表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憎しみの果てに  作者:
11/34

聖菜と一緒に

女性社員となって1か月が過ぎた。

前よりも自然に女性っぽい口調で話すようになり、

また毎日スカートで出勤しているため、股を開く癖も治るようになってきた。

メイクの腕も上達し、自然に女性に溶け込めるようになっていたが、

これもすべて聖菜のおかげだろう。

特に口調などは会社で隣にいるので、男っぽい口調が出たときは必ず注意してくれる。

股を開く癖を治すためにスカートを履かせたのもちゃんと効果があった。

聖菜には感謝しかない。

それに食事も気を使うようになったから少し痩せた気もする。

でも聖菜や千帆ほど痩せてはいないので、もっと痩せたいと考えていた。

ジムにでも通おうかな…

仕事中にちょっと相談してみることにした。

「ねえ相原、ジム行こうかなって思うんだけど、どう思う?」

「運動は大事だからいいと思う。でも有紗ちゃんはどうなりたいの?」

「どうって…とりあえずもっと痩せたい」

「それはわかってる。問題はどうやせたいのか。引き締まった感じに痩せたいのか、しなやかな感じになりたいのか。有紗ちゃんが望んでるのは後者だよね?」

聖菜は復讐計画の内容を知っているので的確に言ってくる。

「だったら」と言ってから話してきた。

「ホットヨガがいいよ。ホットヨガはしなやかな体つきになるし代謝もよくなって痩せやすい体質になるよ。もし有紗ちゃんがやるって言うなら、わたしが行ってるお店を紹介するよ」

有紗にとって聖菜の言うことは今まですべてが参考になった。

これも信じてみることにしよう。

「わかった、やってみるよ」

「ホント?じゃあ今日から早速行こうよ!友達紹介するとポイントもらえるんだ」

それが目的か。

でもポイントとか気にしてるんだ、なんだかんだ言って相原も普通の女の子なんだな。

今まで以上に親近感が湧いたような気がした。


仕事が終わり、移動しながら説明してくれた。

聖菜が行っているのは、ホットヨガで全国一の規模らしい。

CMでもやっているので有紗も知っていた。

聖菜の住んでいる最寄り駅にもスタジオはあるし、

調べたら有紗の最寄り駅にもスタジオがあった。

「わたしが行ってるところは女性専用だけど有紗ちゃんの近くのとこもだね」

「女性専用とか男性専用とか決まってるの?」

「やっぱりヨガやってるのは女性が多いから、どうしても女性専用が多くなるんじゃないかな。大きいところだと男女共用とかもあるよ。男女共用のところも行ったことあるけど、わたしは男性がいても気にならないかな。レッスン中は集中してるから、まわりは気にならないの。ただやっぱり近所のほうが行きやすいから」

「ふーん、そういうもんなんだ」

まあ、こっちも元男だから気にしないけど、

とりあえず行くところが女性専用だっていうからな。

他にもレッスン内容がいろいろあるということや、

大量に汗をかくということなどを教えてもらっているうちに

スタジオへ着いてしまった。

最初に聖菜が入り、そのあとに続いて有紗も中に入った。

すると受付の女性が笑顔で「こんばんは」と挨拶をしてきて、

聖菜も慣れたように「こんばんは」と返事をしていた。

「今日、友達を連れてきたんです」

「本当?ようこそ」

女性は受付から出てきて有紗の前にやってきた。

同い年くらいだろうか、とてもスタイルがよくて肌もきれいでさすがだと思った。

「インストラクターの高田です。まずはアンケートを記入してください」

「は、はい…」

有紗が記入を始めたのを見て、聖菜は「じゃああとはお願いしますね」と高田に声をかけ、

受付をしてからロッカーの鍵を受け取って更衣室へ行ってしまった。

仕方ない、とりあえずこれをさっさと記入しよう。

諸々記入してから、高田が説明してくる。

「ホットヨガをやると汗をたくさんかくので代謝がよくなるんですよ。それにインナーマッスルを鍛えるのできれいな体つきになります。美肌効果もあるし太りにくくなったりと、続けていくと良いこと尽くしなんです」

「はぁ…」

聞いているだけでは実感がわかない。

でも聖菜を見ていて正しいような気もしたし、

目の前にいるインストラクターの高田がそれを証明している。

「とりあえず今日は体験なので、深く考えずに楽しんでください」

「わかりました」

「では着替えてきてください。着替え終わったらバッグの中に入っているタオルと水のペットボトルも持ってきてくださいね。いっぱい汗をかくので水分補給をしないと脱水症状になっちゃうんです。それと汗を拭くためにタオルが必要なので」

