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憎しみの果てに  作者:
1/34

異変

この作品は何年か前に途中まで書いていたものを手直ししながら完成させたものです。

前作がちょっとリアリティに欠けていたので、今作は自分の中での基本に立ち返り、

なるべくリアリティを重視して書きました。

もちろん男→女になる内容です。

今までの作品は主人公が若いケース(中学生~20代前半)ばかりでしたが、

今作は当初からイメージしていたものが若い主人公だと成り立たないので

20代後半にしました。

おかげで全体的に大人向けなストーリーに仕上がったかなと思います。

予定の結末とは変わってしまったんですけどね。。。

それと、過去作以上にいろんな人の視点だったり、文学的な表現を織り交ぜているので

そういった点でも楽しんでもらえたら嬉しいです。


よかったら最後までお付き合いください。



どうも最近身体が怠い。

最初におかしいと感じたのは一週間前。

そのときは少し怠い気がする程度だったが、

ここ2、3日は慢性的に怠さが続いている。

一応熱を測ってみたが平熱だったので、あまり気にしないように生活していた。

少しフラフラしながらリビングに移動すると

おいしそうなお味噌汁の匂いがしてきた。

妻の真子がキッチンで朝食の準備をしていたが、

リビングに来た啓介に気づいて、そこから声をかけた。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

「なんか最近ずっと調子悪そうだね。会社休んで病院に行ってみたら?」

「大丈夫、怠いくらいで休むわけにはいかないから」

「ならいいけど…無理しないでね」

「うん、ありがとう」

座ってテレビを付けると丁度朝のニュースがやっていた。

政治や事件など、あまり興味はないが社会人として知っておかなければ

いけないことなので一応は見ているが、具合が悪いせいで集中できなかった。

すると出来立ての朝食を真子が運んでくる。

ご飯に味噌汁、それと目玉焼きというシンプルなもの。

それでも真子は毎朝ちゃんと作ってくれるので有難い。

「いただきます」

「全部食べれる?」

「だから大丈夫だって、そんな心配すんなよ」

真子に心配かけないように啓介は完食してから会社へ向かった。


ところが会社に着いても具合の悪さは変わらない。

「鈴木、お前具合悪そうだな。大丈夫か」

「あ、はい。大丈夫です」

「ならいいけど無理するなよ」

「ありがとうございます」

上司の桑田にも心配されてしまった。

そんなに具合悪そうに見えているのか…

気持ちを切り替えて啓介は仕事を続けた。

ところが午後になると、体調はますます悪化していく。

いつの間にか目まいまでするようになってきて、

さすがに仕事をするものしんどくなってきた。

これはさすがに病院へいったほうがいいかも…

どっちみちこんな体調では仕事にならない。

啓介は立ち上がり、桑田のところへ向かった。

「部長、すいません。やっぱり体調が悪いので早退させてください」

「わかった。3時からの打ち合わせは乾に行ってもらうから」

「わかりました。迷惑かけて申し訳ありません」

一度お辞儀してから、デスクワークをしている後輩の乾のところへ向う。

その途中で激しいめまいがして、一瞬倒れそうになってしまった。

それに気づいた何人かの同僚たちが心配そうに見つめている。

手で「大丈夫」とジェスチャーをしてから乾のところへ向かった。

「乾、悪いな」

「いいっすよ。資料ください、あとはちゃんと進めておくので」

乾達樹、元高校球児の乾は入社3年目だけど、いまだに口調が少し軽い。

それでも仕事はしっかりとできるので信頼できる相手だ。

資料一式を乾に渡し、説明してから啓介は会社を後にした。

電車に乗り、家の近くの総合病院へ行く。

その途中で何度も倒れそうになったが、気力で無事にたどり着いた。

病院は思ったより空いていたので、15分くらい待って診察の順番になった。

「今日はどうしました?」

「なんか一週間くらい前から調子が悪くて。熱はないんですけど」

「一週間前ですか。熱はないんですよね?」

「はい、ただ怠いのがずっと続いて、特にこの2、3日は。それに今日は目まいや立ち眩みもするようになって」

この話を聞いた医者の眉が少し引きつったのを啓介は見逃さなかった。

ややあってから医者が言ってくる。

「ちゃんと検査をしましょう。一度外でお待ちください」

「わかりました…」

検査…ひょっとして大変な病気なのか?

不安に襲われながら検査を受けた。

行われたのは血液、尿、レントゲン、MRIなど多数で終わった頃には夕方になっていた。

再び診察室へ呼ばれ、緊張しながら結果を聞くと、耳を疑うような結果を言われてしまった。

「身体女性化病…」

「知っての通り、残念ながらこれが発症すると現在の医学では止めることはできません。最初は怠い状態から始まり、これが一週間ほど続くと途中で目まいなどの症状がでてきます。鈴木さんは今がその状態ですね。さらに数日すると今度は全身が痛くなってきます。それと同時に急激な睡魔に襲われ、寝ている間に全身の骨格が変わり、それが終わると今度は皮膚や脂肪、声帯と徐々にいろんな部分が変化していき、身体つきが女性になります。それが終わると最後に子宮ができ、完全な女性になります。これらは一週間ほどかけて寝ている間にすべて行われるので目が覚めたときには痛みはなく完全な女性へと変化します」

医者は丁寧に説明してくれたが、啓介は絶望でほとんど耳に入っていなかった。

まさか俺がこの病気になるなんて…

愕然としながら啓介は病院を後にした。


家のドアを開けると、真子が出迎えてくれた。

「おかえり、体調どう?」

真子に言わなければいけない。

けど、もし言ったらどうなるんだろう…

真子は俺との子供をすごく欲しがっていた。

「啓介は何人ほしい?わたしは男の子と女の子2人ほしいの!」

笑顔で言ってくる真子の言葉が頭の中にこだまする。

真子との子供、欲しかったな…


同い年の啓介と真子は大学3年生の頃に付き合いはじめた。

キッカケは友達の紹介だった。

順調に交際を重ね、社会人になってもそれは続き、

そして26歳の夏、啓介がプロポーズをして結婚した。

今から半年前のことだ。

つまり2人はまだ新婚だった。


「真子、大事な話があるからソファーに座ってくれ」

「う、うん…」

いつになく啓介が真剣な表情だったので真子は緊張している。

並んでソファーに座り、啓介は真子を一瞬見てから視線を逸らし、

うつむき加減でポツリと口を開いた。

「午後に早退して…病院に行った。そしたら…身体女性化病だと…」

真子は言葉を失った。

2人ともショックでそれ以降言葉を発しなかった。

いや、発せなかった。

重い空気が流れる中、やっと口を開いたのは真子だった。

「入院とか…するの?」

「いや、する必要はないって。なんでもあと数日で身体が痛みだして、それと同時に寝てしまうらしい。それで一週間くらい寝ている間に身体が変化して…目が覚めたときには女になってるって…」

「そう…なんだ」

「ごめん…こんな病気になって…」

「謝らないで!啓介が悪いわけじゃないんだから」

「そうだけど…もう男として真子を幸せにすることはできない…子供も作れない…」

すると、真子は優しく啓介を抱きしめた。

温もりが合ってとても心地いい。

「どんなことがあっても啓介は啓介だから、心配しないで!」

「ありがとう、真子」

真子の優しさに触れ、啓介は少しだけ気持ちが楽になった気分だった。

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