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オイラは弾丸  作者: ツネワタ
6/6

第6話 【4分で読める2283文字】

カクヨムにも掲載中

 コメットたちは別の戦場にいた。新しく組まれた第二部隊にはフネラーリアの姿もある。


 彼らは主戦場となっている都市遺跡を目指して森の中を行軍していた。


 防戦一方の仲間から救援要請が入ったのだ。食料も弾薬も底を尽きそうなのだという。


 日差しが弱まり、第二部隊の面々を取り囲むのは陰やところどころに出来た暗がりだけとなっていた。枯れ潰えて中が空洞になってしまっている木からは、何かの眼光がチラチラと見える。追われる動物の金切り声とともに変形した幹の間を薄気味悪い風が通り抜けた。




 そして夜を迎えた。




 石で出来た寝床の上で震えながら、彼らは凍てつくような夜の風に吹かれ、堪らず背を丸くする。

 ほんの数時間前までは「まだ涼しいな」くらいにしか思えなかった風に彼らは身を任せていたというのに。


 今では雪風ヴィンターの頃よりひどく奥歯がガチガチと音を立て、コメットは照り付けてくる昼の日差しが恋しくなった。



「そういえば…… もうすぐ紫色彗星ポイニークーンが見れる頃だなぁ」

 フネラーリアが独り言のようにそう呟いた。コメットが「そうですねぇ」と応える。



「俺の名前―― 実はその彗星から付けられた名前なんです」

「そうだったのか。だったらより感慨深いだろうなぁ。名前を付けてくれた家族は元気か?」



「はい、元気だそうです。今度、従弟が結婚するらしくて式の準備に張り切ってますよ」

「ハハハハ! それは重畳! 生きていれば色んな事が起こる。俺も、お前もな」



「エヘヘ…… 今度その結婚相手に会わせてやると言われました。『きっと驚くぞ』って」



 底冷えする夜を明かし、彼らは再び行軍を開始する。

 しばらくすると彼らは開けた場所に出た。



《気を付けろ相棒。こういう開けた場所には地雷が仕掛けられてる事がある。慎重に進むんだ》

「わかってる。でも急がないと。今この時も遺跡で仲間は戦ってるんだッ……」



《そりゃそうだがよ…… 死んだら全部が無駄になっちまうぜ? 何より話し相手がいなくなるのは困るぞ。オイラは話すのが大好きなんだからよぉ》

「そうだな。宿主としてお前の快適な暮らしは死んでも保証するよ」



 国のためと奮い立って戦争に参加するにつけても、やはり片時も戦地においては生き残る命と思わなかった弱輩の自分が、こうまで幸運を重ねてきたかとコメットは思わすにはいられなかった。それもこれも薄命と思われた自身の灯火を想い、死に姿を想像しながら一所懸命に戦った愚直さのおかげで生き残ることが出来たのかもしれない。


 一か年真黒な服を親戚たちに着させ、楽しみにしている式を台無しにするのは御免だ。


 なぜなら彼は生きて帰りたいのだから。





 そして――。 





 コメットの前を歩いていたフネラーリアが地雷を踏み、起爆すると同時に周囲に飛び散った無数の細かな鉄球がコメットの身体中にめり込み、アニメのチーズのように穴だらけになった。


 すると、傍の草陰でかすかなウネリが生じて乱れていく。


 繁みの中をぶっきら棒に肩で切りながら、七人の帝国兵が森の奥から姿を現すのを死にかけのコメットが目にする。


 どうやら待ち伏せされていたようだ。


 地面に倒れる第二部隊の面々の所までゆっくりと進んできた彼ら彼女らは、第二部隊の死体を見つけると距離を取りながら生死を確認するために仰向けにさせ、銃剣で足→股間→鳩尾→首の順で何度も刺突する。




 こと切れたと思われていたコメットがその確認作業の流れで銃剣に刺され、「助けて…… 死にたくない……」と一つ呻くと二、三発銃弾を撃ち込まれ虫けらのように絶命した。





 帝国兵が「ざまあねぇ」と汚く笑う。





 その後、帝国兵に第二部隊の屍たちは次々と裸に剥かれ、蹂躙されていった。


 さらに帝国兵たちは鳥の餌になるように、とわざわざ彼らの死体を崖際まで運んで、手近の木に吊るしていく。

 死体はどれも自重でギリギリと首骨がへし折れ、通常の倍以上まで伸び、首が長くなる。



 銃剣で刺された傷口を鳥たちが啄ばむ事でパックリと大口のように開いて、中の白い骨と朱い肉が露わになってしまっており、いっそ解放感すらあった。



《あらら…… まさかこんな事になるとはなぁ》

 オッキョはまた退屈な日々が始まることを危惧したが、その心配はなかった。

 なぜなら。






『うん? なんだぁ? もうこんなに先客がいたのか』

【あんな分かりやすく隠されてる地雷なんか普通踏むもんか? まったくドジだなぁ】

〈やあやあ…… お仲間がたくさんいるなぁ。賑やかでいいもんだココは〉






 コメットの身体の中には帝国兵の放った弾丸や地雷の鉄球が無数にめり込んだままになっており、「宿」の中は以前よりも寧ろ賑やかになっていた。



 それに…… とオッキョは思う。



 雨が降っても枝葉が防ぎ、風が吹いても幹が盾になって守られ、何より傷口が広がった事で目の前の崖からは開放された美しい景色も望める。こんな事を言ってはアレだが、前より住みやすくなってしまった。



《最初は御国に帰るまでって約束だったけど、今じゃそれもご破算。相棒には悪いが住み心地も格段に良くなっちまった。それにしても……》


 死体が揺れる。まるでいつかの羅針盤のように。


《ハハハ! 相棒は本当に木に登るのが好きなんだなぁ》


 そして、自己紹介がてらオッキョは他の住人たちに向かって告げる。

 実に嬉しそうに。





《オイラは弾丸。名前はオッキョ。オイラは話すのが大好きなんだ》





 それから数日後。

 夜の空。「宿」の頭上で紫色の彗星が流れた。

 その光景はあまりにも美しかった。



 オッキョはその後もずっとその「宿」に居続けた。

 今日も、明日も、明後日も、その次の日も。賑やかな仲間たちと共に。


 なぜなら……。





 彼は何よりも話すことが大好きなのだから。

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