そういって着替えとタオルとペットボトルの入ったバッグを渡される。

「あとメイクは落としてくださいね。メイクしたままだと汗が拭けないので。シートとかあります?」

一応バッグに入っているので「はい」と返事をした。

それよりも着替えか…女子更衣室だもんな。

女性の身体には慣れたし自分が女性という自覚もあるが、

他の女性がいるところで一緒に着替えるのは初めてなので緊張と罪悪感みたいなものがあった。

そこへ着替えが終わった聖菜がやってきたが、

ブラトップにレギンスという格好だったので少し驚いてしまった。

しかし見えているお腹はくびれていて、よりスタイルがいいのが伝わってくる。

「先にスタジオに入ってるからね」

何事もなかったかのように聖菜はヨガマットを持ってスタジオに入っていった。

大胆すぎないか?俺のウェアもあんなのなのか?

不安になりながら更衣室へ入る。

更衣室は広くてとても清潔感があった。

パウダールームとシャワールームがいくつも完備されている。

へー、女性の更衣室ってこんな感じなんだ。

男の頃にジムへ行っていた時期があったが、こんな広くてキレイな感じではなかったので、

ちょっと斬新だった。

中には他にも着替えている女性が何人かいる。

みんな女性しかいないので気にせず着替えているが、

見慣れない光景に有紗は少し恥ずかしくなる。

端のほうでコソコソと着替えることにした。

バッグの中にはパット付きのキャミソールとレギンスが入っていたのでホッとした。

聖菜みたいにスタイルよくないからな…

着替えてメイクを落としてから、言われた通りタオルとペットボトルを持って更衣室を出ると、

入り口では高田が笑顔で待っていた。

「ではスタジオに行きましょう」

中に入ると、思った以上に蒸し暑くなっていた。

まるで湿気の多い夏の外のような感じだ。

思ったより広くて正面は鏡張りになっている。

すでに10人以上の人が中に入っていて、ヨガマットの上でストレッチなどをしていて、

聖菜も端の前のほうで身体をほぐしていた。

聖菜と同じようにブラトップの人もいれば、有紗と同じようなキャミソール、

スポーツブラだけ、Tシャツを着ている人など様々だったが、

誰も格好を気にしている人はいなかった。

要は動きやすければなんでもいいってことか。

そんなことを思っていたら、高田が話しかけてくる。

「鈴木さんはここです」

すでにヨガマットが敷いてあったが、その場所はど真ん中の前のほうだった。

おそらくその前がインストラクターの高田の場所だろう。

「あの…もっと端のほうでいいんですけど…」

「いえ、初めての方は前のほうでインストラクターが見やすい位置でやってもらうことになっているんです。大丈夫、そんな不安がらないでください。楽しくやりましょう」

「は、はぁ…」

「では時間までお待ちください」

そういって高田は一度スタジオから出て行ってしまった。

レッスンの時間まではあと7分ほどある。

待つって言われてもなぁ…

聖菜に話しかけに行こうと思ったが、スタジオ内で会話をしている人は誰もいない。

聖菜も一瞬目が合ってニコッとしただけで近づくような素振りも

話しかけるような素振りもなかった。

ゆったりとしたBGMが薄く流れているだけで、みんなストレッチをするか寝ているか、

とても会話などできるような空気ではない。

仕方なくマットの上に座ると、その上にタオルのようなものが敷いてあった。

捲ってみると、裏がザラザラしていた。

なるほど、滑り止めってことか。

待つといっても何をしていいのかわからないので、

なんとなく座ってボーっと過ごすことにした。

その間、新しい人たちが中に入っては、印のついたところにマットと

滑り止めと汗を吸収してくれるラグを敷いて準備をしている。

数えてみると20人、これくらいの人数が集まるのか。

自分たちと同じくらいの年齢の人もいれば、30代、40代、50代くらいまでの人もいる。

つまり、年齢問わずホットヨガは人気だということを証明している。

時間の1分くらい前になったら高田が入ってきて、

有紗の前に座ってあぐらの姿勢になった。

まわりの人たちもあぐらになって座るので、有紗も慌てて同じように胡坐になった。

「皆さん、こんばんは。今日のレッスンを担当する高田沙季子です。よろしくお願いします」

そういって手を合わせてお辞儀をする。

「よろしくお願いします」

みんながそう言って同じように手を合わせてお辞儀をしたので、

見よう見まねで有紗もやっていた。

そして沙季子がレッスン内容を説明してから、すぐレッスンに入っていく。

沙季子が言いながらやっている動きをやりながらチラッとまわりを見ると、

みんなも一緒にやっている。

ほほう、こうやって進んでいくのか。

軽いストレッチのような動きをしたあと、今度は四つん這いの姿勢になった。

ヨガをやるうえで四つん這いによくなるが、未経験の有紗は不思議な感じだった。

四つん這いってあんまならないけど…これ谷間がすげー見えてるな。

正面に映る自分の姿を見てそう思った。

他の女性も谷間が見えている人が何人もいる。

これなら女性専用のほうが多いのも頷けるな。

そんなことを考えていたら、キャットストレッチに入っていた。

最初に背中を丸めた後、今度は胸を張る。

これを呼吸しながら繰り返していく。

ヨガは呼吸が大事になる。

さっきから沙季子が「吸って…吐いて」という言葉をよく使っている。

そのあと四つん這いのまま右足を上げるポーズになっていた。

とりあえず上げていると、沙季子が立ち上がって巡回しながら

みんながちゃんと出来ているかチェックしている。

そして有紗のところにやってきて「もう少し足を伸ばせます?」

どうやら膝が曲がっていたらしく、無言でまっすぐに伸ばしてみた。

「そうそう、そうです」

そう言ってすぐに自分の場所に戻ってから次のポーズに入っていく。

しばらく四つん這いからのポーズが終わると、

一度汗を拭いて水を飲むように言われたのでタオルで腕を拭いてみると

結構汗をかいていたので驚いた。

そして水を飲んだら今度は立ちポーズ。

チェアポーズや鷲のポーズ、三角のポーズなどを次々にやっていく。

特に三角のポーズが思ったよりもきつかった。

普段伸ばさない脇腹を伸ばすと同時に体幹も鍛えるのでプルプルしてしまった。

このように楽そうで意外ときついポーズが多いのだが、どこか気持ちよさがある。

おそらくそれは大量の汗をかくからだろう。

やればやるほど汗が噴き出てきて、普通の運動でもこんなに汗をかかないのでは?

