結局聖菜と一緒だったのは最初だけで、

あとは一人だった。

それにはづきという仲間もできたので、なんとかなるかなと前向きになった。

エッチか…どんな感じなんだろうな…

そんなことを考えていたら、いつの間にか眠りについていた。


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