と思ってしまうほどだ。

残り時間が10分くらいになると再びストレッチのようなことをやり、

最後に安らぎのポーズで数分休憩して終わりとなった。

結論から言えばあっという間だった。

そして思った以上に楽しいかもしれない。

胡坐の姿勢になり、「ナマステ」の言葉をみんなでいって、レッスンは終了した。

みんなが片付けて出ていく中、沙季子は有紗の前にやってきて「少しお待ちくださいね」と

言ってから扉のところまで移動してレッスンを受けて出ていく客たちに

「お疲れさまでした」と声をかけていた。

中には沙季子と会話をしている人もいる。

「どうでした?」

「すごく気持ちよかったです」

「よかった、また受けてくださいね」

「髪切ったんですね、すごくいいですよ」

「ホントですか?ありがとうございます」

レッスンの話もあれば、日常的な話もある。

へー、みんなインストラクターと仲がいいんだ。

そこへ聖菜がやってきて普通に話しかけてきた。

「着替えて待ってるね」

「あ、うん」

普段の聖菜とは想像がつかないほど汗をかいて髪がボサボサになっている。

それなのにキレイに見えてしまったのが不思議だった。

その聖菜も出ていき、誰もいなくなってから沙季子が戻ってきた。

「お待たせしました。どうでした?」

「すごく汗をかくんですね。でもなんかスッキリしたというか、疲れたんだけど程よい心地よさがあるというか…嫌いじゃないです」

素直に答えると、沙季子が笑みを浮かべていた。

「そう言ってもらえてよかった。鈴木さんがよければ正式に入会しませんか?続けていくことで代謝もよくなって痩せやすい身体になっていきますよ」

こういうのは続けることが大事になる。

どうせ帰ってもまだやることはないし、ホットヨガに時間を費やして

キレイな体になるのも悪くない。

そうなれば答えは一つしかない。

「やります」

「ありがとうございます。一緒にキレイになりましょうね。では着替えたら具体的な説明をさせてください」

更衣室に戻ると、すでに着替えていたり、シャワーを浴び終えたり、パウダールームで

メイクを直している女性たちでごった返していた。

裸だったり下着姿だったりで、目のやり場に困ってしまいそうだ。

そんななか、シャワーを浴び終えてバスタオルで前を隠している聖菜がいた。

「有紗ちゃんもシャワー浴びたほうがいいよ」

恥ずかしい素振りも見せない聖菜。

「う、うん…」

有紗は逃げるように空いているシャワールームに飛び込んだ。

ウェアを脱ぎ、すぐシャワーを浴びる。

ああ気持ちいい…

汗をかいた後のシャワーはなぜこんなに気持ちいいんだろう。

至福のときを過ごしてシャワーを止めて気が付く。

あ、着替えはロッカーの中だ…

拭いてから仕方なく聖菜のようにバスタオルを広げて前を隠すようにして

シャワールームを出る。

すると下着姿の聖菜がちょうど着替えている最中だった。

「有紗ちゃん入会するの?」

「そ、そのつもりだけど…」

聖菜を見ないようにして素早く着替え始める。

「あれ、ひょっとして恥ずかしがってるの?」

「そ、そういうわけじゃ」

「別に女同士なんだから気にしなくていいのに。入会するんだったら毎回こうやって着替えるんだよ」

それはわかっているが、実際に知っている女性が目の前で着替えているのも

自分がその人の前で着替えるのも恥ずかしいんだから仕方がない。

なるべく気にしないように着替え、パウダールームの前に立つ。

メイクはいいよな…もう帰るだけだし。

聖菜もドライヤーで髪を乾かしているだけだったので、

有紗も同じように髪だけを乾かすことにした。

一通りの準備も終わったので聖菜に聞いてみる。

「先に帰るでしょ?わたしは入会の手続きとかあるから」

「そうだったね。んー…誘ったのわたしだから待ってるよ。行こう」

そう言ってから聖菜がバッグを持って出ていくので、とりあえず後を追う。

更衣室を出て受付の前まで行くと沙季子が笑顔で待っていた。

「お待ちしてました。では説明するのでおかけください」

横長の椅子に座らされ、沙季子は膝立ちの状態で説明を始めた。

その間に聖菜は受付でロッカーの鍵を返却して会員証を受け取っていた。

「まずコースの説明をさせてもらいますね。コースは3つあって、1か月全店舗通い放題、こちらだとバスタオルも無料で貸し出しで16000円になります。次に最大2店舗選んで通い放題のコース。こちらだと15000円でバスタオルは別途有料になります。それと月4回のコース、こちらは9000円でやはりバスタオルは別料金になります。コースはお客様の通いやすいものでいいんですけど、私どもでは通い放題を勧めています。やはり頻繁に通っていただくほうが、より効果が出ますので」

思ったより高いな…

それが率直の意見だった。

ジムとかでも平均で月1万程度、それの役1.5倍くらいの料金だ。

けどやると言ってしまった手前、辞めますとも言いづらいし、

月4回だと沙季子も言っていた通りあまり効果がなさそうにも思える。

となると選択肢は2つ。

そんな何店舗も通うつもりはないけど、1000円高いだけでバスタオルが

無料で借りれるのは大きい。

持参してもいいけど仕事帰りとかに行くなら荷物は少ないに越したことはない。

「全店舗通い放題にします」

「わかりました。では入会の手続きをしますので、目を通りしてからサインをしてください」

渡されたのはタブレットだった。

これに細かい規約などが記されている。

前から思うのが、こういうのを一字一句ちゃんと読む人はいるんだろうか?

少なくとも有紗は読まない。

下にスクロールしてから、鈴木有紗とペンで明記してから

タブレットを沙季子に渡した。

「はい、では向こうで作業してくるのでお待ちください」

沙季子は受付の奥にある部屋に入っていった。

その間に次々と着替え終わって帰る客たちが出てきて受付が少し混雑していた。

「ねえねえ、どの店舗通うの?」

いつの間にか聖菜が横に座っていた。

「そりゃ家の近くだよ」

「そっか、残念。有紗ちゃんと一緒に行くの楽しみだったのに」

「一緒に来てもレッスン中は会話しないんだから意味なくない?」

「そうだけど、一緒に行くほうが楽しくない?」

「うーん…」

初回こそ一緒のほうがよかったけど、終わった後は早く帰りたい。

だから聖菜には申し訳ないけど、やはり家の近くのスタジオに通う。

それに…やはり聖菜と一緒に着替えたりするのは恥ずかしいし、

見たらいけないものを見ている気がしてしまう。

「やっぱり近いところにするよ。帰ってからもう一度ちゃんとお風呂にも入りたいし、そのあとのスキンケアとか髪乾かしたりしたら結構いい時間になっちゃうから」

「じゃあ週一だけ一緒に行こう。ならいいでしょ?」

なんでこんなに一緒に行くことにこだわるんだろう。

聖菜は有紗の返答を待たずに続けた。

「友達と一緒にレッスン受ければ終わった後に「今日はどうだった、ああだった」って会話が帰りながらできて楽しいよ」

まあ、わからなくもないけど…ん?

「待って、友達というか同僚でしょ?」

「有紗ちゃん、そういうこと言うんだ。わたしは同僚だけど友達って思ってたのに」

もういいよといって、少し不貞腐れた顔をしている。

待て待て、なんかキャラが変わってないか?

それともこれが本当の相原なのか?

ヨガをやったことで爽快な気分になってるせいか、普段の聖菜っぽくないことに

有紗は戸惑った。

完全に相原のペースじゃないか…まったく。

「わかったよ。その代わり週一だけね」

すると聖菜の顔がパァっと明るくなる。

「うん、それと友達だよね?」

有紗は一瞬考えた。

女になってから、職場以外の人とは基本的に連絡を取っていない。

やはり性別が変わったことで今までのような付き合いができないと思ったから。

そうなると一番接しているのは聖菜になる。

ここまで女らしくなれたのも聖菜のおかげだし、

まあ…間違ってもないか。

「そうだね、友達…かな」

そこまで答えたところで、沙季子が戻ってきた。

「お待たせしました。これが契約書でこっちが鈴木さんの会員証です」

これで正式な会員となった。

受け取りながら沙季子が注意事項を説明してくれた。

「基本的にレッスンは予約制になりますので、会員専用のホームページから予約をしてください。たまに、ギリギリに予約すると定員オーバーで受けられないケースもありますのでご了承ください。それとレッスンの15分前までに受付をしてください。レッスンは途中からは受けられませんので」

「わかりました」

「それと…」といって沙季子が付け加えてくる。

「レッスンの2時間前後の食事は控えるようにしてくださいね。じゃないと吸収しちゃってレッスンで消費したカロリーが無駄になっちゃうので」

2時間前後…ということは19:00のレッスンを受けて、終了したのが20:00だから

食べていいのは22:00。

その時間から食事をするのは絶対によくない。

逆にその2時間前だと17;00までに夕食を取らないといけない。

定時が18;00だから仕事中にヨガに行くからご飯食べますといって

食べるわけにはいかないし、今までもその時間に聖菜が夕食を食べているのも

見たことない。

「つまり夜は食べないってことですか?」

「ドレッシングなしのサラダとか低カロリーの栄養ゼリーなどだったら大丈夫ですよ。うちに通っている方たちはほとんどそうしています。慣れるとそれが当たり前になるので苦にならないですし」

まあ、そういうもんなんだろうな。

けど、最近の夕食は軽いものばかりにしていたせいか、そこまでお腹も減っていないし

なんとかなるかな。

ここでも「わかりました」と返事をして、諸注意は終わった。

「次に必要なものですけど、ウェアとラグはご自身で用意していただくことになります。レンタルもできますが、毎回有料なので買われたほうが安上がりですよ」

ラグは、ヨガマットの上に敷く滑り止め用のシーツのようなものだ。

ヨガをやるうえでは必需品となる。

ああ、それらも買わないといけないのか…

家を買うための貯金があるからと言って、何十万も使ってしまっている。

それでいて、新しいコスメを買うのに高いデパコスを選んだり、

少し高めの服を買ったりしているので、そろそろ考えて出費しないといけないと

考えていたばかりだった。

でもそれらがないと始まらない。

「ここで買います?それともご自身で揃えます?」

考えるより先に聖菜が言ってきた。

「ここで買ったほうが楽だよ。ラグなんかほとんどの人がここで買ってるし、ウェアは人によってだけど、わたしはここのウェアが着やすくて好きだな。デザインもかわいいし」

「ありがとうございます」と沙季子が聖菜に言っていた。

あー…もう何でもいいや。

あれこれ考えるのが面倒くさい。

「ここで一式揃えます」

ということで、一式買ってしまった。

しかも2つあれば毎日通えると聖菜に言われ、ラグを2枚、パッド付の青とミントのキャミソールも2着、そして黒とグレーのレギンスを買って3万近くの出費をしてしまった。

でも2セットは確かに必要になる。

大量の汗をかくので必ず洗濯をしなければいけないので、乾かすのまで考えると

2セットないと毎日は通えない。

こういうのって初期投資はかかるもんだよな。

自分にそう言い聞かせ、納得するしかなかった。

でも実際に楽しかったし、これで痩せられればもっとイメージ通りになる。

有紗は少しだけ前向きになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